木村屋總本店(木村屋)と日本電気(NEC)は1月17日、AIを活用して開発した「恋AIパン」を2月1日から順次発売すると発表した。
開発にあたっては、Abema TVの恋愛番組「今日、好きになりました。」の参加者の会話と、フルーツやスイーツが登場する曲の歌詞をNECのAIで分析。恋愛感情と食品を紐づけて味を表現したのが恋AIパンだ。
第1弾は2月1日で「涙の失恋」味と「結ばれる両想い」味を発売する。第2弾は3月1日で、「やきもち」味、第3弾は4月1日で「運命の出会い」味と「初めてのデート」で、計5種類をラインアップ。価格は200円(税込)だ。関東近郊のスーパーや木村屋のオンラインショップ、直営店などで販売する。5月末までの出荷を予定しているという。
創業155年を迎える木村屋には、老舗ならではの悩みがあった。百貨店やスーパー等の販売チャネルで商品を展開してきたため、若年層の新規顧客や認知獲得が課題となっていたという。
木村屋總本店 取締役の齊藤浩二氏は、「次の世代へ木村屋をどのように伝えていくべきか、時代の変化にどのように対応していくべきか。社内でプロジェクトを立ち上げた結果、若年層を対象とした商品を作ろうと考えた。若者向けの製品をつくってみようというのは若いスタッフからでてきたもの。若年層が多いエキュートでも販売するので、ここに木村屋があるということを知ってもらうきっかけにしたい」と説明した。
開発するにあたり、木村屋は、これまでプリンやクラフトビールなどAIを活用した食品開発の実績があるNECとタッグを組むことにしたという。
今回のターゲットである若年層に関する市場調査によると、恋愛離れが進んでいることが分かった。そこで現役高校生が参加し、話題を呼んでいる「今日、好きになりました。」の番組内容を活用し、恋愛をテーマにした商品を開発した。
具体的には、まずNECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の音声認識技術を活用した「NEC Enhanced Speech Analysis 高性能音声解析」番組の3シーズン分、出演者の会話データ15時間分をテキストとして抽出。
データ意味理解技術データ意味理解技術を活用した「NEC Data Enrichment」を用い、出会いや告白、初めてのデートといったシーンごとの会話文に32個の感情ワードとの相関を表した感情スコアを付与し、恋愛シーンごとの感情の傾向を可視化した。
さらに、約100万曲の日本語の歌詞データベースから、183種類のフルーツやスイーツなどの食品を含む3.5万曲を抽出。NEC Data Enrichmentを用いて食品を含む歌詞に感情スコアを付与し、食品のイメージが持つ感情の傾向を可視化した。
番組と歌詞から抽出したデータをもとに、感情の傾向が似ている恋愛シーンと食品を紐づけて、恋の感情を表現する食品上位50種をリストアップ。木村屋は、AIで導かれた食品50種から過去に多くの蒸しパンを開発してきた職人により、相性の良い食品の組み合わせを選定して、恋を味として再現する恋AIパンを開発したという。
データをもとにして抽出された食品は、ライム、サイダー、オレンジ、リンゴ、柿、紫芋、レーズン、トリュフ、ずんだなど多岐にわたる。色の指定はないが、必然的に色合いも、ブルーや紫、赤など食品としてはやや奇抜とも思えるカラーになる。
こうした点について齊藤氏は、「見た目は、うちではつくらないものなので議論はあった。しかし、いままでの製品の流れでは、こうした食材を使う、カラフルなものという発想にはならなかった。NECに協力してもらい制作する上でいろいろなアイデアが湧いてきた。中には相性が悪いものもあり、開発には約6カ月かかっている。まったく初の試みで、いろいろな挑戦があった」と振り返った。
NECは、2017年にやなか珈琲とコラボレーションし、名作文学の読後感をコーヒーで味わう「飲める文庫」を開発。以降、ダンデライオン・チョコレート・ジャパンやコエドブルワリーらとコラボレーションしており、最近では2022年にカゴメ、ブルシックらと子どもの野菜嫌いを克服する「AI(愛)のプリン」を開発するなど、NECのAIを用いて4つの商品を開発してきた。
今回の取り組みでは、2023年12月に発表したばかりのLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)「cotomi(コトミ)」を活用し、新たに生成AIによる商品パッケージや特設サイトで使用する商品解説文の作成も手掛けた。これらも、食品や感情データを基に作成した。
高校生による試食でも、恋AIパンを食べることで、恋愛の雰囲気や感情が感じられた、恋がしたい気持ちになったと答える割合が多く、見た目や香り、味とともに好評だったという。
NEC AI・アナリティクス統括部 シニアディレクターの孝忠大輔氏は「食品開発の広がり、膨大なデータをどう商品開発に結びつけていくかは、NECとして非常にチャンスのある場所。今回の恋AIパンを通して、人の恋心がパンのように発酵して大きく膨らむことを期待しながら、今回の開発にかかわった」とコメントした。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス