楽天グループは8月10日、2023年12月期第2四半期決算を発表。売上高は前年同期比9.5%増の9728億円、営業損益は1250億円と、引き続きの赤字決算となった。
ただ、同日に実施された決算説明会に登壇した、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏によると、その収益は「劇的に改善している」とのこと。その理由は最大の赤字要因である楽天モバイルの投資収益が大幅に改善していることにある。
楽天モバイルを含むモバイルセグメントの売り上げは、前年同期比で減収となっているが、それはこのセグメントに含まれるエネルギー事業の調達コスト増加が主な原因。楽天モバイル自体の売り上げは前年同期比13.3%増の522億円と、むしろ伸びているという。
また、ARPUも前年同期比で736円増の2010円と、2000円を超える水準に到達。楽天モバイルの契約者が楽天グループの他のサービスを利用する数も増加傾向にあり、楽天グループの売り上げへの貢献は今四半期で90億円に達するとのことだ。
だが、収益改善により大きく貢献しているのがコスト削減だという。390億円かかっていた月間のオペレーションコストを150億円削減するという目標を、2023年6月末時点で既に129億円まで削減。具体的には、KDDIに支払うローミング費用の削減と基地局開設費用の削減、そしてテレビCMなど顧客獲得費用の削減を進めており、第3四半期までの目標を前倒しで達成していることから三木谷氏は「残り21億円の(削減)見込みは立っている」と自信を見せている。
一方で、マーケティング施策はよりピンポイントで実施する形を取っているとのこと。こちらも具体的には、既存ユーザーからの紹介キャンペーンや、楽天グループの取引先店舗に向けた法人プランの提供、そして楽天生命保険の代理店の一部が楽天モバイルの販売も担うことで契約の拡大につなげているとのことだ。
結果、携帯電話事業の契約回線数は2023年6月末時点で481万、7月末時点では491万と、再び500万契約が視野に入る規模にまで拡大。さらに開通月と同月内の解約を除いた「調整後解約率」も1.40%に低減し、三木谷氏は携帯大手3社に近い水準に達したとしている。
さらに、エリア面に関しても、KDDIとの新たなローミング契約により提供を開始した新料金プラン「Rakuten最強プラン」によって、人口カバー率99.9%で無制限の高速データ通信が利用可能となったほか、東名阪の繁華街でも秋頃からローミングが開始され、かなりのネットワーク改善がなされるとの認識を示している。
加えて三木谷氏は、英OpenSignalの調査で楽天モバイルが38都道府県中16県で圏外率評価が最も低かったとし、楽天モバイルのネットワーク品質向上もアピールしている。
楽天モバイルの代表取締役共同CEOである鈴木和洋氏も、Rakuten最強プランの発表以降ユーザーの意識が「かなり変わってきている」と説明。実際、Rakuten最強プランの発表で、楽天モバイルに「乗り換えたくなった」と答えた割合が42.3%に上るとの調査結果を示し、「Rakuten最強プランを受けて真剣に(消費者が)検討するようになった」と鈴木氏は話している。
そうしたことから三木谷氏は、通信基盤確立のため積極投資をする「フェーズ1」、コスト削減を徹底しリーンな経営に重点を置く現在の「フェーズ2」から、楽天モバイル単体の黒字化と国内ナンバーワンキャリアを再び目指す「フェーズ3」に移る時期が近付いているとも説明。「フェーズ2はそろそろ終焉に近付いている」として業績改善に自信を示す。
そこで、KDDIとの新たなローミング協定の調整が完了した秋以降に、楽天モバイルでは再び大規模キャンペーン施策でRakuten最強プランの認知を進めるとのこと。そのための具体的な策として検討しているのが、7月3日に提供を開始したデータ通信専用SIMで実現している、本人確認不要でワンクリックで契約できる仕組みだ。これを楽天グループの金融サービス利用者に限定する形ながら、音声通話対応のサービスでも提供することでユーザー拡大を見込むと鈴木氏は話している。
