日本製紙グループでは、新規事業の一環として紙の原料である木材由来の新製品開発を進めている。「CNETJapanFoodTechFestival2023」において、日本製紙バイオマスマテリアル事業推進本部本部長代理松岡孝氏が登場し、同社の新規事業の取り組みの中から食品関連の取り組みについて語った。
日本製紙は、国内に香川県とほぼ同じ面積である9万ヘクタールの社有林を持ち、長年培った植林・苗育成技術をもとに林野庁と協働で「エリート山林苗」を増殖し、エリートツリーを育てている。それに伴い国産材の調達量も、国内トップとなっている。
「エリートツリーは従来の木と比べて成長が1.5倍速く、CO2吸収量も1.5倍でありながら花粉は少ない。木材は成長過程でCO2を吸収するが、成木になるとあまり吸わなくなってしまうので、木を伐採してうまく使っていくことがCO2削減の意味でも重要な取り組みとなってくる」と松岡氏は説明する。
同社はその木材資源を利用して、4種類の木材由来の新製品を展開している。
まずフードテック領域では、製紙過程と同じように木材チップを蒸解(じょうかい)してセルロース部分を取り出し養牛用の飼料にアレンジした「元気森森」を発売。元気森森は、「純度の高いセルロースは消化器官への負担が軽く、牛が健康になる。それによって乳量が増えたり、病気にかかりにくくなったりする」(松岡氏)との効果があるという。国産材を原料に安定品質・供給が可能であり、現在牧草の多くを海外の輸入に頼っている中、飼料の国産化が可能となることも相まって、既に9件の牧場で採用され、21件で試験中としている。
2つめが、紙の原料であるセルロースを更に細かく解繊して開発した、セルロースナノファイバー(CNF)の「セレンピア」である。セレンピアは、CNFとして唯一の機能性食品添加剤で、現在お菓子やパン、水産加工品など幅広い食品分野で既に採用されているという。「セレンピアをごく少量添加することで、食感の改善など高付加価値の食品にする効果や、賞味期限の延長効果が得られる。製造時の歩留まり改善によるフードロス削減にも貢献できる」と松岡氏は話す。
セレンピアでは、CNFの特性を活用して化粧品用途や凍結防止剤、スプレー散布する防草/殺虫剤など、食以外の新しい用途も見つかっているとのこと。例えばヤマハ発動機の水上バイクにCNF入り強化樹脂が採用されており、「将来的には車のタイヤ、樹脂部分の補強材としての用途が有望」(松岡氏)であるという。
その他にも持続可能性系の事業として、パルプから糖を取り出してエタノールを生成し、純国産のジェット機燃料として活用できる「SAF(持続可能な航空燃料)」の開発や、三井化学と共同でセルロースを細かく粉砕して、樹脂に混錬して石油由来の樹脂の使用量を減らす「バイオコンポジット」の開発を進めているという。
また、それらを製造する際のエネルギーとして、チップから抽出した木材樹脂を燃料とし、木材を余すことなく活用しているという。
「木材を余すことなく利用し、原料となる木材は成長の早い木を植林して持続可能なサイクルを回していくのがこれからの日本製紙グループのビジネスモデルで、それが日本の林業の維持発展にも繋がる。食品や飼料、エネルギー、資材の国内自給率のアップが日本の課題だが、国内の木材資源を活用していくことで少しでも課題解決になるように、4つの新製品を展開していきたいと考えている」(松岡氏)
続いて松岡氏は、新事業の中からセレンピアの食品用途での特性と利点を紹介した。まずは粘度について。セレンピアは、せん断応力を受け続けるとネットワーク構造が破壊されて粘度が低下し、静止すると再度ネットワーク構造が構築されて粘度が上昇する特性を持つ。「食品でよく使われるガム類の増粘剤は、添加量を増やしていくと糊のようになってべたつき感が出てくるがセレンピアにはそれがなく、口に入ったとき食感を邪魔しないところに増粘剤としての魅力がある」と松岡氏はいう。
次に温度と粘度の関係については、ガム類の増粘剤は温度が高くなると増粘効果が小さくなるが、セレンピアは「セルロース繊維の3次元のネットワーク構造で粘性を出しているので温度依存性が小さく、高温調理・加工する食品に適合している」(松岡氏)のだという。
またセレンピアは懸濁粒子が繊維に引っかかり、均一に分散安定するため、懸濁安定効果や水と油などの乳化安定性も得られるとしている。
