この10年、カメラやプロセッサーを少しずつ進化させてきたスマートフォンは、2024年に飛躍的な進化を遂げるかもしれない。
人工知能(AI)を導入することでスマートフォンの性能は大幅に向上し、ポケットに入るインターネット接続デバイスから有能なパーソナルアシスタントへと変わる可能性がある。折りたたみスマートフォンは、デザインを改良して利便性を高めることで、スマートフォン市場での地位を固めつつあり、大ブレークを果たす日も遠くないかもしれない。こうした点を総合して考えると、人々が次に手にするスマートフォンは、ガラスと金属でできた長方形の板以上のものとなる可能性が高い。
「この新しさが鍵だ」と指摘するのは、モバイル業界専門の調査会社GSMA Intelligenceを率いるPeter Jarich氏だ。「折りたためるフォームファクターは、その一部にすぎない」
AIと折りたためるディスプレイは、今後のスマートフォンを考える上で重要なポイントとなるかもしれないが、スマートフォンの使い勝手に直結する部分でも、注目に値する急激な変化が起こりつつある。充電速度が速くなり、フル充電に要する時間が短くなった。テクノロジー企業は製品のサステナビリティーに注力するようになっていることから、スマートフォンの耐用年数は伸び、環境に与える影響は軽くなり、財布にも優しくなるかもしれない。
こうした刺激的な変化は、低迷が続くスマートフォン業界が大いに必要としているものだ。調査会社International Data Corporation(IDC)によると、2022年のスマートフォン市場は、需要の低迷と経済面の課題が重なり、年間出荷台数が2013年以来最低の水準に落ち込んだ。保険会社Assurantのデータも、スマートフォンの平均使用期間が伸びていることを示している。もっとも、これはこの10年間にスマートフォンの質が向上した証拠かもしれない。調査会社Consumer Intelligence Research Partnersの分析結果も同様だ。2019年に新しい「iPhone」に買い替えたiPhoneユーザーの大部分は2年程度で機種変更をしていたのに対して、2023年はiPhoneの機種変更までの期間が3年以上に伸びている。
「人々は新しいスマートフォンに価値を感じにくくなっている」と指摘するのは、市場調査会社Omdiaのシニアアナリスト、Aaron West氏だ。「2年前に買ったスマホとほとんど変わらないものに、あえてアップグレードする理由があるだろうか」
スマートフォンが普及し、目新しさよりも実用性が重視されるようになった今、並大抵のことでは人々をあっと言わせることはできない。しかし2023年のスマートフォン市場は、確かに驚きを取り戻しつつあった。IDCの最新のデータによると、スマートフォンの出荷台数は2023年末に向けて増加に転じている。これは新しいスマートフォンが、再び人々の関心を引き始めていることを示しているのかもしれない。
スマートフォンでは、何年も前からAIが重要な役割を果たしてきた。特に顔認識、カメラ、翻訳などの機能にはAIが欠かせない。しかし(ChatGPTを支える技術であり、学習データに基づいて、ユーザーの指示に対する回答を生成する)生成AIは、単にスマートフォンのロックを解除したり、写真の背景をぼかしたりする以上の機能をスマートフォンにもたらした。生成AIを利用した機能は、これまでのような受動的な方法ではなく、より積極的な方法でユーザーを支援しようとしている。
「AIは、もはや影の存在ではない」と、West氏は言う。「AIはスマートフォンに新たな機能をもたらし、これまでにない独創的なものを生み出し始めている」
その証左が、2023年10月にGoogleが発売した「Pixel 8」シリーズだ。このシリーズはAIを活用して、被写体の移動やサイズ変更、顔の表情の調整といった新しい写真編集機能を実現している。特定のテーマに基づいて、ゼロからオリジナルの壁紙を生成することも可能だ。AIは「Googleアシスタント」にも組み込まれつつある。「Assistant with Bard」と命名された新しいバーチャルアシスタントは、メールを要約し、SNSに投稿する写真のキャプションを作成するなど、さまざまなタスクをこなす。Assistant with Bardは「Android」スマートフォンとiPhoneの両方に提供される予定だ。
サムスンやOnePlusのスマートフォンを支えるプロセッサーの製造元Qualcommの最新モバイルプロセッサー「Snapdragon 8 Gen 3」も、生成AIを積極的に活用している。IDCによると、世界第3位のスマートフォンメーカーである小米科技(シャオミ)の最新フラッグシップ端末「Xiaomi 14」「Xiaomi 14 Pro」は、前述したQualcommの最新チップをいち早く搭載した。この新チップは2024年を通じて、多くのスマートフォンに搭載される見込みだ。
