1月、徳島県で60代男性がLINEのグループで投資話を持ちかけられ、約2010万円を騙し取られる事件が起きた。同月、滋賀県大津市で60代女性がLINEのグループに追加され、投資名目で2450万円を奪われるなど、類似被害が続いている。なぜ知らない人に追加されたLINEグループで投資詐欺に騙されしまうのか。理由と対策について見ていきたい。
徳島県の男性は、LINEで「投資学習グループ」「投資交流グループ」というグループに勝手に追加されていた。グループを通じて知り合った投資に詳しいという男に指示され、実在する投資アプリを使って、FX取引の資金として指定口座に現金を振り込んでいた。アプリでは利益が出たように見えたものの、利益が引き出せないことで発覚したのだ。
徳島県では、他にも同様の手口で50代と70代女性が合わせて5000万円あまりを騙しとられている。「投資した金を引き出すには追加の資金が必要」と言われ、家族に相談したことで被害が判明している。
滋賀県の女性も同様で、LINEの投資グループを通じて知り合った男に指示されたアプリ内に講座を開設、指定された銀行口座に資金として入金していた。どのケースも、知らない人にLINEグループに勝手に追加された点、投資に勧誘されている点が共通している。なお、アプリ上は儲かっているように見えても画面は偽ることができるので、それだけで信用はできない。
そもそも、なぜ知らない人にLINEグループに誘われて、投資までしてしまうのか。
シニア世代はスマホやSNSに慣れておらず、スマホやSNSでの詐欺被害を見聞きする、体験するといったことがなく、警戒心に乏しいことが要因となっている。スマホに慣れ親しんでいる若者世代なら引っかからない典型的な詐欺でも、簡単に騙されてしまうことがあるのだ。
また、LINEを使っていることも大きく関係している。LINEはシニア世代にも浸透しており、知り合い同士でつながるインフラとなっている。LINEでのやり取りは信頼できる人とのやり取りばかりであり、詐欺被害が起きるなど思ってもみないのだ。LINEについてよく知らないシニア世代にとっては、「友だちの友だちに追加されたのかもしれない」と勘違いするきっかけにもなっている。
このような詐欺では、複数のサクラが参加しており、投資についてポジティブな投稿を繰り返すことが多い。たとえ被害者が多少不安に思っても、周囲が投資に前向きな投稿を繰り返すうちに、「みんなが儲かっているのだから大丈夫」「投資するのが当たり前」と、正常性バイアスが働いてしまう。閉鎖的な空間で繰り替えされることで特定の意見や思想が影響力を持つ“エコーチェンバー現象”が進んでしまうのだ。LINEグループやダイレクトメッセージなどのクローズドな空間に持ち込むこと、サクラがいることは典型的な詐欺の手口なので、覚えておくといいかもしれない。
グループに追加されてしまった場合は、自分をグループに追加した人はブロック、通報しておこう。ブロックすれば再追加もされなくなり、通報することで他の人が被害に巻き込まれる可能性も減らせるかもしれない。その後、グループからは退会しておこう。
そもそも、LINEでは知らない人でも友だちに追加、メッセージを送ることもできる。電話番号を知っている相手が友だち追加できる設定、「LINE ID」による友だち追加ができる設定があるためだ。電話番号やIDは、ランダムな検索をして偶然合致した人に送ることができる。そのため、スパムや詐欺メッセージがくるので、あらかじめ対策しておく必要があるのだ。
続いて、電話番号で友だち追加できない設定にしておこう。
「ホーム」画面右上の歯車マーク→「友だち」とタップし、「友だちへの追加を許可」をオフにしておこう。オンにしてあると、ランダムな電話番号で検索して友だち追加することが可能となってしまうので、オフが推奨だ。
オフにすることで被害にはあいづらくなるが、代わりに電話番号を知っている友だちも自動追加できなくなる。手動での友だち追加など、他の手段で追加するようにしてほしい。
続いて、LINE IDで友だち追加できない設定にしておこう。
「ホーム」画面右上の歯車マーク→「プライバシー管理」とタップし、「IDによる友だち追加を許可」をオフにして、「メッセージ受信拒否」をオンにしよう。IDによる友だち追加を許可すると、ランダムなIDで検索して知らない人が友だち追加ができてしまい、メッセージ受信拒否がオフのままだと知らない人でもメッセージが送れてしまうので、必ず設定しよう。
シニア層はそもそもこのような被害を知らず、設定する必要性もわからず、設定していないことが多い。子どもや孫にあたる人は、祖父母世代がスマホやLINEにデビューする際には、このような設定をしたり、教えたりしてあげてほしい。
繰り返しになるが、スマホ・SNSにデビューしたてのシニア世代は知識や経験がないので、被害も増えている。祖父母世代の相談に乗る、安全な利用のための設定をするなど、積極的に支えてあげてほしい。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/
Twitter:@akiakatsuki
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス