ゲーム業界の目覚め--ゲームが気候変動のためにできること - (page 3)

David Lumb (CNET News) 翻訳校正: 編集部2023年05月30日 07時30分

開発者自身による業界改革

 Ubisoftの開発者Arnaud Fayolle氏は、同僚を巻き込んで気候問題に取り組む社内グループを立ち上げた。その後、Fayolle氏はUbisoft初の気候問題専門のアドボカシー職に任命されている。GDCでは、ゲームのストーリーやシステムを使って、気候問題に対する意識を高める方法を紹介した。ゲーム内で資源の枯渇や化石燃料の使用がもたらす環境汚染の深刻化といった問題に取り組むことは、現実世界の問題に対するプレイヤーの意識にも影響を与えられる可能性がある。

 Fayoll氏によれば、ビデオゲーム業界は教育的なコンテンツ、プレイヤーに行動を起こし、環境に配慮した慣行を促すコンテンツを作ることで、気候変動対策に主導的な役割を果たすことができるという。「ゲームデザインでいうところの、『正の強化』のループだ」と同氏は指摘する。

 GDCでは、国際ゲーム開発者協会(IGDA)の気候専門家グループによる2つのラウンドテーブルも開かれ、Prax氏、Fayolle氏をはじめ、多くの人が意見を交換した。Fayolle氏が設立に関わったIGDAの気候専門家グループには、ゲーム業界の専門家、学者、研究者などが参加している。

 同グループの「Discord」コミュニティには約800人が登録しており、内外の関係者を巻き込みながら、ゲーム業界を団結させる戦略的な方法を検討している。GDCのラウンドテーブルセッションには、IGDA気候専門家グループのリーダーたちが参加し、気候変動が世界中のゲームスタジオに与えている影響に耳を傾けた。

 「私たちが愛するゲームをこれからも開発し、プレイし続けるためには、このビジネスのあり方、コンテンツやプレイヤーに対する考え方を進化させ、応えるべきニーズに応えていく必要がある」と語るのは、Fayolle氏とともに同グループを設立し、Xbox Game StudiosでクラウドゲームのシニアUXストラテジストを務めるPaula Angela Escuadra氏だ。

 職場の気候変動対策に関する業界共通の基準やリソースはないため、気候専門家グループのメンバーは開発者向けに、ゲーム業界が環境保護に貢献する方法をまとめた「環境に配慮したゲームデザインプレイブック(Environmental Game Design Playbook)」を作成した。メンバーは研究を通じて、開発者が気候変動対策に貢献するためには、「気候問題に関する知識」、「環境に配慮した思考」、「変化を起こせるという自信」、「希望」の4つが重要になることを明らかにした。気候専門家グループに参加するような開発者は、最初の2つは備えている可能性が高いが、3つ目で行き詰まっていることが多いとEscuadra氏は指摘する。

 ゲームに気候問題を取り入れると、現実から逃れるためにゲームで遊ぼうとしているプレイヤーに嫌われるのではないかと思うかもしれない。しかし、これは新しい試みではない。すでに1980年代から気候関連のシナリオや設定を取り入れたゲームは作られてきた。現実はゲームの世界にも反映されるからだ。最近では「I Was A Teenage Exocolonist」のようなインディーゲームが、資本主義が誘発する気候破壊というテーマに正面から取り組んでいるが、「Horizon Zero Dawn」や「Gears of War」といった主流の大作ゲームも、気候変動による文明の崩壊を設定に取り入れている。

 「長期的には、ゲーム開発のあらゆる側面にサステナビリティの要素を組み込みたい」とEscuadra氏は言う。「それを個々のゲームにどう落とし込むかはゲーム開発者に委ねられている。私たちの仕事は、そのプロセスが少しでも簡単で測定可能なものとなるよう支援することだ」

 ゲームには、遊びを通じて変化に必要なインスピレーションをもたらすという、他にはない特性がある。これは気候変動対策を考える上で重要なポイントであり、ゲーム開発が持つ力だと同氏は言う。つまり、生命が脅かされるような重大な脅威が存在する世界を作り、その世界でプレイヤーがさまざまなツールを駆使して脅威に挑めるようにする。たとえ失敗しても、プレイヤーには再挑戦のチャンスがある。

 「こうした安全性は非常に重要だ。しかし、現実の世界では手に入らない」と同氏は語る。「その一部でも現実の世界に持ち込むことできれば、人々は失敗を恐れることなく、驚くほど多くのことを成し遂げられるだろう」

 IGDA気候専門家グループのメンバーリストに、冒頭で紹介したインディーゲームの開発者Kara Stone氏の名前があることは意外ではない。ソーラーパネルでゲームサーバーを動かすという同氏のプロジェクトは、グループの理想を体現するものだからだ。そして、ゲームが環境に与える負荷を低減し、化石燃料依存からの脱却を加速させる方法を模索しているゲーム開発者は同氏以外にも数多くいる。

 「それぞれのゲームには見栄えや実際の設計だけでなく、生産・流通方法にもさまざまな可能性がある」とStone氏は言う。「やり方は無数にあり、そのこと自体が素晴らしいと思う」

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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