ゲーム業界の目覚め--ゲームが気候変動のためにできること - (page 2)

David Lumb (CNET News) 翻訳校正: 編集部2023年05月30日 07時30分

ゲーム業界の取り組み

 サンフランシスコで開催されている年次ゲーム開発者会議「Game Developers Conference(GDC)」には毎年、数万人のゲーム開発者が集まる。参加者たちは、パネル発表の合間を縫って名刺を交換し、パートナーシップの可能性を探りながら、ゲーム開発という過酷な競争市場で人脈を築き、教訓を共有している。この3月下旬に開催されたGDCでは数百のイベントが開催されたが、中には気候変動に特化したものもいくつかあった。

 特に注目を集めたのは、Microsoftによる新しいソフトウェアツールキットの発表セッションだ。「Xbox Developer Sustainability Toolkit」と名付けられたこのツールは、開発者がゲームのパフォーマンスを見直し、エネルギー消費効率を高めることを可能にするものだ。同社は、プレイヤー自身が家庭用ゲーム機のエネルギー消費を管理するためのアップデートも複数実施した。

 パフォーマンスとグラフィックはプレイヤー(とゲームメディア)の注目を集めやすいため、この2つを追究することが競争に勝つための最適解となってきた。しかしプレイヤーの意識が変わり、気候変動対策が重視されるようになってきたことから、Microsoftはゲームのエネルギー効率を開発段階から高めることで、ゲームプレイ時に排出される温室効果ガスを減らす方法に目を向けるようになっている。

 同社のゲームサステナビリティ担当ディレクターのTrista Patterson氏は、「これはゲーム開発者が消費電力と温室効果ガス排出量をリアルタイムで測定できる初のツールだ」と米CNETに語った。同氏は、排出量削減を掲げる40のゲームスタジオとパブリッシャーが参加する「Playing for the Planet Alliance」の共同設立者でもある。

 この新しいツールを使うと、開発者は開発中のゲームを実行しながら消費電力を確認し、直接コードを編集できる。

 実際にゲーム「Halo Infinite」の開発者にこのツールキットを使って省エネ化が可能な部分を探ってもらったところ、一時停止中の画面やメニュー画面など、プレイヤーが気づきにくい部分の解像度やフレームレートを落とすことで、プレイヤーに意識させずに消費電力を最大55%削減できることが分かった

 このツールキットはPCゲームと「Xbox」ゲームの開発者向けに提供される。XboxのチームがUbisoftのプロデューサーと会い、このツールキットについて話をした時は、ゲーマーの毎月の電気代を安くするために、あるいは環境保護に関心のあるゲーマーに温暖化ガスの排出量が少ないという利点をアピールするために、ゲームに「エコモード」を導入するアイデアをめぐって議論が盛り上がったとPatterson氏は言う。

 Patterson氏がPlaying for the Planet Allianceの共同設立者であることを考えれば、同氏が業界の団結に環境問題を解決する糸口を見出していることは驚くに値しない。ゲームは、「問題を新たな視点から捉えることを可能にする、すばらしい芸術的な手段だ」と同氏は言い、ゲームを良い状態に保つことは、多くの人にとって創造性と楽しみを維持する方法であり、気の滅入る時代には不可欠のものだと続けた。

 「遊びは絶望に対する解毒剤だ」(Patterson氏)

 Microsoftは、ゲーム機メーカーの中でも、特に気候変動対策に力を入れてきた企業だ。少なくとも、同社の取り組みは他のどの企業よりも話題を集めてきた。米CNETのサイエンスエディター、Jackson Ryanが指摘しているように、プレイヤーにソフトウェアレベルの省電力オプションを用意しても、大した省エネにはつながらず、むしろ話題集めのネタと見なされかねない。しかし、Microsoftはリサイクル素材で作られたXbox用の新型コントローラーを投入するなど、プレイヤーが自身のフットプリント(環境負荷)を減らす方法を提供している。

 それでもソニーや任天堂といったプラットフォーム企業と比べれば、Microsoftの取組みは明確な意図に基づく、計画的なものと言える。ソニーと任天堂はどちらも、サステナビリティに関する取り組みをまとめたCSRレポートを公表している。例えば任天堂は、事業を運営している国の環境保全関連の規制を順守し、その一覧を公表しているが、排出量を削減するための明確かつ包括的な戦略は策定していない。

 米CNETが任天堂から入手したコメントには、「環境負荷の低減は、任天堂全体のCSRにおける4つの重点項目のひとつであり、今後もさまざまな活動を通じて継続的に取り組んでいく」と書かれていた。