Qualcommは、生成AIがスマートフォンにもたらす可能性を描いたティザー動画の中で、モバイル機器における生成AIの活用例として、通話から要点を抽出し、箇条書きの要約を作成してくれるバーチャルアシスタントを紹介している。
Qualcommの新チップを使えば、スマートフォンで撮影した画像をズームアウトし、フレーム外の細部を生成することで、まるで超広角レンズで撮影した写真のように見せることもできる。こうした機能は、単なる写真編集にとどまらず、撮影時には不可能だった、まったく新しい写真の作成にも役立つ。
Qualcommの最高経営責任者(CEO)兼プレジデントのCristiano Amon氏は、2023年10月に開催された「Snapdragon Summit」の壇上で、「(生成AIは)デバイス、(OSや)アプリに対する考え方、そしてユーザーエクスペリエンスの定義を変える」と語った。
AIはスマートフォンをどう変えるのか――早ければ1月18日には、その一端が明らかになるかもしれない。この日、サムスンは次の主力スマートフォン「Galaxy S24」(仮称)を発表するとみられている。サムスンは将来の製品ラインナップについて多くを語っていないが、最近になって「Galaxy AI」と呼ばれる、スマートフォン向けの新しいAI体験と、独自の生成AIモデル「Samsung Gauss」を発表した。Galaxy AIには、まだ詳細は不明だが、AIを利用した通話のライブ翻訳機能が含まれる見込みだ。
9月に登場予定のiPhoneの次期メジャーアップデートにも、新しいAI機能が搭載されるとBloombergは報じている。この機能を使えば、「Apple Music」のプレイリストを自動生成できるようになるかもしれない。「メッセージ」や「Siri」にも新しい生成AI機能が追加される可能性がある。
生成AIが評判通りのパフォーマンスを実現できれば、未来のスマートフォンは「タッチスクリーン付きの小型ノートPC」よりも、むしろ「スマートなパーソナルアシスタント」に近づくとWest氏はみる。
「例えば、人間が指示する前にニーズを先回りして満たしてくれるようになる」と、West氏は言う。
進化しているのはスマートフォンの頭脳だけではない。形も進化しつつある。2019年に登場した折りたたみスマートフォンは、今では広く販売されるようになっているが、それでもスマートフォン全体に占めるシェアはわずかでしかない。この状況を変えるべく、米国ではサムスン、Google、Motorola、OnePlusといった企業が次々と新製品を発売し、2023年は折りたたみスマートフォンの当たり年となった。
かつてはサムスンの独壇場だった折りたたみスマートフォン市場に、今ではほぼすべてのスマートフォンメーカーが参入している。米国では、Googleが2023年6月に初の折りたたみスマートフォンを発売し、10月にはOnePlusも初の折りたたみスマートフォンを発表した。つまり、2022年と比べて、折りたたみスマートフォンの選択肢は倍以上に増えている。
選択肢が増えただけではない。2023年は折りたたみスマートフォンの質も向上した。特に大きく変化したのは上下に折りたたむタイプのフリップフォンだ。Motorolaの「razr+」とサムスンの「Galaxy Z Flip5」は、どちらも外側のカバーディスプレイが大きくなり、閉じた状態での利便性が高まった結果、価格に見合う魅力的な製品となった。この2つのフリップフォンは、別々の用途に使える2つのディスプレイを搭載したスマートフォンの可能性を証明した。これは、単に端末を半分に折りたためるよりも、説得力のあるメリットだ。
折りたたみスマートフォンの普及を妨げている最大の障壁は価格の高さだ。Galaxy Z Flip5とrazr+はどちらも米国では約1000ドル(日本では16万円前後)で販売されている。タブレットとスマートフォンを組み合わせたような折りたたみスマートフォンがほしいなら、サムスンの「Galaxy Z Fold5」かGoogleの「Pixel Fold」が候補になるが、どちらも価格は1800ドル(日本では25万円台)もする。
その一方で、2023年は手頃な価格の折りたたみスマートフォンも登場した。こうした廉価モデルは、折りたたみスマートフォンの普及に大きく貢献するだろう。例えばMotorolaが2023年に発売した「razr」の通常価格は700ドル(日本では「razr 40」の商品名で12万5800円)であり、一般的なスマートフォンと変わらない。
