FCNT破綻に見る総務省の「失策」--中華スマホ台頭の契機に、政策見直しも間に合わず

 「らくらくホン」や「arrows」シリーズといったケータイやスマートフォンを手がけていたFCNT(富士通のモバイルフォン事業本部が分社化)が5月30日、民事再生手続きの申し立てを東京地方裁判所に行った。これにより、携帯端末の製造・販売事業においては事業が停止されることになった。ただし、NTTドコモとKDDI、ソフトバンクにおいては、端末の販売とサポートを継続していくという。

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富士通の携帯電話事業が分社化されて誕生したFCNT

 KDDI向けをメインに高耐久性スマートフォン「TORQUE」などを供給していた京セラも、個人向けスマートフォン事業の終了を発表したばかりだ。FCNT、京セラが撤退したことで、開発部隊が横浜にあるソニー、広島のシャープという、日本メーカーは2社しか残らなくなってしまった。

 FCNTと京セラが苦境に立たされた背景には、昨今の円安基調によって部材や海外への発注コストが高騰、ここ数年、半導体不足に直面していたという点が大きい。

総務省の「失策」も背景--通信料金と端末販売の完全分離狙うも裏目に

 さらに、原因のひとつとして指摘されているのが、総務省による「失策」だ。総務省では2019年10月、電気通信事業法を改正している。改正の目的は、通信料金と端末販売の完全分離だ。

 そのころ、携帯電話料金は高止まりが続いていたとされる。3キャリア(当時)は、高額な通信料金プランを設定しつつ、そこで儲けた資金を元にスマートフォンなどの端末に多額の割引を適用させてばら撒いていた、と総務省は指摘。1円やゼロ円といった端末販売でユーザーを奪い合うのではなく、通信料金の引き下げによる競争を促進したいという狙いがあった。

 総務省は通信契約と端末販売を完全に分離し、多額な割引販売を規制すれば、キャリアは高額な通信料金プランを引き下げるのではないかと期待したのだ。そこで、総務省では、回線とセットにして端末を販売する際には「割引は上限2万円まで」というルールを設定した。

通信サービスの継続を条件としない端末の割引額上限は2万円とされた
通信サービスの継続を条件としない端末の割引額上限は2万円とされた

 しかし、この「2万円」という設定金額が、通信業界をゆがめることになっていく。

 「2万円までなら割引して良い」というルールがあれば、そのルール通りに戦うのがキャリアだ。各キャリアでは、中国メーカーである「OPPO」や「Xiaomi」といった中国市場向けの大量生産によってコストパフォーマンスに優れるメーカーに2万円程度で作れるスマートフォンを発注。価格設定が2万1円ならば、2万円の割引をかませることで、店頭では1円で販売が可能となるからだ。

 2万円程度の価格設定で、店頭では1円で売れるような機種が投入されていくことで、他のメーカーも対抗機種を出さざるを得なくなってくる。韓国メーカーであるサムスン電子は「Galaxy Aシリーズ」を展開。シャープは「AQUOS wish」、FCNTは「arrows We」を相次いで投入した。

 特に、arrows Weは「日本メーカーの2万円スマホ」として、結構な台数を稼いだとされているが、FCNTが儲かったかといえば微妙だ。日本で品質チェックを行っているものの、製造自体は海外のメーカーに発注している。半導体不足や円安の影響を強く受けているのは間違いない。

 総務省が、特に説得力の無い「2万円」という値付けをしてしまったことで、スマートフォンメーカーは2万円という値付けができるスマートフォンを作らざるを得なくなり、結果として、収益構造の悪化を招いたのだった。

 電気通信事業法が改正された2019年10月以降、確かに通信料金プランは値下げ方向となった。ドコモの「ahamo」が登場したことにより、KDDIが「povo」、ソフトバンクが「LINEMO」といったように、オンライン専用プランが登場。特に、povoは基本料金がゼロ円で回線が維持できる。

 ただ、この値下げ傾向も、実際は当時首相を務めていた菅義偉氏と、総務大臣を務めていた武田良太氏がキャリアに値下げを迫ったからというのが原因であり、必ずしも通信料金と端末販売が分離されて、4キャリア間の競争が促進された結果ではない。

上限2万円見直しも、時既に遅し--政府は日本企業を守れるのか

 FCNTが民事再生法の適用申請を発表した5月30日、総務省では有識者会議が開かれており、これまでの上限2万円から4万円に変更する意向が示された。やはり、総務省では上限2万円というのはやり過ぎたと反省しているのだろう。

 しかし、総務省が政策を見直し始めたタイミングで、FCNTと京セラが日本のスマートフォン市場から消滅してしまった。

 今後、拡大するであろう地政学リスクを考慮すると、本来であれば安心安全に使える日本のメーカーのスマートフォンというのは国を挙げて守っていく必要があるはずだ。

 日本政府は日本における半導体産業の復活に大金を投入しているが、半導体産業も率先して使ってくれるメーカーが居ないことにはビジネスは立ちゆかない。

 NTTグループは経営破綻したFCNTに対して救済しなかったようだが、同グループが開発を進める「IOWN」も、対応したデバイスを作ってくれるメーカーがなければ「画に描いた餅」になりかねない。

 政府や役所は本来であれば、日本企業が発展するために尽力すべきではないか。今回のような日本企業を路頭に迷わせる失策は直ちに見直すべきだろう。

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