人工知能(AI)は、手遅れになる前に何らかの形で規制する必要がある。
おそらく、「ChatGPT」が登場する何年も前からそうした主張を耳にしてきたことと思う。そしてChatGPT公開からこの数カ月の間に、100回は同じことを聞いたことだろう。
AIについて何も対策を講じなければ、どうなるだろうか。AIの開発が現在のペースで続けば、大惨事を招くのではないか、という懸念の声がある。それが誤った情報の氾濫や膨大な雇用の喪失であれ、世界の終末であれ、AI革命にはとてつもないリスクが伴う。
3月には、すべての研究所にAIの開発を6カ月間停止するよう求める書簡が公開された。その間に、政府側で現実的な規制の策定に乗り出してもらおう、というのが狙いだ。Elon Musk氏やAppleの共同創設者であるSteve Wozniak氏をはじめとしたテクノロジー業界や学術分野の重鎮と共にこの書簡に署名しているのが、「サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福」の著者であるYuval Noah Harari氏だ。
Harari氏は4月、「ここ数年で新たなAIツールが登場し、人類文明の存続を脅かしている」とコメントしている。「AIは言語を操作し生成する驚くべき能力を獲得した。(中略)それによってAIは、私たちの文明を制御するためのシステムをハッキングした」
これは、文字通り人類についての書籍を執筆した人物からの警告だ。
AIは近い将来、知能が高くなりすぎて制御できなくなるので、今すぐガードレールを設ける必要がある、というのが公開書簡の訴えだ。つまりMusk氏によれば、「何か悲惨なことが起きてから規制を設けるのでは、もはや手遅れで規制を導入できない可能性がある。その時点で、AIが支配する世界になっているかもしれない」。
しかし、AIの法規制を急ぐべき理由はほかにもある。歴史を振り返れば、AIを政治的に規制できる期間は限られている、ということが分かる。
問題は、いつものことだが、文化戦争だ。つまり、「Twitter」などのソーシャルメディアプラットフォームで日々可視化されている一部の考えを武力化することに躍起になっている政治家やネット上の詐欺師たちによって、多くの重要な問題が取り上げられ、党派争いに利用される。AIが文化戦争の一部になれば、考え抜かれた広範な規制の策定は大幅に困難になるだろう。
政治問題化への過程はもう始まっているかもしれない。例えば、先ほど紹介したMusk氏の発言はどうだろうか。この発言は、米国のニュース専門放送局Fox Newsで放送されていたTucker Carlson氏の番組(現在は放送終了)でされたものだ。Carlson氏は、Musk氏が登場するコーナーの1つを以下のように紹介した。
「長期的には、AIに自我が芽生えて世界を征服するということもあるかもしれない。しかし、短期的には、AIは、人々の考えをコントロールしたり、大統領選挙の前夜に人々の自律的な判断力を奪って民主主義を終わらせたりする目的のために、政治家によって利用されるだろう」
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