Googleは米国時間8月13日に開催した新製品発表イベント「Made by Google」で、同社のAIアシスタント「Gemini」がサムスンとMotorolaの「Android」端末で動作する様子を披露した。サムスンとMotorolaはGoogleのパートナーであると同時にライバルでもあるが、それは大きな問題ではないのかもしれない。GoogleはAndroidの開発元であり、その新機能をお披露目する場で、人気の高いAndroid端末を取り上げることは不思議ではない。
とはいえ、その名が示すとおり、Made by GoogleはGoogle製デバイスを紹介する場だ。Googleは8年前、Androidの開発元であるだけでなく、一角のハードウェア企業でもあることを示すべく、初の純正スマートフォン「Pixel」を発表した。そしてMade by Googleブランドを立ち上げ、ハイエンドスマートフォン市場はAppleとサムスンの寡占市場ではないことを証明しようとした(もっとも、この二強体制は今も変わっていない)。
自社のイベントでわざわざサムスンとMotorolaの端末にスポットライトを当て、Geminiをアピールするという判断は、Googleの新たな方向性とスマートフォン業界の現状を雄弁に語っている。これはスマートフォン競争が新たな時代に突入したことの証左であり、競合他社より多くの端末を売るより、Geminiを最高のモバイルアシスタントと位置づけ、そのGeminiをフル活用できるプラットフォームがAndroid端末だと訴える方が重要になったのだ。
「Android対iPhone」という構図は、スマートフォンの歴史と同じくらい古い。しかし以前と違うのは、競合する分野だ。スマートフォン戦争は新たな段階に進み、カメラ性能やデザイン、プロセッサーの処理速度よりも、搭載しているモバイルアシスタントの質が重要になりつつある。
発端は2022年末に登場した「ChatGPT」だった。OpenAIが開発した生成AIベースのチャットボット、ChatGPTは、まさに一夜にして爆発的な人気を博し、2023年2月のReutersの記事によれば、わずか2カ月で月間アクティブユーザー数が推定1億人に達した(UBS調べ)。この記事は、ChatGPTを「史上最速で成長した消費者向けアプリ」と表現している。
バーチャルアシスタントやチャットボット自体は新しいものではない。現在広く利用されている「Googleアシスタント」やAppleの「Siri」、Amazonの「Alexa」といったデジタルヘルパーは、登場からすでに10年ほどたつ。しかし、複雑な質問にも会話形式で(正確とは限らないが)説得力のある答えを返すことのできるChatGPTは人々を興奮させた。そしてチャットボットや生成AIモデル、つまりプロンプトに応じてコンテンツを作成できるAIの登場により、人間がインターネットを使い、情報にアクセスする方法が根本的に変わるのではないかという議論が巻き起こった。
ChatGPTの登場後、Googleやサムスン、Microsoft、そして最近ではAppleなど、大手テクノロジー企業のほぼすべてが自社の代表的な製品に生成AIを組み込むようになった。5月に開催されたGoogleの年次開発者会議「Google I/O」では、「Google検索」や「Gmail」といったGoogleの人気アプリがAIによってどう進化するかが華々しく発表された。目玉はもちろんGeminiであり、GeminiがAndroidで果たす大きな役割だ。
こうした新しいアプリやサービスを最もよく体験できるデバイスがスマートフォンだ。となれば、Googleが生成AIやバーチャルヘルパーをPixel戦略の中心に据えたことは驚くに値しない。生成AIが今後、スマートフォンの進化に大きな役割を果たすことは間違いない。International Data Corporation(IDC)によれば、生成AIを搭載したスマートフォンの出荷台数は、2024年には前年比で364%増加する見込みだという。
しかし、例年はハードウェアの発表の場だったMade by Googleの基調講演で、2024年はGeminiに多くの時間が割かれたことは、Googleの開発戦略が変化していることを示している。基調講演の前半では、Geminiが数学の問題をどのように解説できるか、「Geminiライブチャット」(会話に近い感覚でGeminiを使える有料版の機能)がいかに話題の変化についていけるかが紹介された。その様子は製品発表会というより、ほとんど「Google I/Oパート2」の様相を呈していた。
今回発表された「Pixel 9」「Pixel 9 Pro」「Pixel 9 Pro XL」「Pixel 9 Pro Fold」にも、新しいAIツールが搭載されている。例えばプロンプトに応じて写真の内容を変えたり、画像を生成したり、通常の検索エンジンのようにクエリを入力して、スクリーンショットに映っている情報の一部だけを検索したりすることが可能になるという。今回発表された新型スマートフォンの真の主役はAIソフトウェアだといっても過言ではない。
一連の変化は、Googleの戦略自体が変わった結果なのかもしれない。The Vergeの4月の記事によると、Googleは最近「プラットフォーム&デバイス」と呼ばれる部門を新設し、その下にPixel、Android、「Chrome」など、消費者向けハードウェア、ソフトウェアを扱うチームを統合したという。
Gooleとサムスンはすでに次世代スマートフォンの姿を共同で模索しはじめている。両社はそれぞれ独自のAI機能を開発し、自社の端末(PixelまたはGalaxy)に搭載する一方で、これまで以上に緊密に連携しながら、新たな機能や製品の開発に共同で取り組んでいる。
Googleのプラットフォーム&デバイス部門を率いるRick Osterloh氏は、先日パリで開催されたサムスンの製品発表会「Unpacked」に登場し、両社の協力体制について語った。サムスンの「Galaxy AI」(Galaxyシリーズのスマートフォンに搭載されているAI機能の総称)の一部は、GoogleのAIモデルをもとにしている。また、サムスンの「Galaxy Z Fold6」では、分割画面でGoogleのGeminiを実行可能だ。
Googleとサムスンは長年パートナー関係にあるが、その関係は近年、さらに深まっているようだ。2社は、2021年に刷新されたGoogleのスマートウォッチ向けOS「Wear OS」の開発に共同で取り組み、今後は複合現実(MR)の分野でも手を組もうとしている。両社の現在の関係は、サムスンが独自OS「Tizen」を開発していた2010年代初頭とはまったく違う。
Googleとサムスンにとって、提携は賢明な選択だ。GoogleなしにAndroidは存在しないが、世界出荷台数で見れば、スマートフォン市場のリーダーはサムスンだ(IDC調べ)。つまり、スマートフォンがどう進化していくのであれ、両社が手を組むことは理にかなっている。Appleや、MicrosoftとAppleの両方と提携しているOpenAIのようなライバルに対抗していくためには不可避と言ってもいい。
業界地図が変わる一方、スマートフォン自体も10年前のような驚きを提供できなくなっている。実際、近年のスマートフォンは地味なアップグレードを繰り返しているだけだと言えなくもない。通信会社Verizonの最高経営責任者(CEO)がCNBCに語ったように、現在の消費者は同じスマートフォンを3年は使い続ける傾向がある。折りたたみスマートフォンはまだニッチの域を出ておらず、価格も高い。そのため、Googleなどの企業は消費者を再び驚かせ、そしてもちろん販売台数を伸ばすためにAIを活用しようとしている。
Googleに関する限り、このミッションの遂行にGeminiが大きな役割を果たすことは間違いない。
Geminiこの記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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