調査会社Counterpoint Researchは、2024年以降は折りたたみスマートフォンの人気が高まり、2027年には出荷台数が1億台を突破すると予測する。なお2023年の折りたたみスマートフォンの出荷台数は、IDCのレポートによれば約2000万台とみられる。急成長する折りたたみスマートフォンに対して、スマートフォン全体の出荷台数は減少傾向にあり、IDCのデータでは2023年第3四半期は0.1%減だった。
「市場に出回っているスマートフォンの多くは、黒いガラスの板にすぎなかった。背面のデザインや端末の色、カメラの機能には多少の差があっても、基本的にはどれもよく似ていた」とJarich氏は言う。「しかし折りたたみスマートフォンの登場が消費者の物欲に再び火を付けた」
折りたためるディスプレイも、賢くなったAIアシスタントも、スマートフォンのバッテリーが1日持たなければそれほど役には立たない。2023年は、バッテリー駆動時間に大きな進展は見られなかったが、一部のスマートフォンでは充電に要する時間が短くなった。
その一例が、小米科技(シャオミ)の新作「Xiaomi 14」だ。前世代は67W充電だったが、今回は90Wの高速充電に対応する。
Android市場で一部の熱狂的な人気を集めるOnePlusのスマートフォンは充電の速さが売りだ。2023年も例外ではなく、同年の「OnePlus 11」は米国では80W、英国では100W充電に対応する。「OnePlus 10 Pro」は米国では65W、英国では80W充電だったことを考えると、大幅な強化だ。「Lenovo ThinkPhone by Motorola」も68Wの急速充電に対応しており、米CNETのPatrick Holland記者のレビュー記事によれば、わずか30分で空の状態から92%まで充電できたという。
バッテリー駆動時間の限界は、充電スピードの向上とチップの省エネ化でカバーされたとJarich氏は言う。
同氏は「バッテリーの観点から見れば、問題がなくなったわけではない」と認めつつも、「問題は別の角度から解決されつつある」とした。
Appleやサムスンのスマートフォンは、上位機種では1000ドル(約14万円)を超えるが、最近の機種は長く使えるように工夫されている。まだ改善の余地は大きいものの、スマートフォン市場は2023年、この分野で小さいが重要な一歩を踏み出した。
例えばAppleとサムスンは、ユーザーがスマートフォンを自分で修理するセルフサービスの修理プログラムを拡張した。Appleは、このプログラムの対象に「iPhone 14」と「iPhone 15」シリーズを追加した。サムスンは、対象となる国をブラジル、メキシコ、韓国にも広げ、2023年後半には最新の折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Flip5」と「Galaxy Z Fold5」もセルフサービス修理の対象とした。これは技術にうとく、自力では修理できないユーザーにとっても朗報だ。
Jarich氏は、セルフサービスの修理プログラムが広がり、スマートフォン自体も修理しやすい設計に変わりつつあることについて、「全員が自分で修理できるわけではないとしても、サードパーティが修理に対応しやすくなったことは間違いない」と指摘する。
iPhone15でも、修理を容易にするために内部シャーシの設計が見直された。
2023年、サステナブルなテクノロジーを追究するアムステルダムの企業、Fairphoneが2年ぶりに新型スマートフォン「Fairphone 5」を発売した。この端末は、サステナブルな素材で作られた修理可能なスマートフォンを求める人々に新たな選択肢をもたらした。Fairphoneは8年間のソフトウェアアップデートと5年間の製品保証を約束することで、長持ちするスマートフォンの基準を引き上げている。
Googleも新型Pixelのソフトウェアサポートを延長し、現在ではAndroid OSとセキュリティのアップデートを7年間保証している。以前はAndroidのアップデートは3年間、セキュリティアップデートは5年間だったことを考えると、大きな進歩だ。この動きは、他のスマートフォンメーカーにも広がる可能性がある。
生成AIや折りたためるディスプレイのような技術がモバイル機器に大きなインパクトを与えるかどうかは、今後の動きを見守っていくほかない。2022年11月にChatGPTが登場するまで、テクノロジー業界は生成AIではなく、メタバースに夢中だった。2019年以前は、折りたたみスマートフォンは未来のコンセプトにすぎなかった。
しかし、現時点で断言できることがあるとすれば、それはスマートフォンメーカーはカメラの改良やディスプレイの拡大だけでなく、スマートフォンの体験そのものを次の段階へ押し上げる方法を模索しているということだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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