本連載の第1回ではWebtoonの成り立ちと漫画との違いについて、第2回では国内市場の動向について、第3回では今後のWebtoonの未来について、第4回では日本と韓国のWebtoon業界についてまとめました。
第5回では、「LINEマンガ」を運営するLINE Digital Frontierの取締役COOである森啓さんに、日本のWebtoon業界の現状について、またWebtoonの韓国と日本の違いについてお伺いします。
中川: 早速ですが、簡単に自己紹介をしていただいてもよろしいですか?
森: LINE Digital Frontierの取締役の森と申します。「LINEマンガ」サービス全体の統括と国内のWebtoonスタジオの営業部署を管轄しています。また、直近では、自社のWebtoon制作の担当もしています。
中川: 日本のWebtoon業界の現状を伺っていきたいのですが、例えば、昨年、一昨年に比べて直近の状況ってどのように変わっていると感じられていますか?
森: そうですね。韓国産の作品だけでなく、日本国内で作られたWebtoonも昨年あたりから大量に出てきて、その中からヒット作品が多く出てきているというのが、現在起きていることかなと思いますね。
中川: 森さんから見て、なぜ日本の作品が売れ始めてきていると思いますか?
森: やはり、経験によるものが大きいと思います。一巡のトライを失敗含めて経験された後に、Webtoonの作り方、物語の作り方、読者のニーズを掴み、それらが合った作品が増えてきているというところと、クオリティ面についても以前より高い作品が増えてきたっていうのが要因かなと思います。
中川: ちなみに、作品が売れることで日本のWebtoon業界が盛り上がる、という流れを作るために、意図的に国産の作品を推していこうというのがあったのでしょうか?
森: どこで作られているかに関わらず、独占・先行作品は積極的にユーザーに向けた施策を行なっています。どちらかというと、皆さんが作る国産Webtoon作品が、「LINEマンガ」のユーザーに合うものが増えてきているので、自然にそうなっているという感じですね。
中川: 韓国のWebtoon業界、主に(LINE Digital Frontierのグループ会社である)NAVER WEBTOONさんから見た日本は、この数年変化っていうのはありますか?
森: そうですね、作品の数もそうですし、Webtoonへの関心の高まりを感じます。今までマンガに関わらなかった異業種の方も、ご存知の通り、非常に多くの企業がWebtoonに参入されています。その点について、ここ数年での、大きな変化を感じますね。
中川: 韓国の会社が、日本にもっと参入したりとか、作品を出したり、そんな意欲は上がっていたりするのですか?
森: はい、その通りだと思います。主な理由はマーケットの魅力だと思います。韓国にもマーケットはありますが、日本のマーケットは非常に大きいので。どんどんどんどん翻訳して日本に出していくぞという動きは活発になってきていますね。
中川: なるほど。韓国以外の他の国、例えばアメリカなどについてはどう見られていますか?
森: そうですね、我々はアメリカだけじゃなくて、世界中でWebtoonのプラットフォーム、サービスを展開していますが、若い人を中心に、継続して市場が伸びている状況です。新しいコンテンツ、新しいエンターテインメントとして、受け入れられていると感じています。。
中川: 特に注目している国や、伸びている国はありますか?
森: やはりアメリカの市場は大きいです。我々としても注力している国の一つです。今後の動きとしては、国内で生まれたStudio No.9さんの「神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~」のようなヒット作品を韓国だけではなく、アメリカやその他グローバルに展開していくという動きを、以前にも増して活発に行っていく方針です。
中川: 現状、日本産のWebtoonで、韓国ないし海外で手応えのある作品も出ているのですか?
森: 現状では、まだ始まったばかりという状況です。これからに期待をしているところです。今は日本での実績も、昨年ようやく出てきたというタイミングです。それを翻訳して流通していくっていうためには時間がもう少しかかるとは思いますが、今後とても期待している領域となります。
中川: その中で懸念というか、作品の傾向や違いはあったりするのでしょうか?
森: 韓国のWebtoonと日本のWebtoonには若干違いがあると感じています。日本のWebtoonは日本ならではの良さがあるというか。Webtoonと日本のマンガイズムが融合した、キャラクター性が強く、しっかりとしたドラマ性がある作品が多いのが日本のWebtoonの良さだと思っています。日本のWebtoonが世界の市場の中でどのように評価されるのか、世界中の読者がどのような反応を示すのか本当に楽しみにしているところですね。
中川: マンガ大国だからこそ、マンガを作るアプローチを活かしたWebtoonでヒットを狙う、と。ちなみに、Webtoonと横読みマンガを読んでいるユーザーに違いはありますか?
