16日に発表された「モバイル・エコシステムに関する競争報告書(案)」は、200ページ弱に及ぶ大作で、デジタル市場競争本部の本気ぶりがうかがえる。
アプリ配信やOS、ブラウザ、ボイスアクセスなど、スマートフォンに関連する様々な問題点や課題について言及されており、デジタル市場競争本部の調査能力の高さには恐れ入る。そんな中、筆者の興味を惹いたのが13ページにある図1−2−5「モバイルOS等に実態調査報告書」図7−5だ。
Androidユーザーに対して、ネイティブアプリをダウンロードする際に利用しているアプリストアと回数を調査したものなのだが、Google Playがダウンロード数で97.4%という圧倒的なシェアを誇っている一方で、Amazonの「App Store」が1.2%、サムスンの「Galaxy Store」が0.4%、ファーウェイの「HUAWEI AppGallery」が0.8%しかないのだ。
Galaxy Storeは、Galaxyユーザーのためのアプリ配信ストアであり、結構、サムスンとして注力していたように思えるのだが、たった0.4%のシェアでしかない。
デジタル市場競争本部はこの調査結果で我々に大きな気づきを与えてくれた。
スマートフォン上に複数のアプリ配信ストアがあったとしても、大半のユーザーはOSを提供するアプリ配信ストアしか使っておらず、競争など起きていないということだ。
Amazonは巨大な資本に支えられているだろうし、サムスンやファーウェイはスマートフォンメーカーという位置づけであるため、アプリ配信ストアは端末の差別化要因という意味もあり、継続していくことだろう。特にファーウェイは自分たちでやらないことには、アプリの入手手段もなく、どうしようもないという側面もある。
メーカーであっても1%にも満たないシェアしか取れない中、第3者がアプリ配信ストアに参入し、アップルに審査手数料を払いつづけ、ビジネスを黒字化するなんてことが可能なのだろうか。
デジタル市場競争本部が示したデータを見れば、そもそもユーザーは、他のアプリ配信ストアなんて望んでいないことがよくわかる。
また、この件に関して、ヤフーなどでもすでに記事が掲載されているが、ちょっと詳しいユーザーたちから「いまのiPhoneは安全であり、他のアプリ配信ストアが参入してくれば安全性が脅かされるので、余計ないことはしないで欲しい」との書き込みが相次ぐなど、アプリ配信ストアの新規参入を望まない声が本当に多い。
実態調査を進めてきたデジタル市場競争本部こそが「第3者のアプリ配信ストアが参入できる法律を作っても意味がない」と気がつき始めているようにも思える。
欧州を見習って「アップルはけしからん」と拳を上げてみたものの、下ろす先がなくても困っているのではないか。
このままで、iPhoneに穴を開ける法律ができ、危険性が増す一方、誰もアプリ配信ストアに参入せず、法律が形骸化して終了。ということになりかねない。
「モバイル・エコシステムに関する競争報告書(案)」が公表され、現在、今後、パブリックコメントが募集されるだろう。スマホ業界に従事する方や興味がある人は、一度、報告書を読みつつ、ヤフコメではなく、パブコメに書き込んでみるといいのではないだろうか。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」