就活の早期化が進むなか、企業に求められる「戦略の見直し」とは

草深生馬(RECCOO CHRO)2024年05月21日 11時00分

 就活スケジュールの早期化が進む中で、2026年卒学生たちの動向にも変化が見られ、企業側にも採用スケジュールや戦略の見直しが必要とされています。夏インターン前のこの時期に、企業側が取り組むべきことを3つのステップに分けて、Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が、解説します。

  1. 今、採用担当者が取り組むべき3ステップ
  2. 注力ターゲットを、新卒採用の目的から定める
  3. 社内のハイパフォーマーたちの情報を元に「ターゲット」を定める
  4. 「自社の環境では育成するのが難しい能力」を重視する
  5. 採用スケジュールをどのように定めるか?

今、採用担当者が取り組むべき3ステップ

 前回(「26年卒学生の就活動向と企業側の採用スケジュールのポイントは?」)と前々回(「夏前に本格化?--26年卒学生の就活動向とスケジュールに見られる新傾向」)の2回に分けて、就活生たちを「大学群別」、「文理別」、「地域別」などのカテゴリーに分けて、それぞれの就活スケジュールや動向について考察しました。今回は、それを踏まえて、企業はどのような採用スケジュールや戦略を準備するべきかを解説します。

 今の時期、2026年卒学生向けに夏インターンの準備にすでに取り組んでいる企業も多いことでしょう。

 ただ、就活の早期化が進む中で、夏インターン前に志望業界のみならず志望企業まで絞っている学生も増えています。企業にとっては、例年よりも早めに就活スケジュールをきちんと立てて、学生との接点を夏インターンよりも前に持つことが重要であるとお話しました。

 今回は、その具体的な内容について、取り組むべきステップを、(1)注力ターゲットを決める、(2)スケジュールを決める、(3)学生との接点を作るチャネルを決める、の3段階に分けて、解説していきます。

 いずれも基本的なことなので、企業の人事部は、すでに独自の採用戦略を準備していると思います。ただ、就活スケジュールの早期化が進んでいる現在、採用ターゲットも従来とは異なる動きを見せています。彼らに対していかに自社の魅力を訴求するのか、その基本戦略をもう一度しっかりと見直す必要性が高まっていることを意識してください。

注力ターゲットを、新卒採用の目的から定める

 前回(「26年卒学生の就活動向と企業側の採用スケジュールのポイントは?」)までに説明した通り、学生たちはそのカテゴリーによって就活スケジュールが異なるので、企業は注力するターゲットを明確にし、それに合わせた適切なスケジュールを立てる必要があります。

 まずは、就活市場にいる学生たちを、大学の偏差値や専攻、関東・関西などのエリア、本人の志向性、学生時代の経験などでグループ分けします。その上で、実際にターゲットを定めていく方法としては、大きく2つのパターンが考えられます。

 1つ目は、新卒採用を行う目的そのものからターゲットを定めるパターンです。

 そもそも企業が新卒採用を始めて、それを続けているのには理由があるはずですが、企業の規模が大きくなり、新卒採用が定着してしまうと、その目的を見失いがちです。重要なのは、経営戦略や事業計画を踏まえ、新卒を採用する目的を明確にして、ターゲットを定めることです。

 例えば、若手社員の人数が少なく、社員の平均年齢が高止まりしているような企業であれば、企業カルチャーが硬直することを防いだり、新しい技術や文化へのキャッチアップを目的に新卒採用を実施することもあるでしょう。その場合、単に若いというだけではなく、知的好奇心が強くて、情報感度の高いような人材をターゲットとして設定すべきです。

 このように、経営の課題や目的を踏まえると、ターゲットの大枠はある程度ロジカルに定めることができます。

社内のハイパフォーマーたちの情報を元に「ターゲット」を定める

 2つ目は、すでに社内にいるハイパフォーマー新卒人材たちが持っている特徴、性質を分析して、それをターゲットに落とし込んでいくパターンです。ただ、同じくハイパフォーマーと認められる社員たちであっても、全員が同じような性質で似た行動を取っているわけではなく、中には正反対のタイプもいたりします。

 例えば、ロジカルに物事を考えることができるという性質は、多くの仕事で必要とされるでしょう。しかし、アーティスト的な素養が求められる仕事では、ロジックよりもインスピレーションに長けた人材が優秀と見なされたり、とハイパフォーマーの共通項を見つけるのは案外難しい作業です。

 ちなみに、ハイパフォーマーには絶対的な基準はなく、会社のカルチャーとのフィット感が重要だと私は考えています。ハードに働いてお金を稼ごう、というカルチャーの会社に、定時退社を望み、必要以上の給与も評価もいらないし、頑張りたくないというタイプの人は、いくら有能であってもフィットしません。

 自社にとってのハイパフォーマーの特徴を分析するには、まずは自社のカルチャーについての解像度を高める必要があります。その上で、採用の時点で学生のポータブルスキルや価値観に共通項を見極めることができれば理想的です。しかし、それを実施できている企業は少ないようです。

 上記2つのパターンは、どちらか一方を使うというよりは、両方の視点を担保し、掛け算してターゲットを決めるとよいでしょう。

「自社の環境では育成するのが難しい能力」を重視する

 また、ターゲットを決めるときに要件を盛り込みすぎて、もはや実在しない神様のようなターゲット像になってしまうことがあるので、注意してください。ここでのポイントは、「後天的には育成しづらい能力」と「自社の環境では育成するのが難しい能力」のどちらかに当てはまるものを重視し、要件を絞り込むことです。

 例えば、英語力などは後からいくらでも身に付く能力の典型です。むしろ、ここで見極めるべきは、英語力そのものよりも「好奇心が強い」「学ぶことが楽しいと感じる」「人と話すのが好き」というような性質ではないでしょうか。そしてこれらは先天性が大きく影響する可能性が高いため、採用時点で見極めるべき、という考え方です。

 特に、まだキャリアを積んでいない新卒の採用においては、スキルよりも上記のような性質そのものを重視する必要があるでしょう。

採用スケジュールをどのように定めるか?

 上記のターゲットが見えてこれば、採用スケジュールを定めることができます。前回(「26年卒学生の就活動向と企業側の採用スケジュールのポイントは?」)にも同じ表を掲載しましたが、まずは、以下の<企業の採用スケジュール(ターゲット:一般的な26卒学生)>をベースにしながら、定めたターゲットに合わせて調整をしていくことになります。

企業の採用スケジュール(ターゲット 一般的な26卒学生)
企業の採用スケジュール(ターゲット 一般的な26卒学生)

 そして、これも前回すでに解説しましたが、上位校・理系・都市圏の学生は、比較的早期に動く傾向があります。この早期層に向けたスケジュールを決めるには、<企業の採用スケジュール(ターゲット:26卒早期層)>を参考にして、追加の対応をする必要があるでしょう。

企業の採用スケジュール(ターゲット 26卒早期層)
企業の採用スケジュール(ターゲット 26卒早期層)

 このようにターゲットごとの動向に合わせて、企業も採用戦略を展開し、工夫をしていくべきです。次回は3つ目のステップ、「学生との接点を作るチャネルを決める」について解説します。

草深 生馬(くさぶか・いくま)

株式会社RECCOO CHRO

1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。

2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。

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