「CNET Japan FoodTech Festival 2023」の2日目において、「食を通じた産業競争力の強化」と「雇用の創出による地域の活性化」を推進する宮崎県が登壇。県の取り組みと並行し、異業種から新たに次世代型農業ビジネスを開始した県内企業のMFE HIMUKAと共に、宮崎県が進めるフードビジネスの成長産業化に向けた取り組みに関するこれまでとこれからについて説明した。
宮崎県では、食を県の魅力の1つとして定義し、農林水産業全般と、宮崎牛やマンゴー、水産物などの産品を土台として成り立つすべての産業全体をフードビジネスと定義しているという。「生産、製造、販売に加えて、国内外から人や企業を呼び込む誘致、そこから食を中心として周辺の介護・医療・福祉にまでビジネスを拡大・波及させていきたいとの思いので、県を挙げてフードビジネスを振興している」と、宮崎県庁 総合政策部 産業政策課 企画推進担当 主査 中村務氏は説明する。
宮崎県がフードビジネスに取り組む背景として中村氏は、「素材提供型の産業構造からの脱却」を挙げる。宮崎県は、都道府県別の農業産出額は令和2年度に6位だが、他の農業先進県と比べて、県内での加工品食料品の出荷額比率が圧倒的に少なく、「まだまだ伸びしろがある」とする。
県の産業全体を捉えて、県外への輸出額と入ってくる輸入額を示す県際収支という形で見ると、県の基幹産業は農業、畜産、林業、漁業、飲食料品というフードビジネス領域が、外貨を呼び込む基幹産業になっている。特に海外向け食料品等の輸出額は、近年右肩上がりで増加、特に肉の輸出額が高く、「まだまだ加工品や飲料を伸ばすことによって、輸出で外貨を稼ぐことも可能」と中村氏は語る。
一方、労働生産性を従業者一人当たりの売上高で比較すると、農林業は全国平均よりも高いのに対し、食料品製造業では全国平均に劣っている。そのなかで今後の県民人口も減少が予測されているため、「デジタルやテクノロジーなどの利活用で生産性を上げ、フードテックも活用して生産効率を最大限に上げていくことが必要と考えている」と中村氏はいう。
そのような状況から宮崎県では、平成25年度に「みやざきフードビジネス振興構想」を策定し、取り組みを進めてきた。成果として、「みやざきキャビア」という新たな産地加工ブランドが生まれたほか、農商工連携の独自連携を地域で行うためのプラットフォームを設置する支援活動などを実施。2023年5月には見直しを行い、必要な取り組みに対しては継続しつつ、現在の情勢に併せて改訂した。「作って(生産・製造)、それを売り(流通・販売)、それを繋ぐ・支える(支援)の充実という3つの柱で、県庁横断的に、民間企業や関係機関と連携してフードビジネスを推進していくことを趣旨として新たな取り組みを開始している」(中村氏)という。
フードビジネス育成領域では、まず人材育成を目的とした「ひなたMBA」というビジネスアカデミー講座を開催している。今年は26回カリキュラムを組んで、県内事業者に無料で開放。年度の後半には受講者に声を掛けて、「MIYAZAKI FOOD AWARD」というコンテストを開催し、そこで更に販路開拓やPRに繋げる取り組みをしている。
また、前述した地域ぐるみの6次産業化のプラットフォームとして、県内の230社以上の農林漁業、加工・販売、観光業者が集まり、連携してプロジェクトを進めていくために、「みやざきローカルフードプロジェクトプラットフォーム」が運用されている。そこでは「約20のプロジェクトが進行中で、有機農産物が有名な綾町を中心としたプロジェクトチームから手軽に使用できる有機野菜の乾燥野菜ミックスという商品が誕生するなど、当プラットフォームをきっかけに様々な食の取り組みも発生している」(中村氏)という。
加工・製造体制を強化していくための取り組みも実施。宮崎県の素材供給型の構造、加工ができる事業者が県内にいないという課題を踏まえ、「加工OEMを県内でしっかり受け止めていくため、受け皿になるような企業に対して助成する取り組みを今年度から実施している」(中村氏)とのこと。
それにより今後は、県内で加工まで行って外貨を稼げるようにする。例えば国内有数である畜産に関して、枝肉、ブロック、スライス、ソーセージなどの加工を県内で行えるような環境整備など。その際には、新たな品目や加工品を見据えた取り組みを目指し、そのためにテクノロジーの活用、導入に関しても積極的に進めていくとのことである。
