本連載での第1回ではWebtoonの成り立ちと漫画との違いについて、第2回では国内市場の動向についてまとめました。第3回では、今後のWebtoonの進化という視点で、Webtoonの未来についてお話します。
Webtoonの未来を語るにおいて特に重要なキーワードは、「OSMU」(ワンソース・マルチユース)=Webtoonのメディア展開と、「AI活用」です。以下、それぞれについて述べていきます。
「梨泰院クラス」や「ムービング」「キム秘書はいったい、なぜ」など、韓国Webtoonの実写映像化のヒット事例は枚挙に暇がありません。アニメ化事例も「外見至上主義」や「外科医エリーゼ」など増えており、さらに2024年には世界的ヒットWebtoonである「俺だけレベルアップな件」のアニメ配信も始まり、世界中のWebtoon関係者から強い注目を集めています。
Webtoonに限らず、韓国のエンタメ業界では一つのIP(知的財産)を他メディアで展開する「OSMU」(ワンソース・マルチユース)という言葉が浸透しています。そんな状況からわかる通り、IPのメディア展開は強く意識されており、今後もWebtoonからドラマ化やアニメ化、さらにグッズやテーマパークなどのリアルへの展開などはますます増えていくと思われます。
上述の「俺だけレベルアップな件」のアニメは、ソニーグループの日本のアニメ会社であるA-1 Picturesが制作していて、Webtoonのアニメ化作品は日本の会社が制作するケースも多数見受けられます。また、最近では国の準行政機関である韓国コンテンツ振興院(KOCCA)がタイでの現地ドラマ制作に257億バーツの支援を始めました。既にKPOPアイドルは多国籍メンバーのグループが増えていますが、より良いコンテンツを作るために、より世界で人気が広がっていくために、国を超えたIPの開発とメディア展開は、一つのキーワードとなりそうです。
日本では、「サレタガワのブルー」など以前から国産Webtoonのメディア化事例はありましたが、2023年に入って「around1/4 アラウンドクォーター」「夫を社会的に抹殺する5つの方法」『「サブスク不倫」のドラマ化、「シンデレラ・コンプレックス」のショートドラマ化、さらに「先輩はおとこのこ」のフジテレビノイタミナ枠でのアニメ化決定(放映は2024年)など、他メディア展開の事例が増えた1年でした。
またユニークな例として、韓国WebtoonスタジオのYLABの日本法人であるYLAB STUDIOSが手がけた「スーパーストリング -異世界見聞録-」という作品は、漫画版を週刊少年サンデーで、Webtoon版をLINEマンガで連載するというWebtoon&漫画のハイブリッド連載で話題となりました。原作はYLABの創設者でもある尹仁完先生、作画は『Dr.STONE』などで知られるBoichi先生ですが、日本のヒット漫画家のWebtoon参入という点でも意義ある取り組みだと思います。
前稿で記載した通り日本のWebtoon業界はこの1~2年で一気に、映像等を生業としたテレビ局や大手エンタメ企業が多数参入しているため、2024年以降にWebtoonのメディア展開事例は増加していくと想定できます。
メディア展開がWebtoonを広げるためのキーワードだとしたら、制作に関するキーワードはAIです。
WebtoonにおけるAI活用については、本場である韓国が進んでいます。韓国のWebtoon業界では作家の過重労働が社会問題になっていることもあり、AIの導入が早くから議論されていました(日本の漫画やアニメ業界の労働環境も大変なはずなんですが……、これはまた別の話)。
韓国を代表するテック企業であり、世界でも有数のWebtoonプラットフォームを保有するNAVER(LINEマンガもNAVER傘下)では「WebtoonAI」の研究組織を強化し、作家の着彩作業をサポートする「Webtoon AI Painter」や、写真をWebtoonの作画に変換する「WEBTOON TOON FILTER」をプレリリースしており、今後も着彩以外の基本作業をサポートするAI制作ツールを開発中です(韓国語のみですが、わかりやすく体験ができます)。
作画以外でも、AIが好みを分析し、作品を推薦してくれる「AIキュレーター」も本格開発していますが、導入した地域では推薦作品クリック数は30%以上増加、さらに米国では、ARPPU(一人当たりの平均決済額)が20%以上増えています。
NAVER以外でもWebtoonの生成AIのプロジェクトやスタートアップは増えています。韓国漫画界の巨匠であるイ・ヒョンセ先生の絵をAIに学習させ、新版で具現化する「イ・ヒョンセAIプロジェクト」が進行中で、「カロンの夜明け」という新作が近く配信予定です。
また韓国の生成AI系スタートアップのOnomaAIは、世界最大規模のテクノロジー見本市であるCESで、世界で初めてWebtoonに特化した生成型AIサービス「TOOTOON」で革新賞を受賞しました。
さらにアメリカでも生成AI×デジタルコミックのスタートアップであるDashtoonが約7億6000万円を調達しています。日本でもAIHUBやGenerativeX社など、多数の企業がアプローチを試みています。
一方で、2023年に韓国のNAVERWEBTOONで連載開始した「神と共に帰ってきた騎士王様」という作品が、生成AIで制作されたという疑惑で論議が巻き起こりました。ユーザーは「指の形がおかしい」、「カットごとに画風が変わる」、「作画が崩れる」などの疑惑を提起しながら、生成AI作品に対する否定的な意見が多く見受けられ、作品に対して多数の低評価がつきました。作品を制作したスタジオは「効率的な作業のために技術的にAIを利用して仕上げ作業はしたが、創作の領域は直接スタジオですべての作業を進行した」と発表しましたが、非難が止まりませんでした。こういったユーザーの反応もあり、業界ではAI技術の活用を控える雰囲気も出ています。
ハリウッドでは2023年9月に、史上最長となった脚本家や俳優のストライキが終わりましたが、その論点の一つはAI規制によるものでした。これらの事例から見られるように、今後エンターテイメントにおけるAI活用は慎重に進められることになりそうです。
とはいえNAVERは著作権を侵害しない範囲では生成AIを使ったwebtoonの作品を受け付けることを発表しており、AIはクリエイターにとっても有用なツールになることはもはや疑いようがなく、良い共存のあり方が出来た人が次の時代に活躍していくと、私は思います。
以上、Webtoonの成長とメディア展開、AIの重要性を掘り下げてきました。Webtoonが映画や漫画のようなメジャーな存在になるためには、Webtoon発のエンタメ作品の国民的・世界的なメディア展開が鍵となるでしょう。また、Webtoonに限らずそれらのコンテンツの制作プロセスの発展においてAIは、今アニメや漫画の制作に使われているデジタル機材のように当たり前な存在になってくるはずです。今後のWebtoonの進化はまだまだ止まらないと考えます。これらのキーワードを抑えながら、しっかりと業界の動きやトレンドを注視していく必要がありそうです。
中川元太
株式会社Minto 取締役
2010年に大手インターネット広告代理店に新卒入社。札幌営業所長を経て、2013年より漫画アプリ「GANMA!」の運営会社の創業メンバーとして漫画編集チームとアプリマーケチーム等を立ち上げる。2016年にSNSクリエイターのマネジメント会社・株式会社wwwaapを創業。2022年に株式会社クオンと経営統合し、株式会社Mintoの取締役に就任。
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