AppleのMRヘッドセットは、Bloombergによると3000ドル(約42万円)前後になる見込みで、そうなった場合、すでにスクリーンやセンサーであふれ気味の世界で注目を集めるには、かなりの説得力を持たなければならないだろう。
iPhoneは、コミュニケーションのとり方やインターネットの使い方に革命を引き起こしたと言えるかもしれない。だが、今この時代、人々はもっと簡単にスマートフォンから解放されたいと考えるようになっており、その傾向は、過去10年間のテクノロジー製品にすでに現れている。
スマートウォッチ、ワイヤレスイヤホン、スマートスピーカーに共通している点は何か。どれも、スマートフォンに手を伸ばさずにインターネットにアクセスできるということだ。「Spotify」のプレイリストで次の曲に進んだり、音声アシスタントに今日の天気予報を聞いたり、手首の上でテキストメッセージを受け取ったりできる。MRヘッドセットとなると、体験しているコンテンツにさらに入り込むことになり、これとは正反対の方向に進むように思える。
生成系の人工知能(AI)は、プロンプトに応じてコンテンツを作成できるが、そのAIの発展さえ、スクリーンに向かう時間を減らすように設計されている。例えば、Googleは先ごろ、「Help Me Write」という「Gmail」の新しい機能を披露した。簡単なプロンプトからメッセージの下書きを作成する機能だ。このようなツールは、メールなどの返信を書くために費やす時間を短縮してくれるし、新しいハードウェアよりも影響力があることはほぼ間違いない。実際、2023年に入ってからの技術系の記事をたどってみると、AIは、独自の「iPhoneモーメント」(iPhoneと同じように変革を起こす瞬間)到来の真っただ中にあることが明白だ。
近年では、Appleのガジェットが私たちの生活の中である役割に落ち着くまでの時間は長くなっており、Apple Watchはその最たる例である。2014年に発表されたとき、Appleはこれを個人用時計と位置付け、そのスタイリッシュなデザインと時刻の正確性を強調していた。健康とフィットネスが言及されたのは、もっと後のことだ。
だが、Apple Watchが成熟して人気も高まってくると、Appleは全面的に健康の方向に舵を切る。2018年の「Apple Watch Series 4」モデルでは心電図(ECG)機能を追加し、心臓の健康に関するデータを充実させて、これがApple Watchの転換点になった。翌2019年になると、最高経営責任者(CEO)のTim Cook氏は、Appleの「人類への最大の貢献」は健康に関する点になるだろう、とCNBCに語っている。初登場からおよそ3年後に、健康とフィットネス、ウェルネスのトラッキングが最も重要な目的であることが明らかになったのだ。iPhoneは、すぐにあらゆる人のポケットに入り込んだわけではないかもしれないが、ハンドヘルドコンピューター、MP3プレーヤー、電話という役割は、当初から明らかだった。
今は、うわさされているヘッドセットをAppleが発表するタイミングとして適切なのだろうか。筆者には答えられないし、Appleにも答えられるとは思えない。だが、確かなことが1つある。もしヘッドセットがヒットしたとしても、その成功は初代iPhoneのときとは、かなり違うものになるということだ。Apple Watchのたどった道が参考になるとすれば、ヘッドセットの真の役割を私たちが理解できるのも、発表から何年か後ということになるかもしれない。失敗と見なされることはないだろう。ただ、その時代を物語っているというだけのことだ。
いわゆる「iPhoneモーメント」は、もう永遠に訪れないのかもしれない。あるいは、時代が変化しているだけなのかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
Copilot + PCならではのAI機能にくわえ
HP独自のAI機能がPCに変革をもたらす
働くあなたの心身コンディションを見守る
最新スマートウオッチが整える日常へ
ドコモビジネス×海外発スタートアップ
共創で生まれた“使える”人流解析とは