森: Webtoonだけが伸びているとか、横読みマンガだけが伸びているということはなく、両方読むユーザーが増えてますね。なので、入り口がWebtoonで横読みマンガを読む人もいますし、入り口が横読みマンガでWebtoonを読む人もいます。
中川: カラーだから、縦だから横だから読んでるとかじゃなくて、面白そうだったら読まれるということですね。
森: Webtoonだからというよりは、それぞれに適したジャンルによりユーザーが異なるのかなと思っています。横読みマンガでもネットで流行りやすいジャンルとそうではないジャンルがありますし、気軽に読めるジャンルと腰を据えて読むジャンルというのはありますよね。そういった読者の違いはあるかと思います。
中川: 御社のプラットフォームとしての差別化という点で質問なのですが、力を入れているジャンルなど、特に重要視されている要素ってあるんでしょうか?
森: 「LINEマンガ」の特徴として、男女比もほぼ半々、色々な年代の方に向けて、幅広い作品があって、幅広いお客さんがいるのですが、ご存知の通りファンタジーのジャンルがよく売れるのでファンタジーのジャンルや、一方ドラマ系のジャンルもありますね。もちろん読者の属性や好みを見た作品づくりもしていきますが、やはり作品としての多様性も大事にしていきたいと思っています。
実は韓国でも既に起きていることですが、Webtoonが産業として大きくなるにつれて、いろいろな会社が参入しています。生態系だったり、エコシステムが変わりつつありますね。ジャンルがどんどん集中していて、我々はそれに対して危機意識も持っています。結局そうなっていくと、どんどんマンガサービスが偏った作品や読者ばかりになってしまうため、個人の才能・作品の多様性というのは、戦略的に大事にしています。
中川: なるほど。日本国内だとスタジオ形式のWebtoon作品がほとんどですが、韓国から生まれているような個人制作の作品を日本でも増やしていきたいとお考えですか?森: おっしゃる通りです。我々も「LINEマンガ インディーズ」を運営していますが、個人から生まれる作品を、もっと増やしていきたいと考えています。
中川: 話は変わりますが、よく話題に挙がる、WebtoonからIPが生まれるかっていうのは、これは今、どう思われていますか?
森: これも時間の問題だなと思っています。まだ、国産のWebtoonは作品が出始めたばかりの段階なので、まだIPが生まれ育つ段階はもう少し先かなとは思います。これから日本ならではのキャラクターが強くドラマ性の高い作品が出てくる中で、メディアミックスが始まり、IPが生まれていくのではないかと思います。
中川: 直近で「LINEマンガ」さんの中や業界全体でもで注目しているトピックスや面白いトレンドはありますか?
森: これまでマンガ業界に携わってきてなかった方々の様々な才能がWebtoon業界に集まると面白いと思っています。Webtoonはそれぞれの作業を分業で行うケースが多いので、それぞれの得意分野を活かして仕事をすることができます。今まではマンガのお仕事をしたくてもひとりで全工程はできない、という人がいたとして、それが分業制によってマンガのお仕事ができるようになると思います。もっと色んな業種からWebtoonに参入があり、優秀な才能が増えていくと、多様性や人気IPが生まれていくのではと思っています。我々としてもそのような流れを支援していきたいと考えています。
中川: クリエイター育成に関して言うと、「才能の最適配置」は重要なテーマですよね。マンガ家やマンガ編集者はだいたい、「なんでその職業を選んだの?」と聞くと、「マンガがめちゃくちゃ好きだから」と答えます。これはこれで素敵なことですが、ベストな才能の生かし方とは全く別の話。実は才能は別領域にあった、ということが往々にしてあり得ます。そして事業サイドでいうと、Webtoonのプロデューサーという職業は、エンタメプロデュース職のハブになっていると感じていまして。Webtoon制作はアニメやドラマ、ゲーム、マンガの色んな要素が入っており様々な要素を経験できるので、次のキャリアのステップとしても良い経験の土壌になると感じます。仮にあなたのキャリアがWebtoonにハマらなくても、数年後に未経験だとなかなか採用されない出版社やアニメ会社を受けるということが可能性として出てくる、というのがすごく意味があって良いなあと、現場としてすごく体感しています。
森: さまざまな才能を持った人がWebtoon業界に入ってきてくれると非常に嬉しいです。その関わる人々の多様性がシナジーとなり、世界で親しまれる作品が出てくることで、よりWebtoon業界が盛り上がっていくと思います。
以上、今回はLINE Digital Frontierの取締役COOである森啓さんに、韓国や海外の事情を交えながら、日本のWebtoon業界の現状や事業の方針を伺いました。作品と才能の多様性がWebtoon発展の鍵であることは、制作の現場としても日々強く感じており、今後どのような才能が集まり、どのような作品が生まれてくるのか、常にチェックし続けたいと思っています。
中川元太
株式会社Minto 取締役
2010年に大手インターネット広告代理店に新卒入社。札幌営業所長を経て、2013年より漫画アプリ「GANMA!」の運営会社の創業メンバーとして漫画編集チームとアプリマーケチーム等を立ち上げる。2016年にSNSクリエイターのマネジメント会社・株式会社wwwaapを創業。2022年に株式会社クオンと経営統合し、株式会社Mintoの取締役に就任。
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