ただ、本人確認をせずにワンクリックで申し込める仕組みに対しては、他社から懸念の声も出ている。これに対し三木谷氏は、既に楽天グループの金融サービスで実施した本人確認を活用する仕組みで「金融の本人確認はかなり厳格にやっている。むしろ携帯ショップより厳格だ」と反論。
加えて三木谷氏は、海外ではクレジットカードで本人確認できる所が多いとし、「他のデジタル犯罪を含め、日本の国としていかに予防するかという風にしていかないと。原始的な本人確認はマクロ的に限界があるかなと思っている」と、現在の本人確認のあり方に対し疑問も呈している。
楽天モバイルの今後に関してもう1つ注目されているのがプラチナバンドの免許割り当てであり、総務省は既に新しい700MHz帯の割り当て方針を打ち出している。そこで鈴木氏は「今年の秋に700MHz帯の割り当てを頂ければ、早くて今年末には最初の電波を発射できると考えている」と獲得に意欲を示した。
一方で、800MHz帯、900MHz帯の再割り当ても並行して検討を進めているそうで、「両方の機会を分析しながら最適なネットワークの構築を目指す」(鈴木氏)とのことだ。
ただ、プラチナバンドの整備を進めるとなると設備投資が増えてしまうが、鈴木氏は現在の設備投資削減計画の中に、プラチナバンド関連の設備投資を一部含んでいると説明。さらに既存基地局を最大限活用し、新しいアンテナと無線機を取り付けることで展開できること、仮想化技術を生かしソフトウェアのアップデートで工期と人件費を圧縮できることから、コストをかけずに整備できることもアピールしている。
その楽天モバイルを巡っては、元代表取締役共同CEOのタレック・アミン氏が2023年8月7日に退任したことが明らかにされている。アミン氏は楽天モバイルの立ち上げから事業に携わり、その特徴でもある完全仮想化ネットワークを実現した立役者であり、その技術を海外に展開する「楽天シンフォニー」のCEOも務めていただけに、退任の影響は大きい。
それゆえ今回の決算説明会では、楽天グループの代表取締役副社長執行役員である百野研太郎氏が、アミン氏の退任の経緯について改めて説明。楽天モバイルの黒字化が見えてきたことでアミン氏には楽天モバイルのネットワーク開発から、楽天シンフォニーの事業へと軸足を置いてもらっていたというが、アミン氏から個人的な事情があって話し合いをしていたという。
だが、その事情が改善されなかったことから退社するに至ったそうで、アミン氏に代わって楽天モバイルのネットワーク開発・運用に携わっていたシャラッド・スリオアストーア氏が楽天モバイルの代表取締役共同CEO兼CTOに就任。楽天シンフォニーは三木谷氏が代表取締役会長兼CEO、スリオアストーア氏が代表取締役社長代行に就任したとのことだ。
三木谷氏はアミン氏にの去就に関して「個人的な理由とのことなので仕方がないというのが第一」と答えた一方、「ゼロから1を作るのと、1を100にする能力は別だと思う」とも話し、より現場のオペレーションに近い立場にいたスリオアストーア氏の就任が「実務的にはポジティブと捉えている」としている。
一方で、楽天グループ全体の動向として、8月2日にOpenAIとの協業を発表したことが大きなトピックとなる。その発表がなされた「Rakuten Optimism 2023」にはOpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏とオンラインで対談するなど仲のいい様子を見せた三木谷氏だが、スタートアップのアクセラレーターであるYコンビネーター時代からの知り合いではあるというものの「すごく仲がいい訳じゃない、カラオケに行く程じゃない」と三木谷氏は話す。
OpenAIとの協業が実現したのはそれよりむしろ、楽天グループが多岐にわたるビジネスを展開しており、幅広い分野のデータを持っている企業が「世界中どこを見てもない」(三木谷氏)からだという。加えて豊富な事業から得られる高い価値のあるデータを生かして楽天グループだけでなく、パートナー企業などにもAIを活用したサービスを提供し業務効率化が進められること、楽天モバイルのエッジコンピューティングパワーにAIを活用できることなどが、OpenAIとの協業理由になっているとのことだ。
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