ゲームプレーヤーたちは、数十年前からテーブルトップ・ロールプレイングゲーム(RPG)を楽しんできた。「ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)」という名のゲームが登場し、仲間が手書きのキャラクターシートを手にテーブルを囲むようになって以来のことだ。今では、キャラクターシートをデジタルで作成して、自分のキャラクターのレベルアップに応じて自動的に書き換えられるようになり、D&Dをオンラインでプレイできる方法も多様化している。だが、進化した次のRPGでは、よく知られた架空の世界を舞台に、人工知能(AI)によって導かれる冒険が待ち受けているかもしれない。
そんな冒険を作り出そうとしているのが、Hidden Doorという会社であり、最高経営責任者(CEO)のHilary Mason氏は、20年に及ぶAIおよび機械学習の経験をこのプロジェクトにつぎ込んでいる。筆者はMason氏にインタビューし、最近の爆発的なAIの発展、機会とリスク、そして同社がAI技術を利用して、「オズの魔法使い」を手始めに、古典的なゲームジャンルをどのように作り変えようとしているのかについて話を聞いた。
AIは、2022年の後半から突如として文化的な一大現象になった。その先駆けになったのが「Dall・E」やOpenAIの「ChatGPT」といったサービスだ。続いて、MicrosoftとGoogleも独自のAIツールで対抗し出したため、AI界隈はさらに活況を迎えている。しかし、そこには黎明期ゆえの苦しみも伴う。AIツールは誤った情報を生成しがちであり、ときには奇妙な内容を出力することもあって、Microsoftが制限を課す事態にもなったほどだ。今や大手テクノロジー企業は、AIの価値を最大限引き出す最もうまい方法を編み出そうという軍拡競争に突入した感さえある。
そうした技術に、クリエイティブなアプローチを試みているのが、Hidden Doorだ。
「私は大学院時代を通じてずっと、D&Dをはじめとする多くのテーブルゲームで遊んでいた」と、Mason氏は同社の創業に至る経緯を語った。「人との付き合いで楽しかった思い出というと、特に20代の頃は、友人とテーブルを囲んで一緒に創造性を膨らませるゲームで遊んでいたときのことばかりだ」。そうした高揚をAIで作り出せるという可能性に気づいたとき、同氏はそれを形にしなければ、と考えたのだという。
Mason氏によると、Hidden Doorが目指しているのは、人が物語を読んだり観たりしたあとで、もっとその世界に浸っていたいという欲求を活用しようとすることだという。映画を観て、「この世界もキャラクターも、まだ味わい足りない」と感じる人がいるなら、その物語の中でもっと遊べる方法を提供したいとHidden Doorは考えているのだ。
同社が扱っているのは、知的財産をライセンス提供する意思のあるクリエーターとの直接契約か、パブリックドメインになっている作品のみだ、とMason氏は話す。プレーヤーは世界を選んだうえで、それをさまざまな雰囲気やジャンルに設定することができる。D&Dのゲームと同じこともできるが、Hidden DoorはそのRPG体験に、AIならではのひねりを加えようとしている。
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