ソフトバンクは8月4日、2024年3月期第1四半期決算を発表。売上高は前年同期比5%増の1兆4297億円、営業利益は前年同期比2.1%増の2463億円と、増収増益の決算となった。
同日に実施された決算説明会で、代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏によると、売り上げは全ての事業セグメントで増収となった一方、利益ではPayPay子会社化の影響でファイナンスセグメントが減益となっているという。ただ「PayPayがもし2022年4月から連結していたら、34億円の改善になっていた」とも説明しており、通期計画に対しては順調な進捗だとしている。
主力のモバイル通信を含むコンシューマ事業は増収減益だが、モバイル通信事業における売上高の減少額が、今四半期は58億円と100億円を大幅に割る水準にまで減少。政府主導による携帯電話料金引き下げの影響で落とし続けてきた売り上げがようやく下げ止まってきたことから、宮川氏は「ようやく長いトンネルの出口がはっきり見えてきた。自信をもって来期のV字反転に向け頑張りたい」と意欲を見せている。
また、宮川氏によると、モバイルの契約純増数が非常に好調に伸びているとのこと。今四半期も番号ポータビリティ(MNP)による転入は「他社に対して全てプラスで終わった」と話しており、スマートフォンの累計契約数も2958万と、3000万契約に向け着実な取り組みを続けているという。
同社の契約が好調な要因について宮川氏は、1つに店頭での積極的な営業を挙げ、「ソフトバンクの営業のやり方は元気がいい。コロナ禍が明けて、私たちとしても活動しやすくなってきた」と話している。そして、もう1つの要因に挙げているのが料金とサービスの質であり、それが「顧客に理解頂いて入って頂けていると理解している」と宮川氏は説明する。
この四半期は競合他社が相次いで新料金プランを投入したのに加え、MNPのワンストップ化も始まったことに対しても、「私たちの競争環境が大きく変わるものではないと感じているし、純増数も2022年と同じ(水準)までいける。今はさほど影響ないかな、と感じている」と回答。自社の料金プランやサービスに強い自信を見せている。
一方で、スマートフォンなど端末の出荷台数は前年と比べ減少しているが、その主な要因は法人向け端末の一時的な販売減少によるところが大きく、コンシューマ向けは微減にとどまっているとのこと。
ただ、宮川氏は、現在の端末市場が政府によるスマートフォン値引き規制の影響を強く受けているのに加え、円安による価格高騰で「私も、こんなに高いのを買うか? と思うくらい高い」(宮川氏)とし、5G端末の普及に大きな悪影響が及んでいるとの認識を示す。
政府は、通信契約に紐づいたスマートフォンの値引き規制に関して、2万円から4万円へと見直す方針を示しているが、宮川氏は「ちんたらちんたら5Gに移る状況では、世界的にも置いていかれる。何とかしたい気持ちでいっぱい」と見解を述べた。加えて、宮川氏は個人的な意見としながらも、値引き規制を「昔に戻してくれたらもっと嬉しい」とも話している。
また、宮川氏は、楽天モバイルの動向についてもいくつかコメント。楽天モバイルがKDDIとのローミングをフルに活用した「Rakuten最強プラン」については、「実害はないので静観していたが、顧客に誤認されることはなかろうかということで、現場(の社員)が総務省と打ち合わせをしている話は聞いている」と回答。その名称についても、やはり個人的な見解としながら「なかなか、“しびれる”という感じで見ておりました」と述べている。
その楽天モバイルは、楽天カード契約者であればワンクリックでデータ通信専用SIMの申し込みできる施策を開始している。だが、こちらについて宮川氏は「犯罪防止の観点だと本人確認は非常に重要」と、データ通信用の回線であっても本人確認は必要との考え方を示す。「法整備自体を見直した方がいいと感じた」(宮川氏)とし、現在本人確認不要で契約できるデータ通信専用回線を、本人確認必須にするよう総務省に働きかけていく姿勢も見せた。
楽天モバイルを巡ってはもう1つ、新たなプラチナバンドとなる新しい700MHz帯の割り当てに関する指針が出されており、その審査内容が楽天モバイルに非常に有利なことが話題となっている。宮川氏はこの帯域について「(割り当ての)申請は検討中だが、確度が低いかもしれない」とし、獲得には消極的な様子を示した。
一方で、プラチナバンドは確かに地方のエリアカバーを進める上で非常に有効だが、携帯電話会社には電波を有効利用する責務があると説明。「『(プラチナバンドが)飛びやすいから基地局は少しでいい』というのは“なし”にして、それなりに設備投資をして頂きたい」(宮川氏)と、楽天モバイルにくぎを刺す発言もしている。
競合を巡る動向としてもう1つ、日本電信電話(NTT)に関しても、現在政府が保有する株式を売却しての完全民営化を検討しているとの話が出ている。宮川氏はこの点について「NTTと政府の議論をまずは注視したい」と話すものの、完全民営化によってNTTへの規制がなし崩し的に緩和されることに対しては非常に強い警戒感も示している。
また、宮川氏は中長期的な企業価値向上に向け、1200億円を上限とする社債型種類株式を発行することに言及。それによって調達した資金は、長期ビジョンとして掲げる次世代社会インフラの実現や、昨今注目されている生成AIなどへの投資に向けるとしており、生成AIに関しては新会社の「SB Intuitions株式会社」を設立、本格的な取り組みを進めていることを明らかにしている。
そのためにソフトバンクは、約200億円をかけてエヌビディアからAIデータセンター基盤の「DGX SuperPOD」を調達するとしている。だが、エヌビディアとの関係はそれだけにとどまらず、携帯電話基地局などに設置し低遅延を実現するMEC(Multi-access Edge Computing)にも同社製のGPUを配置することを考えており、それをAIの推論などに活用していくことも検討しているとのことだ。
一方の次世代社会インフラに関して、ソフトバンクは現在大都市部に集中しているデータセンターの構造を大きく変えて地方に分散設置することを検討しているが、そもそも現状で大都市部にデータセンターが集中している理由について宮川氏は、海底ケーブルの陸揚げ局が千葉と伊勢志摩の2箇所に集中していることが大きく影響していると話す。
宮川氏は、データセンターは人材の確保が容易で、なおかつ陸揚げ局に近い場所に設置した方が利益が出しやすいことから、都市部に集中する傾向にあると説明。だが、その状況が続けば、データセンターの大容量化が進み電力消費が増えることで、都市部の電力が不足する可能が出てくるという。そこで同社では考え方を変え、電力に余力のある地方にデータセンターを分散設置することに「腹を決めた」(宮川氏)と話している。
ただ、陸揚げ局の問題は構造上変わらないことから、宮川氏は「海外からのケーブル接続入口をもう2箇所、九州や北海道などに作ることで構造的に分散されることを目指したい」とも説明。海底ケーブルのチームにも依頼をかけて検討を進めているとのことだ。
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