「WWDC」で発表されたAppleの複合現実(MR)ヘッドセット「Vision Pro」のデモに早速参加してきた。コンパクトだが決して小さくはないこのヘッドセットはApple版「Meta Quest Pro」とでも言うべきか。ヘッドセットを頭に固定するバックストラップは伸縮性があり、着け心地は良い。後頭部のフィット感はダイアルで調整し、側面のストラップで安定感を高める仕組みだ。
普段使っている眼鏡は、デモでは外さなければならなかった。Vision Proは眼鏡をかけたままでは装着できないが、ZEISS製の視力矯正用レンズを挿入できるようになっている。セットアップのときに目に合うレンズを見つけられたので(これがなかなか難しい)、鮮明な映像を楽しむことができた。デモの前に、頭の形に合わせてVision Proのフィット感の調整や空間オーディオのチューニングが行われた。2024年の発売時には、この辺りはもう少し改善されているはずだ。
その後のデモは、ほぼ着席した状態で行われた。冒頭から驚きの連続だった。Vison Proが映し出すパススルー映像は掛け値無しに美しかった。自分の目で直接見た時ほどではないにせよ、室内の様子は問題なく把握でき、近くにいる人の姿も見える。手首に着けた時計の文字盤に表示された通知も難なく確認できた。過去に同じことができたヘッドセットは、極めて美しいがPCに接続する必要のある「Varjo XR-3」しかない。Vision Proのディスプレイとカメラは、それよりもさらに優れていた。
ディスプレイ上部のDigital Crown(つまみ)を押すと、おなじみのAppleのアプリが空間に浮かび上がる。ユーザーがどこを見ていても、ホーム画面は自動的にユーザーの正面に表示される。アイトラッキングの設定は、過去に使ったことのある多くのVRヘッドセットと変わらなかった。メロディーに合わせて光るドットに視線を移していき、最後に設定が完了したことを知らせるチャイムが鳴る。
いざ使ってみると、視線を利用したインターフェースは驚くほど快適だった。アイコンなど、選択可能なものに視線を合わせると、少し拡大されたり、強調表示されたりする。使いたいアプリのアイコンに視線を合わせて指でタップすると、アプリが開く。
筆者はこれまでも、Microsoftの「HoloLens 2」やMetaの「Quest 2」、「Quest Pro」といったヘッドセットで様々なハンドトラッキング技術を使ってきたが、通常は手をせわしなく動かさなければならない。それに対して、Vision Proはほとんど動かさずとも操作できる。手を膝の上に置いたまま、指先をつまむように動かすだけでアイコンを起動できるか試してみたが、問題なくできた。
画面をスクロールする場合は、指でつまんだり引っ張ったりするジェスチャーをする。これもかなり簡単だ。ウィンドウを飛ばすように手を動かしたり、つまんで引き寄せたりすると、ウィンドウのサイズを変更できる。「Safari」「メッセージ」「写真」など、複数のアプリを一度に開くこともできた。スクロールは楽々だが、アイトラッキングは多少集中力を要する場面があった。
このヘッドセットは、MetaのQuest Proや「PlayStation VR2」とは違い、アイトラッキングをインターフェースとして常に使用している。これがバッテリーパックが外付けである理由のひとつかもしれない。アイトラッキングをインターフェイスの主要な部分として重きを置くことは革新的だと思った。ただ、長時間使用したときにどのように感じられるかは分からない。
Vision Proがキーボードやトラックパッドとどう連携するかも、今回は試す機会がなかったので分からない。ただVision ProはAppleの「Magic Keyboard」と「Magic Trackpad」、そして「Mac」に対応している。一方、少なくとも現時点では、「iPhone」や「iPad」、「Apple Watch」のタッチスクリーンでは使えない。
デモでは、Appleの写真アルバムにプリセットされている写真や、Vision Proの3Dカメラで撮影した3D写真やビデオクリップをスクロールしながら見た。どの画像も鮮明で、パノラマ写真にいたっては、デモ会場の向こうまで風景が広がっているように感じられた。
Vision Proは壮大な風景写真を3D壁紙のように立体的に表示できるため、没入感に優れる。マイクロOLEDディスプレイの威力が発揮される場面だ。広大な湖の映像は、目の前に置かれたコーヒーテーブルの辺りまで湖面が広がり、そこで岩壁にぶつかっているように見えた。
手を顔の近くに上げると、VR映像の手前に自分の手が見える。これは「ARKit」がすでに実現している仕掛けだ。手の輪郭はややぼやけているが、十分に認識できる。この他、部屋の中にいる人に視線を向けると、相手の姿がぼうっと浮かび上がり、パススルー映像に入り込んでくるというおもしろい仕掛けもある。このおかげで、ヘッドセットを装着したままでも周囲の人とコミュニケーションを取りやすい。MRでは斬新な発想だが、この機能を無効にしたり、他者の存在感を薄めたりするにはどうすればいいのかは気になった。
MR環境では、仮想世界が現実世界に重なるように表示されるが、その比率はApple Watchから踏襲したDigital Crownで調整できる。これを回すと、3Dのパノラマ映像がゆっくりと広がり、やがて視界全体を覆う。クラウンを逆方向に回すと、映像は3Dウィンドウのような形で現実世界に浮かび上がる。
筆者は先にも述べたとおり、Varjo XR-3やQuest ProといったVRヘッドセットでMRを体験しており、その能力は理解している。だが、Appleが実現したMRは、より没入感があり、充実していて、ほとんどの面で苦労しなかった。視野も広く、鮮やかで、これ以上の体験は望めないとすら感じた。
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