Appleが折りたためる「iPhone」の開発に取り組んでいるといううわさは、何年も前からささやかれてきた。Apple自体は何も明らかにしていないが、市場では9月に開催されるであろう新製品発表イベントで折りたたみiPhoneが登場するのではないかという期待が高まっている。そこでApple初の折りたたみスマートフォンについて、筆者が抱いている考えと懸念を述べたいと思う。
筆者は以前、既存の折りたたみスマートフォンに失望している理由と、Appleがこの市場の起爆剤となり得る理由について書いた。実際、折りたたみスマートフォン市場は起爆剤を必要としている。この1カ月間にサムスンとMotorolaから新しい折りたたみスマートフォンが発表されたが、どちらも既存のモデルを改良したものにすぎず、興奮させられることはなかった。
折りたたみスマートフォンは、ぱっと見には悪くない。しかしディスプレイを曲げられるという目新しさを除けば、特別な点は何もない。「Android」陣営から続々と登場する折りたたみスマートフォンを見て、筆者は折りたたみiPhoneもまた、似たような過剰な製品になるのではないかという不安にかられている。
もし折りたたみiPhoneが登場するなら、それは「ディスプレイを曲げられるiPhone 15」以上のものであってほしい。
以下は、筆者が折りたたみiPhoneに期待するものだ。
残念ながら、これまでに登場したAndroid搭載折りたたみスマートフォンは、サムスンの最新モデルである「Galaxy Z Fold6」や「Galaxy Z Flip6」を含めて、基本的には柔軟なディスプレイを搭載した普通のAndroid端末にすぎない。ハードウェアは確かに印象的だが、半分に曲がるという目新しさに慣れてしまえば、ありふれたスマートフォンにすぎない。違いは、価格が非常に高いことだけだ。
問題は、折りたためるというハードウェア面は進化していても、ソフトウェア面は基本的に折りたためない普通のスマートフォンと変わらないことだ。肝心かなめのAndroidには、折りたたみスマートフォンの大画面を生かす調整はほとんど加えられておらず、サードパーティー製のアプリにも、折りたためるディスプレイをうまく生かしたものはほとんどない。その結果、筆者は依然として、折りたたみスマートフォンの真価を実感できずにいる。
筆者はAndroidの開発元であるGoogleが、自社の折りたたみ端末「Pixel Fold」のために、折りたためるという特徴をうまく生かしたソフトウェア機能を開発するだろうと期待していた。しかし今のPixel Foldは、スマートフォンの可能性を切り拓くことよりも、ライバルに後れを取らないことを目指しているようにしか見えない。
この点では、Appleはアプリ開発者との密接な関係をうまく活用できるはずだ。生産性、エンターテインメント、ゲームといった分野では、「iOS」アプリの開発者たちが、折りたたみ端末こそスマートフォンの未来を担う端末であることを証明するキラーアプリを開発するだろう。
既存の折りたたみスマートフォンの間では、すでにデザインや物理的な仕様は似たり寄ったりになりつつある。Motorolaの新型フリップフォン「razr 50」シリーズとサムスンのGalaxy Z Flip6はそっくりだ。「OnePlus Open」、GoogleのPixel Fold、Galaxy Z Fold6も、いくつかの細かい点を除けば、違いはあまりない。
もし折りたたみiPhoneが登場するなら、こうした既存のAndroid搭載折りたたみ端末の二番煎じに見えないようにする必要がある。デザインを差別化し、プロダクトエンジニアリングに関してはAppleの右に出るものはないと見せつける必要がある。思い出してほしい。Appleは携帯電話を発明したわけではないが、Appleのデザイナーとエンジニアたちが生み出した初代iPhoneは、携帯電話の可能性を広げ、革命を起こした。
時間もAppleに味方している。折りたたみスマートフォンの盛り上がりを見て、あわてて折りたたみiPhoneを投入しなかったおかげで、初代Galaxy Z Foldから最新モデルに至る、折りたたみスマートフォンの進化をつぶさに見ることができた。その結果、Appleは時間をかけて他社の失敗から学び、初代iPhoneが成し遂げた革新を再び、折りたたみスマートフォンの世界で起こす機会を手にしている。
折りたたみiPhoneは、iPhoneにできることはすべてできるものなければならない。最先端のデザインだけでなく、Appleが持つ最新・最高のテクノロジーを惜しみなく詰め込む必要がある。つまり、折りたためるだけの機能限定版ではなく、iPhoneの「Pro」モデルと肩を並べる強力なスペックを備えていなければならない。
これは、Androidを搭載した折りたたみスマートフォンの多くについても言える。例えばサムスンの折りたたみ端末、特にGalaxy Z Flipシリーズは、サムスンのフラッグシップモデルである「Galaxy S」シリーズのUltraモデルよりもスペックは劣る。その結果、大金を払って折りたたみスマートフォンを買ったのに、友人が持っているはるかに安いスマートフォンよりも性能は低いという状況が生まれている。
この問題は特にカメラで顕著だ。サムスンの折りたたみ端末の中では最も高価なGalaxy Z Fold6でさえ、カメラに関しては「Galaxy S24 Ultra」に及ばない。つまり、カメラ性能をとるか、折りたたみ技術をとるか、どちらかを選ばなければならないのだ。どちらを選んでも、他の点では妥協を強いられることになる。
折りたたみiPhoneには、iPhone Proシリーズと同じトリプル構成のカメラを搭載する必要がある。「Apple ProRAW」での写真撮影や「Apple ProRes」での動画編集にも対応してほしい。さらに、どんな処理もこなせる最新のプロセッサーを搭載し、Appleの新しいAIスキル「Apple Intelligence」を全てのiPhoneと同等か、それ以上に活用できるようにする必要がある。
これだけのスペックを備えた端末となれば、価格は驚くほど高くなるだろう。そこで、すべての機能を使える必要はないが、折れ曲がるディスプレイは楽しみたい層に向けて、価格を抑えたモデルも用意する。なぜなら、アプリ開発者の協力を得るためには、マス層にアピールする必要があるからだ。スペックも価格も最高級の「iPhone Fold」は、発売直後には購入者が限られるだろう。潜在顧客が少なすぎれば、アプリ開発者も折りたたみiPhone向けのアプリ開発に時間を費やす気にはならない。とはいえ、安くて楽しいだけのモデルは、ただのおもちゃに見えてしまう。話題性はあっても実用性には疑問符がつくため、多くのユーザーの手には取ってもらえない。
アプリ開発者を巻き込み、市場を制するためには、Appleはスペック重視と価格重視の両ベクトルを追求する必要がある。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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