それらの特性によって、セレンピアは食品に新たな付加価値を付与できる5つの機能性を有するという。
1つめは、保水性。セレンピアは原材料が木であるため吸収性に優れているが、セルロースの繊維をナノレベルまで細かく砕いているため表面積が大きくなり水を安定的に保ち、離水や乾燥を防ぐことが可能になり、出来立てのフレッシュ感を保つことができる。この機能を生かして、パスタソースや菓子パン、水産加工品などの用途に採用が進んでいるという。
2つめは、保形性。長時間の過熱でも形状を保持して、製品の安定化が可能になる。食パンの萎れ防止や餅菓子・チョコレートなど水分が多い状態でも生地のべたつきを抑え、食品加工工程での作業性を向上させられるという。
3つめは、気泡安定性。セレンピアを添加すると、細かいセルロース繊維が気泡に骨格を作り、ふっくらとしたボリュームを保つことができる。例えばセレンピアを米粉100%のパンに0.5%添加するだけで、小麦粉のグルテンのような役割を果たしボリュームが2倍になるという。
4つめは、懸濁安定性。ネットワーク構造により、溶液に含まれる不溶性成分が均一に分散した状態になり、それを長時間保つことができる。その際にどの温度帯でも安定性を発揮して、低粘度での分散が可能で、ノンオイルドレッシングやココア飲料、水ようかんなどの分散材として採用されているという。
5つめは、乳化安定性。微細な油滴を均一に分散安定し乳化状態を維持することができ、油が配合されている食品で油性の安定効果を高められる。食品の各種乳化代替材として、ドレッシングやアイスクリームミックスの安定剤として活用されているという。
プレゼンの最後に松岡氏は、セレンピアの食品分野でのSDGs貢献について説明した。
1つめは、フードロスの削減。「セレンピアの保水性、保形性で賞味期限が延長され、食品の製造工程での歩留まり率が向上する点から、フードロス削減を見込んで採用を進めている食品メーカーが多い」(松岡氏)という。
2つめは、原料がバイオマス資源で、非可食な素材を食品添加剤として利用できる点である。「一般的に自然由来の食品添加物には、海藻・とうもろこしなど食料から作られているものが多いが、セレンピアの原料は木材なので、食料と競合せず持続的に活用することが可能」(松岡氏)としている。
3つめは、原料を自社が適切に管理した日本国内の森林資源から調達している点である。「循環型の資源であり、かつ国産の木材を利用することで日本の林業にも貢献していく」と松岡氏は説明。
4つめは、CO2の削減である。「持続可能な木材資源を利用することで、社会全体で酸素循環を進めていくことにもつながり、SDGsに貢献する食品添加剤といえる」(松岡氏)
実際に、これらの項目に着目してセレンピアが採用されたケースもあるとのことである。
セミナーの後半では、視聴者と編集部からの質問に松岡氏が回答した。
まずセレンピア開発のきっかけは、元々50年以上前からセルロースの食品添加剤を開発しており、その進化版がセレンピアとのこと。開発期間は10年以上で、工場に量産機を投入したのが2017年としている。紙領域の繋がりと工場がある全国の自治体の紹介で食品会社への展開が進み、「営業の過程でお客様にアドバイスを受けノウハウが蓄積していった」(松岡氏)のだという。
営業時や導入先からの反応については、「まずは木からこんなものができるのかと驚かれる。お客様からは効果を感じていただいている」(松岡氏)とのこと。「食品は水分が抜けていくことでおいしくなくなり賞味期限が切れるが、CNFは水を保持してくれるので、いつまでもみずみずしさを保てる。地方のお菓子屋さんから、今まで賞味期限が2日で東京にお土産として持っていくことはできなかったが、4日に伸びてお土産として選択されやすくなり、売上が伸びたという声をいただいたこともある」(同氏)
コスト感については、「添加量が少ないことと、従来の添加剤の価格が上がっていることを踏まえ、コストは同等か若干安くなる。工場での歩留まり改善でコストダウンできたという会社もある」(松岡氏)という。
最後に将来的な目標については、「2030年までのビジョンとして新規事業で売上数百億円を掲げている。規模としては事業の1つの柱となるレベル。そこを目指していきたい」(松岡氏)としている。
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