 一方、ソニーは2030年までに自社オペレーションに使用するすべての電力を再生可能エネルギー由来の電力でまかなうという目標を掲げている。さらに2040年には事業活動全体でカーボンニュートラルを達成するとしている。ここにはサプライチェーンを通じた製品の製造から輸送プロセスまでが含まれているが、プレイヤーが排出する温暖化ガスの削減も含まれているかどうかは定かではない。

GDC会場での会話とコミュニティ

 「GDC 2023」では、国連環境計画のYouth, Education and Advocacy部門担当責任者Sam Barratt氏によるセッションも開催された。同氏は、Playing for the Planet Allianceの共同設立者でもあり、同団体を代表して、ゲーム会社が気候変動に立ち向かうために何ができるかを説明した。

GDCの入り口
提供:Bloomberg/Getty Images

 数十人の聴衆の大部分はゲーム開発者だった。Barrett氏は聴衆に10個の質問を投げかけ、自分の職場のサステナビリティ対応度を診断してもらった(この質問はオンラインでも公開されている)。この診断は、まだ何の環境措置も講じていない職場で働いている人々が恥ずかしい思いをしないよう配慮して行われた。

 「基準を高く設定しすぎると、多くの人は自分には関係ないと感じて離れていき、先進的な取り組みをしている少数の企業だけが参加する偏ったコミュニティになってしまう」とBarrett氏は言う。「われわれが目指しているのは、現在の取り組みがどの段階にあろうと、誰もが軽んじられていると感じることなく参加できる場を作ることだ。取り組みを進め、加速させられるように、助け合い、協力し合うことのできるコミュニティを作りたいと考えている」

 Playing for the Planet Allianceは、ゆっくりと、しかし着実に影響力を強めつつある。2022年の年次報告書によれば、メンバーの64%がネットゼロやカーボンニュートラルの達成に取り組んでいるという。また、同団体が開催した、サステナビリティをテーマにしたゲームを制作するイベント「Green Game Jam」では、250万本もの植樹を実現した。Ubisoftのゲーム「Riders Republic」では、ゲーム内で気候変動マーチが行われた。

 それでも変化のスピードが遅すぎる、と考える人々もいる。スウェーデンのウプサラ大学准教授、Patrick Prax氏はそのひとりだ。

 同氏はGDCの会場で米CNETの取材に応じ、「ゲーム業界は、状況がどれだけ切迫しているか、やるべきことがいかに多いかをまだ理解していないのではないか」と語った。

 気候変動に貢献する方法を考えたことさえない業界もあることを考えれば、ゲーム業界は先を行っているとPrax氏は言う。しかし、社会の仕組みを根本から見直すことが国連の提唱する気候変動対策だとすれば、フレームレートを変える程度では到底、目標は達成できない。

 Prax氏によれば、気候変動に対処するためには必ず解決しなければならない問題がいくつかあるという。

 排出量の削減は当然として、ゲーム機やPCに使われている部品にも解決すべき問題がある。例えば、スマートフォンやゲーム機の生産に欠かせない「コルタン」という鉱物が、コンゴ民主共和国の子供たちに労働を強いていることは広く報道されているとおりだ。

 排出量を削減する責任をプレイヤーだけに押し付けても問題は解決できない。排出源そのものを根本的に改革する必要がある。世論の圧力にさらされている多くの産業と同じように、ゲーム業界にも2つの選択肢があるとPrax氏は言う。業界主導で解決策を生み出すか、法規制の整備を待つかだ。

 法整備を待つことは最良の解決策とは言えない。新しい法律の成立には年単位の時間がかかり、妨害されることも多いからだ。とはいえ、任意であれ強制であれ、ビデオゲーム会社に業界規模の排出規制の導入を迫る積極的な動きも見られない。

 方向転換を求められているのはゲーム業界だけではない。ゲーム文化やメディア文化も変化を迫られている。最先端のグラフィックに対するプレイヤーの要求水準を下げることは、その一例だ。スタジオやパブリッシャーだけでなく、ゲームジャーナリズムにもできることがあるとPrax氏は言う。例えばレビュー記事を書く時には、ゲームをプレイするために必要なエネルギーコストに言及してもいいかもしれない。

 プレイヤーも巻き込むべきだ、とも同氏は言う。自分がどれくらいのエネルギーを使っているかをリアルタイムで把握できるようにすることは、その一助となる。Prax氏の下で学んでいるウプサラ大学の学生たちは、プレイヤーがゲーム中にゲーム機やPCの電力効率を確認できるインターフェースアイコンを開発した。

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