新型「iPad」の発表がまったくなかった空白の1年を経て、Appleから「iPad Pro」と「iPad Air」の最新モデル(いずれも11インチ/13インチの2サイズ展開)が発表された。筆者はいずれの機種も実際に触ったことがある。ニューヨークで行われたAppleとの一連のミーティングで、数時間をかけて新型iPadの早期プレビューを体験することができたのだ。最新モデルに実際に触れてみて、ハードウェアは本当に素晴らしいと感じた。また、アクセサリーとして、ジャイロスコープ搭載型の、振動するまったく新しい「Apple Pencil Pro」も用意されている。
Appleの新しいiPadは魅力的で高級で高価だが、「Mac」にさらに近づいたとは言いがたい。なぜなら、Appleがそれを目指していないからだ。
iPad Proは、あらゆる点で優れたハードウェアだ。筆者としては、このデバイスを未来のMacとして選択する可能性は大いにある。しかし、現時点ではまだMacではなく、iPadである。「iOS」と「macOS」は年々近づいてきているが、それでも両者は別物だ。わずか1カ月後に迫った「Worldwide Developers Conference」(WWDC)では、「iPadOS」を含むすべてのOSの新バージョンが発表されるだろう。iPadにさらに手を加え、私たちの知るMacと融合させる計画が明らかになる可能性もある。しかし、おそらくそれはないだろうと筆者はみている。
いい感じのiPadの購入を考えていて、グラフィックアートやスケッチ、写真や動画編集などの作業を行う必要がある人には、今回の新型モデルはぴったりだろう。ただし、多額の出費を覚悟しなければならない。11インチのiPad Airは599ドル(日本では税込9万8800円)からとなっているが、13インチのiPad Proは1299ドル(同21万8800円)から。使い勝手の良い新型のApple Pencil Proは129ドル(同2万1800円)で、新しいアルミニウムデザインと触覚トラックパッドを備えた新型の「Magic Keyboard」(iPad Pro用)は299ドル(同4万9800円)からだ。ストレージ容量を増やしたい場合は、さらに出費がかさむ。iPad Proの場合、最低容量は256GBで、最大2TBまで増やせる。
新しいApple Pencil Proは、見た目こそ前モデルの「Apple Pencil(第2世代)」とそっくりだが、同じ129ドルという価格で、新機能がいくつか追加されている。ペンを指で強く握ると、iPadの画面にポップアップメニューが表示されるようになった。このとき、触覚フィードバックにより、ペン自体が軽く振動する仕組みになっている。ちょっとしたうれしい機能だが、筆者がもっと便利に感じたのは、内蔵のジャイロスコープにより、ペンを回転させる操作が使えるようになったことだ。ペンを使いながらブラシツールの向きを変えられるようになったので、本物のブラシを使っているときの感覚により近くなった。
2022年モデルのiPad Proで導入されたApple Pencilのホバー機能のおかげで、ブラシツールを事前に確認できる。その後、必要に応じてペンを回転させてブラシの向きを調整してから、ペン先を画面に付けることができる。
個人的に、Apple Pencil Proに追加された新機能はとても気に入っている。ただし、実際には多額の出費が必要になる。Apple Pencil Proを充電したり接続したりできるのは、今回発表されたiPad ProとiPad Airの最新モデルだけなので、Apple Pencil Proを使いたければ、新型モデルを1台丸ごと購入しなければならない。Apple Pencil Proに追加された数少ない新機能を使用するためのコストとしては、あまりにも高い。
iPad Proの新型モデルは、少し離れて見ると、iPad Airや以前のモデルのiPad Proと似ているように思える。金属製のベゼルを備えた大型ディスプレイがある。率直に言って、iPadのディスプレイは、どのモデルも素晴らしい。もっと近くから見ると、いくつかの違いがあることが分かる。新型のiPad Proは過去のモデルよりもさらに薄くなっている。なぜそんなことが必要なのか、と疑問に思う人もいるかもしれない。理論上は必ずしも必要なことではないが、Magic Keyboardを取り付けて使用している人は、感じ方が異なるかもしれない。
新型iPad Proは、Magic Keyboardを取り付けた状態を想定して微調整されているようだ。内側がアルミニウム製になった新しいMagic KeyboardとiPad Proを組み合わせると、パッケージ全体がより薄型かつ軽量になるからだ。薄さと軽さはどれくらいなのだろうか。筆者のデモは短時間ではあったが、バックパックでの収まりは少し向上しそうだ。
