第1回ではWebtoonの成り立ちと漫画との違いについてまとめました。Webtoonは韓国が先進してスタートしましたが、日本が近年急速に力をつけ追い上げを見せているという、この国にはかなり珍しい状況にある産業です。今回は日本のWebtoonの動向をまとめてみました。
前稿でも書いた通り、日本では、2013年に韓国のNHNグループが「Comico」をリリースしたところからWebtoonが始まりました。初期の代表作といえば「ReLIFE」が挙げられます。書籍としても累計200万部を超え、アニメ化もしました。また、2017年に人気漫画家の東村アキコ氏がXOY(ジョイ)で連載開始した「偽装不倫」なども、ドラマ化など話題になりました。
但し転機としては、韓国カカオグループが2016年4月に日本でリリースした「ピッコマ」が、「待てば無料モデル」(※23時間経過すると次のエピソードが無料で読むことができる仕組みのこと)を日本で初めて導入したことが大きかったと言えます。そこから日本でもWebtoonが拡大し始め、2020年に同じくピッコマの人気作品「俺だけレベルアップな件」の月間売上が1億円を突破したというニュースが話題となり、参入クリエイターや企業が一気に増え盛り上がりはじめました。
もう一つ、Netflixで世界的にヒットした「梨泰院クラス」をはじめ、世界中で人気となっている韓国ドラマの多くの原作がWebtoonであったことで、漫画/Webtoon以上に巨大市場である映像コンテンツに対する原作供給源としてWebtoonが確立したことは、出版以外の大手エンタメ企業の業界参入の要因の一つになっていると感じています。実際、2013年頃から始まったマンガアプリ勃興期の際に参入した企業は主にベンチャーと出版社でしたが、Webtoonの場合は映像、ゲームなどエンタメ企業の中でも幅が広く、米国でもDCコミックスやMARVELのようなコンテンツ企業のみならず、AppleやAmazonのようなビッグテックまでもが参入している点も大変興味深く、Webtoonがポテンシャルを秘めている証左と言えます。
●2013年~に参入した主な大手企業(漫画アプリ):
・新規参入企業:DeNA、NHN、セプテーニHD、LINE、Amazia、Cygames、Nagisa
・出版社:集英社、講談社、小学館、スクエア・エニックスほか、各出版社
●2020~2023年に新規参入した主な大手企業(Webtoon):
・新規参入企業:日テレ、TBS、テレ朝、ソニーミュージック、Apple、バンダイナムコ、セガサミー、GREE、アカツキ、TV東京、CCC、東映アニメーション、楽天、サイバーエージェント、アミューズ、pixiv、
・電子書籍プラットフォーム保有企業:Amazon、ドコモ、U-NEXT、DMM、DNP
・出版社:集英社、小学館、コアミックス、新潮社、KADOKAWA、白泉社、双葉社
大手の新規参入企業はWebtoonプラットフォームを立ち上げるか、Webtoon制作に対する投資をする(あるいはその両方)形で参入するケースが多く見受けられます。
日本においてはWebtoonは個人で制作するよりも分業で制作するケースが圧倒的に多いため、大企業の制作ニーズはWebtoonスタジオと呼ばれる制作会社が受け止めている状況です。
さらに、日本ではスタジオは大きく3つのパターンに分けることができます。(1)ソラジマ、ロッカールーム、ナンバーナイン、フーモア、Minto等のスタートアップ系、(2)レッドセブンやコンテツラボブルー等の韓国資本系、(3)KADOKAWAや小学館等の出版社系の3つです。2023年5月には漫画界の雄である集英社も「ジャンプTOON」というサービスリリースから、Webtoonへの本格参入を表明しており、今後の動向は日本のみならず世界中からも注目されています。
国産Webtoonの人気作では、上述のReLIFEや偽装不倫に加え「サレタガワのブルー」「氷の城壁」「神血の救世主」「おデブ悪女に転生したら、なぜかラスボス王子様に執着されています。」などが挙げられます。ピッコマの2022トップ30には、1作も日本産はありませんでしたが、2023年に入ってピッコマやLINEマンガなどの大手プラットフォームのランキング上位に、目に見えて日本産作品を見かけるようになりました。
現時点ではまだまだ韓国作品の人気ぶりとは大きな差がありますが、それでも世界一のマンガとアニメの市場を持つ日本のクリエイターのポテンシャルは世界が注目しており、実際Webtoon先進国である韓国スタジオも続々と日本に参入し始めています。
一方でマンガやアニメ市場が巨大且つ堅調に成長しているがゆえに、上述の東村アキコ氏のように人気作家がWebtoonに参入するケースはまだまだ少なく、巨大資本の参入もあって近年の制作単価は高騰傾向にあるものの、Webtoonにはクリエイターほか作り手が慢性的に足りてない状態にあるのは、現場としてはすごくもどかしくもあり、伸びしろだと感じてます。
私は2013年のマンガアプリの勃興期、漫画編集者として作家の勧誘を行っていましたが、当時は本当に苦労しました。その大きな要因として、この世にマンガアプリが存在しなかったので当然ではありますが、クリエイターが抱くマンガアプリへの懐疑心と、「紙」に対する強い憧れがあるったと感じていました。時代が代わり、「SPY x FAMILY」や「怪獣8号」等、漫画アプリであるジャンププラスから数多くのヒット作が登場している今、ジャンププラスには本家のジャンプに匹敵するほどの新人の応募があるとも聞いています。
話が少しそれましたが、日本でも成長しているWebtoon市場ですが、特に日本から大ヒット作品が生まれることで更なる加速をすることは明白であり、業界に関わるクリエイターやスタジオはそれを自ら生み出すべく日々研鑽している、今の日本のWebtoonはそんな夜明け前の状態です。
中川元太
株式会社Minto 取締役
2010年に大手インターネット広告代理店に新卒入社。札幌営業所長を経て、2013年より漫画アプリ「GANMA!」の運営会社の創業メンバーとして漫画編集チームとアプリマーケチーム等を立ち上げる。2016年にSNSクリエイターのマネジメント会社・株式会社wwwaapを創業。2022年に株式会社クオンと経営統合し、株式会社Mintoの取締役に就任。
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