2023年は低価格のサブブランドを中心として、携帯電話会社の新プラン発表が相次いでいる。その内容を見ると基本料金が値上がりしているものの、割引サービスを充実させることで値上げ分の負担を抑えることに力を入れている様子も見て取ることができる。そこには大きく2つの理由があるといえそうだ。
携帯電話料金の引き下げを政権公約に掲げた菅義偉前政権の影響を非常に強く受け、2021年は安価な料金プランが相次いで登場した。それから2年が経過した2023年、再び携帯各社の料金プランに大きな動きが出てきているようだ。
とりわけ最近動きが激しいのが、低・中価格帯の領域を担うサブブランドである。実際6月には、KDDIのサブブランド「UQ mobile」が、新料金プランの「コミコミプラン」「トクトクプラン」「ミニミニプラン」を提供開始。また、翌月となる7月には、NTTドコモがサブブランド対抗というべき料金プラン「irumo」の提供を開始している。
さらに10月には、ソフトバンクのサブブランド「ワイモバイル」が、新料金プラン「シンプル2」を提供予定だ。もちろん、各社の料金プランにはいくつか違いもあるのだが、共通している部分もいくつかある。
1つは、基本料金を値上げ、あるいは通信量が減少するなどベースの料金のお得感が落ちていることだ。UQ mobileの場合、大まかにいうとミニミニプランが従来プラン(くりこしプラン+5G)の「S」、トクトクプランが「M」、コミコミプランの「L」に相当するのだが、月額基本料金はミニミニ・トクトクプランがそれぞれ737円ずつ上がった。コミコミプランは550円下がっているものの、通信量が25GBから20GBに減少している。
また、irumoも、前身となるNTTレゾナントが提供していた「OCNモバイルONE」と比べた場合、月額基本料金は3GBのプランで1177円、6GBのプランで1507円値上げ。
9GBプランに至ってはOCNモバイルONEの10GBプランと比べ1617円値上げしている上、通信量も1GB減少している。500MBプランは料金こそ月額550円と変わっていないが、4Gのみの通信で速度も最大3Mbpsに制限されるなどの制限がかかるようになった。
そして、ワイモバイルのシンプル2も、月額基本料金は現行の「シンプル」と比べた場合、通信量は増量されているがSプランで187円、Mプランで737円、Lプランで957円値上がりしている。
MVNOから携帯電話会社のサービスに移行し、店舗でのサポートも付くようになったirumoの値上げ幅が大きいのはやむを得ない部分もあるが、いずれのプランも基本的には値上げ傾向にあることは理解できるだろう。
これだけではユーザーの負担が増えるだけなので、新料金プランの提供とともに割引サービスの充実が図られている、ということがもう1つの共通点だ。
1つは、UQ mobileの「自宅セット割」やワイモバイルの「家族割引サービス」など、指定の固定ブロードバンドサービスなどを契約したり、家族で契約したりすることで適用される割引である。これらは以前より存在するものだが、今回の新料金プランでは充実が図られているようだ。
だが注目されるのは、新たにもう1つの割引が追加されたこと。それは携帯各社やその傘下企業が提供するクレジットカードを使って料金を支払うことで適用される割引であり、irumoの「dカードお支払割」やUQ mobileの「au PAYカードお支払い割」、ワイモバイルの「PayPayカード割」がそれにあたる。
実は、クレジットカードに紐づく割引は、従来ドコモやKDDIがメインブランド向けに提供していた。それをサブブランドやそれに類するプランにも適用するようになったことは大きな変化といえる。
しかしなぜ、サブブランドなど低価格の料金プランが基本料を値上げし、割引サービスを充実させるようになったのか。割引サービスを適用することで料金を引き下げる仕組みは、料金プランを複雑にし分かりにくくするとして批判する傾向が、少なからず存在する。にもかかわらずこのような仕組みを取らざるを得なかったのはなぜだろうか。
理由の1つは、円安による物価高の影響だ。ここ最近の物価高の影響は携帯電話会社の業績にも大きな影響を与えている。とりわけエネルギー価格の高騰による電気代の値上げは、全国に展開する携帯電話基地局や携帯電話ショップなどの運用などで、多く電力を消費する携帯電話会社に与える影響が非常に大きい。
携帯各社も値上げをする必要に迫られたといえ、とりわけ安価で利益率が低い一方、電気代高騰の影響を受けているショップ店頭でのサポートが求められるサブブランドがその対象になったようだ。
そしてもう1つの理由は、「経済圏」である。携帯各社は市場の飽和と政府による料金引き下げ要請により、本業の携帯電話事業で売り上げを伸ばすことが困難になっている。ほかの事業を伸ばすことで事業拡大を図っており、その1つとして力を注いでいるのが「経済圏ビジネス」なのだ。
これは、楽天グループの「楽天経済圏」に代表されるもので、ポイントなどを軸に自社系列のサービス利用につなげることで顧客を囲い込むビジネス手法。携帯大手3社も携帯電話事業で獲得した1000万単位の顧客基盤を持つことを生かし、さまざまな系列のサービスを利用してもらうことで経済圏ビジネスの拡大に力を注いでいる。
しかも現在、携帯各社が経済圏ビジネスで最も力を入れているのが金融・決済の分野であることから、各社共に金融・決済関連のサービスを多く利用してもらうことで携帯電話をお得に利用できることに重点を置いている。サブブランドにクレジットカードに紐づいた割引を追加したのは、その象徴的な事例といえるだろう。
実は、より金融・決済に重きを置いて経済圏ビジネスに重点を置いた料金プランも出てきている。それはKDDIのメインブランドである「au」で9月1日からサービス開始した「auマネ活プラン」である。これは「使い放題MAX」などauの使い放題プランに、系列のauフィナンシャルホールディングス系列の金融・決済サービスを利用することでお得に利用できるものだ。
実際に、auマネ活プランでは、「au PAYクレジットカード」「auじぶん銀行」を契約し、そのいずれかで決済することにより最大800円の還元が受けられる。加えて「au PAYゴールドカード」を契約することで、auやKDDI系列の金融・決済サービス利用時により多くの特典を得ることが可能だ。
ただ、au PAYゴールドカードは1万1000円の年会費がかかるのに加え、全ての特典を得るには銀行や証券などの口座も作る必要があることからハードルはかなり高く、利用できる人も限定される。それだけ熱心に自社サービスを利用してくれる人に大きな特典を与え、自社経済圏への囲い込みを徹底したいというのがKDDIの狙いといえそうだ。
市場飽和などで携帯電話の契約者を大きく伸ばすことが難しい一方で、5G、6Gなど次世代に向けたインフラ投資が必要不可欠という事業環境を考えると、料金の値上げと経済圏ビジネス拡大に向けた割引の強化という流れは、今後も続くことになるだろう。それだけに、消費者が携帯電話サービスをお得に利用するには、いずれかの会社のサービスに積極的に囲い込まれることがより重要になってくるのではないだろうか。
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