新型iPad Proには、「M4」チップが内蔵されている。これは、2023年のハロウィーンに「M3」が披露されてからわずか半年後に発表された、まったく新しいチップだ。M4は、3ナノメートルのアーキテクチャーからコア数、GPUまで、M3にかなり合わせて作られているようだ。Appleによると、M4は新型iPadのような薄型デバイス向けのより優れた熱設計のほか、アップグレードされた有機ELディスプレイと連携する新しい設計も備えているという。Appleによる比較はどれも、M3ではなく「M2」が対象となっているので、M3と比べてどれだけ高速化しているのかは不明だ。とはいえ、それは近いうちに明らかになるだろう。
新しいディスプレイも素晴らしい。ついにiPadで有機ELに移行したAppleだが、これはサムスンのような企業のタブレットでは、ずっと前に行われていることだ。Appleは、このディスプレイを「Ultra Retina XDR」ディスプレイと呼んでおり、従来のものよりもさらに優れていることを約束している。Ultra Retina XDRディスプレイでは、2枚の有機ELパネルを同時に使用してHDRの輝度を高める(日常使用では1000ニト、HDRでは最大1600ニト)「タンデムOLED」と呼ばれるテクノロジーが使用されている。ハイエンドディスプレイ「Apple Studio Display」と同じく、高級感のあるマット仕上げのオプション(Nano-textureガラス)も用意されている。このオプションは、筆者が見た感じでは光沢がかなり抑えられていた。
新しいディスプレイは必要なものなのだろうか。確かに、画質は素晴らしいが、AppleはほかのiPadでも、すでに素晴らしいディスプレイを提供している。映画やグラフィックの作業で特定の最先端の品質を必要としている人にとってどうなのかは、まだ分からない。いずれにせよ、これらのディスプレイは、今後Appleから発売されるすべての製品で、Proモデルのディスプレイの新たな標準になりそうだ。
筆者は、ミッドレンジのiPadの購入を検討している人に対して、これまでずっとiPad Airをお薦めしてきた。11インチモデルの新型iPad Air(599ドル、日本では税込9万8800円から)は、M2チップを搭載しており、買って損はないだろう。新型iPad Airには、画面の大きな13インチモデル(799ドル、同12万8800円から)もあるが、2022年モデルの12.9インチのiPad Proと異なり、こちらのモデルにはミニLEDは搭載されていない。また、iPad Proと違って、新型iPad Airには高速リフレッシュレート対応の「ProMotion」も搭載されていない。背面のLiDARセンサーも前面の「Face ID」もなく、代わりに「Touch ID」ボタンが側面に配置されている。Touch IDの方を好む人もいるかもしれない。
とはいえ、新型のiPad Airはまったく問題なさそうだ。iPad Proよりも厚みはあるが、価格はこちらの方が手ごろである。新しいApple Pencil Proも使用できる。新型iPad Airについて、語るべきことはあまりない。なぜなら、このようなiPadは過去に見たことがあるからだ。唯一の疑問は、2022年モデルのiPad Proはセールになるのか、ということだ。もしそうなった場合は、新型のiPad Airではなく、2022年モデルのiPad Proを購入するといいだろう。新型iPad Airと同様だが、わずかに優れているからだ。
新型のiPadではどのモデルでも、第10世代のiPadと同様、本体を横向きにしたときに、前面カメラが上部に来るようになった。この変更は遅すぎるくらいだ。キーボードを接続して使用するときに、ビデオチャットでようやく自分の姿が中央にきちんと表示されるようになった。これにより、「Zoom」用マシンとしての使いやすさもさらに向上した。
今回、第10世代iPadの値下げも行われ、64GBモデルは349ドル(日本では税込5万8800円)になった。筆者のお薦めは499ドルの256GBモデル(同8万4800円)だが、いずれにせよ、筆者が2022年に望んでいた価格がようやく現実になった。
唯一気になるのは、このiPadが2024年秋にアップデートされ、より優れたスペックの機種が登場するのか、という点だ。値下げされた新しい価格、そしてオンラインセールが実施される可能性もあることを考えると、ほとんどの人にとって、無印のiPadが最適な選択肢であるように思える。それ以外のモデルを選べば、驚くほど多用途ではあるものの、依然としてMacと同じではないタブレットに多額のお金を費やすことになるだろう。
iPad Proこの記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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