アップルの新しいヘッドセットは「iPhoneモーメント」を再び作り出せるか - (page 2)

　2007年に「Macworld」カンファレンスでiPhoneがデビューするだいぶ前から、インターネット、MP3プレーヤー、携帯電話の3つが日常生活に浸透していたのは明らかだ。iPhoneは、そうした傾向の集大成であり、人々がすでに日常生活でテクノロジー製品を使っていた現状に、ハードウェアの方が追いついた形だった。PDAや初期の「スマート」フォン、例えばIBMの「Simon」は有望なスタートを切ったものの、その大部分はハンドヘルドコンピューターとして設計されており、そこに携帯電話の機能が追加されていた。

　iPhoneや他の最新スマートフォンは、その概念をさらに一歩先に進めた。2008年にAppleの「App Store」が開設されると、iPhoneなどの携帯端末は万能になり、それ以前のビジネス用途中心だったPDAを超えて機能が広がった。今やモバイルデバイスは、電話として機能するほか、インターネットおよび電子メールのポータル、音楽プレーヤー、小型テレビ、懐中電灯、財布、鍵などなどの機能まで果たすようになっており、その大きな要因はアプリの普及がきっかけだった。

提供：Angela Lang/CNET

　ただし、iPhoneでさえ一夜にして成功を収めたわけではないことは、覚えておいた方がいい。初代モデルは高価で、当初はキャリアがAT&Tに限定されていたし、Appleが携帯電話事業では新参だという意識もあり、iPhoneの将来性については疑問視する声も確かにあったのだ。米CNETの元編集主幹Kent German記者がレビュー記事で指摘していたとおり、初代モデルは欠点が多かったことも思い出そう。

　にもかかわらず、iPhoneが長期的に大きな影響力を持ったのは、すぐさま全員が利用できるようになったわけではないにしても、適切なタイミングでニーズを満たしたからだ。iPhoneの前に登場したテクノロジーを思い出してみてほしい。MicrosoftのSPOTプラットフォームは、腕時計や家電製品といった日常的によく使うものをスマートなガジェットに置き換えようという試みで、今日のスマートウォッチや、いわゆるモノのインターネット（IoT）のブームを先取りするものだった。SPOTウォッチはヒットしなかった。かさばるデザインだったことや、Microsoftの「MSN Direct」サービスにアクセスするためにサブスクリプション料金が必要だったことにも、その原因の一端がある。米CNETのDavid Carnoy記者が2008年に記したように、当時のその分野におけるMicrosoftの取り組みは終わりを迎えることになった。

注目の奪い合いはさらに熾烈に

　時間を現在まで早送りすると、今テクノロジー業界で盛り上がっているのは、同じような瞬間がAppleの歴史にまた訪れるのかどうかという点だ。Appleは6月5日に同社初の複合現実（MR）ヘッドセットを発表すると報じられており、Bloombergによると、ゲーム、通信、フィットネスなどにわたるアプリとソフトウェア機能が搭載されるという。スマートフォンやタブレット、スマートウォッチといったデバイスを普及させることに関してAppleには定評があることから、ヘッドセットでもまた同じことを繰り返すのではないかという期待がある。

　その見込みは十分にあるかもしれない。だが、ヘッドマウント型コンピューターをiPhone並みに普及させるというのは、Appleにとっても容易なことではない。これもやはり、決め手となるのはタイミングだろう。スマートウォッチからワイヤレスイヤホン、タブレットからスマートスピーカーまで、私たちの日常生活でさまざまなニーズを各々満たしているガジェットは数多く存在する。その数は、初代iPhoneが発表された頃よりずっと多くなっているのだ。

提供：Lexy Savvides/CNET

　調査会社Parks Associatesによると、米国ではインターネット接続したデバイスの1世帯あたりの保有台数が、2022年の時点で平均16台だったという。また、Pew Researchによる2021年の調査では、米国の成人のうち31％がほぼ常にオンライン接続していると回答している。2023年5月に結果が発表されたReviews.orgの調査によると、米国では自分がスマートフォン依存だと回答した人の数が56.9％にのぼるという。