総務省は8月30日、ヤフーに対して行政指導と要請を行った。同社の検索サービスにおいて、一部の検索クエリ(ワード)に含まれる位置情報が韓国・NAVERに送信されていたのを問題視したためだ。
総務省は、ヤフーのプライバシーポリシーへの記載がユーザーに不十分であったと判断しているようだ。ヤフーは同日、「丁寧な説明および安全管理措置の実施を含めたユーザーの皆様のパーソナルデータの適正な取り扱いを心掛けてまいります」とコメントを発表している。
そもそも、ヤフーを中核企業としていたZホールディングスは、NAVERを親会社とするLINEと、2021年3月1日に経営統合を完了していた。今回、ヤフーの検索クエリがNAVERに送信されていたのは、海外のパートナーのうちのひとつであっただけに過ぎないようだが、いずれにしてもヤフーとNAVERの距離が近くなっているのは間違いない。
ただ、Zホールディングスの親会社であるソフトバンクは、ZホールディングスとLINEの経営統合に対して、2年近く、何の成果も出てこなかったことを問題視。さらに関係を強固にするため、2023年10月1日にZホールディングスとLINE、ヤフーの3社を合併し「LINEヤフー」に経営統合する予定だ。
発表当時、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員 兼 CEOを務める宮川潤一氏は、「ソフトバンクとZホールディングスは親子だが、上場企業同士。われわれが経営に口出しするわけにはいかなかった。(ZホールディングスとLINEが経営統合をしたが)なかなか新しいプロダクトが生まれてこない。もう少しスピードを上げてくれないかと常々思っていた。同じ釜のメシを食ったらどうかと提案した」という。
実際のところ、ソフトバンクだけでなく、NAVARの経営陣からも不満が出ていたようで、結果として経営体制の見直しが行われ、ヤフーも含めた3社が合併し、この10月から「LINEヤフー」として再スタートを切ることになる。
LINEとヤフー、さらに今後、NAVERとの関係を強化し、新たなサービス開発につなげなくてはいけない中、総務省に行政指導されてしまったのはタイミングが悪すぎる。本来であれば、経営統合による「期待感」をユーザーに植え付けなければいけないのに、これでは「不信感」しか残らない。
新会社「LINEヤフー」がまず着手するのが、ID連携だ。
10月にLINEや「Yahoo! JAPAN」のID連携を行い、2024年度中には「PayPay」とのID連携を行う計画だ。これにより、9500万人のLINEユーザーと8500万人のYahooユーザーの連携が図れるようになる。将来的には、LINEユーザーがYahooで欲しいものを検索し、PayPayで決済し、友達に自慢しつつ、ポイントを貯めてお得になるといった一連のコマース体験が、簡単、シームレス、しかも縦横無尽に行えるようになるだろう。
11月には、プレミアム会員制度もスタート。LINEとしては初の有料会員プログラムで、プレミアム対象スタンプが使い放題となり、アルバムに画像だけでなく動画も保存できるようになるという。
YahooとLINE、PayPayとのID連携は、ソフトバンクにとっても喫緊の課題だろう。携帯電話事業においては、値下げ競争から値上げ基調への転換期を迎え、「経済圏」での戦いにシフトしつつある。
KDDIは、「au PAYカード」といったクレジットカードだけでなく、auじぶん銀行やauカブコム証券などを組み合わせることによって「auマネ活プラン」という新料金プランを作り、9月1日から提供を開始している。こうした通信と金融サービスを融合させるにはユーザーのIDを連携させる必要がある。その点、KDDIは「au ID」がキチンと機能しており、さまざまなサービスをまとめやすくなっているのだ。
楽天グループも、モバイルだけでなく、銀行や証券、カードなどがひとつのIDによって連携が取れている。
しかし、ソフトバンクとしてはタイミング良くLINEという会社が手に入り、スマホユーザーへの接点を強化できる可能性に賭けてしまった。だが、ZホールディングスとLINEの経営統合は2年間、あまり成果を出すことなく、時間だけが無駄に過ぎてしまった、という状況だ。
ソフトバンクに関しては、通信事業のソフトバンクとYahoo、PayPayにおいては、ID連携が取れている。本来であれば、ソフトバンクとYahoo、PayPayだけを考えれば、PayPay銀行とPayPay証券を組み合わせ「ソフトバンク・マネ活プラン」なんてのもいち早く、作れたかも知れない。
ソフトバンクは通信事業として、メインブランドの「ソフトバンク」、サブブランドの「ワイモバイル」、オンライン専用ブランド「LINEMO」という3つのブランド展開を行っている。
YahooとLINEのID連携やサービスの強化が実現できていれば、ワイモバイルやLINEMOにそれらを取り込み、もっと商品力のある料金プランを提供できたかも知れない。LINEMOがイマイチ個性に欠けるのは、LINEの利便性をあまり取り込めていないからではないだろうか。ZホールディングスとLINEの経営統合での遅れが、通信サービスにも影響を及ぼしているような気がしてならないのだ。
4キャリアの戦いは通信サービスを中心に、金融やECなど経済圏全体の戦いに移行しつつある。そんななか、LIINEとYahoo、PayPayという強力な武器を持っていながらも、2年間の時間を無駄にしたZホールディングスが、10月1日以降、LINEヤフーでどれだけ挽回できるのか。
今回、総務省から行政指導でみそがついてしまったが、LINEヤフーには他キャリアと、われわれユーザーが驚くような新サービスの登場に期待したい。
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