「県としては、『作る』『売る』『繋ぐ・支える』という3つの柱で総合的な支援を実施する。特に県内の小中規模事業者にしっかり外貨を稼ぎながら、企業のスケールアップを目指してもらえるように、フードビジネス振興の次の10年に向けて支援を行っていきたい」(中村氏)
そういった県の取り組みの流れの中で誕生したのが、「ひむか野菜光房」である。平成26年に地元の機械製造業、農業、卸売業、農業資材販売および設計施工の異業種4社で施設栽培の新会社を設立。同社を率いるのは、産業用機械メーカー MFE HIMUKAの代表取締役社長 島原俊英氏である。発足の経緯について島原氏は、「地域資源や特性を活用して新商品を開発し、それらを活用しながら地域経済の活性化に貢献していきたかった」と語る。同社は平成27年に、宮崎県中小企業対象を受賞している。
島原氏は食品関連の機械製造をしていたこともあり、工業会の視点から農業のビジネスモデルの問題点が見えていたと話す。
「農業は所得が安定せず、天候に左右され、出荷が安定しない。そこで我々は販路を直接作り、1年を通した雇用を維持すると共に、安定した生産を行うための管理技術を導入している。息の長い農業発展のため、人材育成も行っている。また、製品を販売する際には作ってから売るところを探すのではなく、マーケットインでどのくらいの商品をどのくらいの価格で販売すればどの程度売れるのかを調べ、それに沿った機械設備を導入・開発する。そのために、技術者や地元農家と連携して、共同出資で会社を運営している」(島原氏)
同社は現在、太陽光活用型の野菜工場を運営し、レタスを中心とした葉物を1日に7千株栽培して九州全土に販売している。「宮崎の自然を最大限に生かし、コストをできる限り下げて販売価格を抑え、生産を1年間通じて安定した価格で良い品質のものを提供する。そのために必要な環境制御の設備や様々な技術を、デジタルで実現している。そのなかで自動化や省力化という課題も生じるが、私たちは機械メーカーなので既存の様々な技術で対応できる」と島原氏は自社の強みを語る。
これまで課題解決を実現した例としては、鮮度保持装置の開発で天候によって収穫量が左右される農作物を一旦保存し、マーケットニーズに合わせて出荷できるようにしたという。人材育成の問題に関しては、日向市にイノベーションセンターを運営。多種多様な人たちが毎月集まり、地元企業や社会課題に対するイノベーションに対する討議ができる場を用意している。
また、これらの取り組みを島原氏は書籍として出版したところ、「広く反響をいただき、そこから新たな連携が生まれている」とのことである。
プレゼン終了後、両氏が視聴者からの質問に回答した。まず宮崎県がフードビジネス推進を支援するにあたっての特徴的な取り組みとしては、「フードビジネス相談ステーション」を挙げる。「無料のワンストップ相談窓口として設置し、農業者から製造、販売、加工と県内の事業者に無料で何でも相談に来てもらえる。そこから然るべき専門家に繋いだり、センターの中にも専門家が何人かいるので、そこで直接支援できることが強み」と中村氏は回答。
また、県内企業のフードテック導入を支援する取り組みも始めており、セミナーを開催して県内企業と内外のフードテック企業とのマッチングの場を作っているとのこと。現状でのテクノロジー活用は、「林業におけるドローンを使った山管理、ハウス内の環境制御、圃場のデータや農家の栽培状況、天候をデータで管理し、供給時期や量を平準化する取り組みなどが行われている」(中村氏)という。
ひむか野菜光房では、社員の平均年齢は61歳で、週3日、1日4時間からフルタイムまで、個人に合わせた勤務体系を用意しているという。「それにより、退職後の様々な経験を持った人材が集まり、元気に働いてもらっている」(島原氏)とのこと。
野菜工場内のシステムは、立ち上げ時から連携パートナーと自社開発したものを使っており、今後外販も考えているという。島原氏は、「当社の自然の恵みを最大限生かした野菜工場のスタイルが、“宮崎モデル”として広がっていく形も見据えている」と話す。
また県の取り組みに関して島原氏は、「宮崎県には様々な資源、農産物もたくさんある。それらを加工して付加価値を付けて、県外に出していくと地域も潤ってくる。そういう人たちと連携して産業を生み出す活動が今後進んでいくと思われるので、共に動きを作っていきたい」との考えを示している。
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