好まざるとも到来する「素人がAIでコンテンツを量産する時代」--それに備えるAdobeの新機能とは(石川温)

 「好む、好まざるに関わらず、AI時代はやってくる」

 こう力説するのはソフトバンクの宮川潤一社長だ。

 先日、行われた法人向けイベントで宮川社長は「2024年、生成AIに消極的な理由」と「2008年、スマホに消極的な理由」という2つのアンケート結果を提示。どちらも「必要性を感じない」「使い方、利便性に不安」「特に理由は無い」という意見が共通しており、「日本の経営層はAI活用に消極的だ」と嘆いた。


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 振り返ってみれば、iPhoneが日本に上陸した際、「ガラケーで十分」「スマホなんていらない」なんて意見があった。

 iPhoneを独占的に扱ってきたソフトバンクとしては、世間の関心の低さに当時は相当、嘆いていたはずだ。あれから15年以上、経過し、iPhoneをはじめとするスマホを導入していない企業は皆無に等しい。

 そんななか、10月14日にアメリカ・マイアミで開催されたアドビのクリエイター向けイベント「Adobe MAX」を取材した。

「プロ向け」以外も注力するAdobe

 基調講演で印象的だったのが、Adobe Expressの進化だ。

 Adobe Expressとは、SNSにアップする画像や動画、紙に印刷するポスターやチラシなどのデザインが素人でも簡単にできてしまうというツールだ。

 アドビといえば、PhotoshopやIllustratorなど、プロのフォトグラファーやデザイナーが使うソフトを提供している会社という印象が強いが、ここ数年はプロではない人向けのツールも強化する戦略をとっている。


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 アドビが特にターゲットにしているのが、企業内でSNSを使ってプロモーションをしている人たちや、店舗を持つ人たちだ。彼らは画像などのデザインを外注することもあるが、それではコスト的、また時間的にも負担が大きい。そうしたデザインを内製化していく上でAdobe Expressを活用して欲しいというわけだ。

 今回のアップデートでは、予め出来上がっている告知物に対して、文字にアニメーションを加えたり、背景画像を変更し、動画を埋め込むのも簡単にできる機能が盛り込まれた。また、SNSごとに異なるサイズやレイアウトに一発で変更できるだけでなく、テキストの翻訳にも対応した。

 単に画像に変更を加えるだけでなく、デザイン的に破綻しないよう、AIがうまいこと整えてくれるというのが頼もしかったりするのだ。

 企業では、SNSに向けた画像をマーケティング担当が自分でやらなくてはいけないことがある。SNSの活用に詳しくても「デザインセンスはまるでない」という人でも、Adobe Expressがあれば、それなりに格好いい画像が作れてしまう。

 また、今回、企業内でのコンテンツ制作がさらに便利になるアップデートが行われ、例えば、デザイン担当が作り込んだデザインやロゴに対してロックをしっかりとかけられるようになったことで、別のパーツに対してはマーケティング担当が自由にデザインを変えることができ、様々なSNSに配信できるようにもなった。これにより、ブランドガイドラインをしっかりと維持しつつ、デザインに詳しくない人が制作物に自由に手を加えられるというわけだ。

 これまでの生成AI活用といえば、まずはブラウザにプロンプトを打ち込むことから始まるような印象があった。しかし、アドビのScott Belsky(スコット・ベルスキー)氏は「これまでの生成AIはプロンプト時代であった。便利だったが、デザインを作る上では安っぽいものになってしまっていた。これからはコントロールできる時代になっていく」と語った。

 Adobe MAXでは、例えば動画編集ソフト「Premiere Pro」においては、動画生成AI「Firefly Video Model」により、足りない尺があった場合、動画の前か後ろを最大2秒、AIが動画を作ってくれて、足りない分を埋める機能が発表された。

 企業内でも製品やサービスのプロモーションビデオを作ることがあるだろうが、尺が足りないからといって、撮影を再度行うというのが多くの無駄が発生してしまう。Firefly Video Modelによって「ちょっと足りない尺」を簡単に埋められるというのは、かなり魅力的だといえるだろう。

 アドビのデジタルメディア事業部門代表であるDavid Wadhwani(デイビッド・ワドワーニ)氏は「生成AIは道具であり、人間の創造性を脅かすものではない」と力説する。デイビッド氏は「デジタルコンテンツの需要は今後2年で5倍に増える」と語り、クリエイティブ人材がさらに求められると語った。


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 企業にとって、SNSを中心にプロモーションや顧客接点を増やそうと思えば、将来的に莫大なコンテンツを作っていかなくてはいけなくなるとアドビでは語る。ますます現場が忙しくなる中、猫の手を借りるのではなく、今後はAIの手を借りることで、業務効率だけでなく、企業の価値創出につなげることが重要になってきそうだ。

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