「ChatGPT」などの生成AIが普及して初めての夏休み。夏休みの宿題やコンテストなどでの不正使用が懸念されるが、保護者はどうすべきなのだろうか。
夏休みを前にして、文部科学省は「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」を発表している。ただし、前提として生成AIの利用自体は禁じてはおらず、今後変わる可能性もあるという暫定的な内容となっている。
ガイドラインでは、AIの利⽤を想定していないコンクールの作品やレポートなどについて、⽣成AIによる⽣成物をそのまま⾃⼰の成果物として応募・提出することは評価基準や応募規約によっては不適切⼜は不正な⾏為に当たること、活動を通じた学びが得られず、⾃分のためにならないことなどについて⼗分に指導すること、などとされている。つまり、生成AIに作らせたものをそのままコンクールの作品や夏休みの課題として提出してはいけないということだ。
そのほか不適切な例として、「情報活用能力が不十分な段階で自由に使わせる」「コンクールの作品、リポートなどで自己の成果物として提出」「詩や俳句の創作、音楽・美術の表現などで最初から安易に使わせる」「教員がコメントすべき場面で、安易に生成AIから生徒に回答させる」「定期考査や小テストなどで使わせる」「教員が児童生徒の学習評価をAIの出力のみで実施」なども挙げている。
なお、そもそもChatGPTは利用規約で、13歳以下不可、18歳未満も保護者承諾必要となっている。保護者の指導のもとでなら利用できるが、小中学生が勝手に利用することは禁止されている。
「生成AIで作成したものかどうか完全に分かる方法はない」と言われる。AIで生成したものを判別する“AI検出器”などもあるが、試しに筆者が書いたばかりの文章を入力して「ChatGPTで書いたものか」と聞いたところ「ChatGPTが書いたものです」と答えられてしまった。つまり、精度はまったく期待できず、検出器だけではわからないのだ。
では、生成AIで宿題をしても本当にバレないのだろうか。
中学生の息子に聞いたところ、「AIで書いたらさすがにバレるよ。叱られると思う」と答えた。多くの子どもがそのように感じていると思われる一方で、できるなら不正したい、と思う子どももいるだろう。事実、生成AIが出る前にも、親の手を借りて宿題をしたり、外部の業者に依頼したりといった例はあった。
しかし、そのようなものは普段の子どもの文章や作品を見ている教師からすると、ひと目でわかってしまうことが多い。明らかに普段使わない言葉を使っていたり、技術が高すぎたりするためだ。
また、生成AI作成の文章は一見それっぽいものにはなるが、作成された文章には非常に誤りも多い。たとえばChatGPTの無料版は2022年9月までの内容で学習しており、それ以後の情報には対応していない。英語版と比べて日本語では精度は高くなく、固有名詞を出して事実関係を聞くと間違っていることは非常に多い。
生成AIを活用している企業なども、最後は必ず人の目で確認することとされている。正誤を確認せずにそのまま提出した場合は、誤りから不正利用がバレてしまうリスクは高いだろう。
そもそも、生成AIで目的に合った文章や作品などを作り出すことは、難易度が高い。たとえば小中学生の文章と指定した上で、目的に合ったものを作成し、内容に誤りがないかどうか確認するという作業は、かなり手間がかかる。多くの子どもの場合は、自力で作成したほうが早く確実に目的のものが作れるだろう。
大学生のレポートや、コンテストに出品した作品などは、AIでの不正がわからないかもしれない。それでも不正が判明した例は多く、リスクを犯してまで利用するメリットは少ない。
子どものAI不正利用を心配する場合、AIで作成すると間違いが多くなること、不正がバレてしまった例は多いこと、著作権侵害や個人情報流出などのリスクもあることなどを伝えるといいのではないか。
では、保護者指導の元でAIを利用する場合、どのような使い方が考えられるのか。
ベネッセは小学生が自由研究を考える際にサポートするサービス、「自由研究おたすけAIベータ版」を発表している。利用は無料で、自分が興味があることを入力すると研究やテーマについてアドバイスされる。あくまで自由研究のテーマ決めの手助けをするサービスであり、自由研究をするのは子ども自身というところがポイントだろう。
同時に、保護者と子どもとで利用するサービスであり、利用することでAIの使い方も学べるようになっている。一日の質問数に制限を設けてあり、自由研究以外の目的での使用や、不適切な言葉を入力すると注意メッセージが出るなどの工夫もされている。
夏休みの読書感想文の宿題は、読書をする習慣、自分の考えを文章にする力を養うために出しているものだ。自由研究も、時間がある長期休暇に研究を深める体験をしてもらいたいという願いから出しているものだろう。PCやスマホが使えないテストでは自力で文章を書くしかなく、今だけ乗り切っても意味はない。
一方で、パナソニックではAIが全社導入され、東京都でも全部局でAI活用に踏み切るなど、業務効率化などの点からAI活用は推進されている。AIを使いこなす力を身につけること自体はまったく悪いことではない。
保護者は、子どもに生成AIの適切な使い方を教えつつ、同時に自分の力も伸ばせるよう見守るといいのではないだろうか。ぜひ参考にしてほしい。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/
Twitter:@akiakatsuki
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