「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が米国時間4月5日に公開された(日本では28日公開予定)。ビデオゲームを象徴する存在となった双子の配管工、マリオとルイージが1983年の傑作アーケードゲーム「マリオブラザーズ」に初登場してから40年という、節目の年の公開となった。任天堂とアニメ製作プロダクションのイルミネーションが共同製作したこの作品は、あらゆる年代のファンを喜ばせるべく作られた、明るくて楽しい娯楽作で、史上最も有名なビデオゲームキャラクターであるマリオの不朽の地位を改めて証明するものとなった。
だが、マリオを世界各国のゲーマーがこよなく愛するキャラクターに押し上げるのに最も貢献した2人の人物は、今でも謙虚なままだ。宮本茂氏は、長年任天堂でゲーム開発に携わった故・横井軍平氏とともに、マリオの誕生に貢献し、今に至るまでマリオが登場するゲームに関わり続けている。一方、近藤浩治氏は、メガヒットとなったファミリーコンピュータ版「スーパーマリオブラザーズ」を皮切りに、任天堂が送り出した数々の傑作ゲームで音楽を担当し、現代のカルチャーをまさに象徴する数々のテーマ曲やサウンドエフェクトを生み出した人物だ。
「マリオ」シリーズを新たな高みへと押し上げた今回のアニメ映画でも、宮本氏と近藤氏の影響が至るところに見て取れる。この点はピーチ姫やキノピオ、クッパ、ドンキーコングなどのこよなく愛されてきたキャラクターから、すべての効果音やおよびバックに流れるメロディーまで、徹底されている。このサウンドを聞けば、観客はマリオがハテナブロックを開く音を初めて聞いた時へと引き戻されるはずだ。
筆者は幸運にも、これらゲーム界の伝説的人物2人とひざを交え、通訳を介しながら、40年にわたる2人のキャリアの集大成となるスーパーマリオブラザーズの新作映画と、この作品が任天堂の未来に対して持つ意味について語り合うことができた。最初にネタバレをしておくと、さらなるアニメ映画が登場する可能性があるようだ。
任天堂が米国で初めて映画の世界に進出したのは1993年で、この年に公開された実写映画「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」のために人気キャラクターをライセンス供与している。だが、この映画はひどく風変わりなSF調の作品として悪い意味で有名となり、マリオのファンと一般の映画の観客の両方を困惑させた。当然ながら、今回の新しいマリオ映画では、任天堂は前回よりもはるかに積極的に製作に関わっている。今回は製作面でも、人気の高い「怪盗グルー」シリーズや「ミニオンズ」で実績を持つアニメ製作会社のイルミネーションと手を組んでいる。
新作の「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は、おなじみの敵キャラや、キノピオ、アイテムが飛び出すブロック、別ワールドにワープできる土管などが次々に登場する、明るく楽しい娯楽作品だ。プラットフォームで展開するおなじみの「マリオ」シリーズの動きを彷彿とさせる横スクロール風のショットに加え、ゲームから直接取り入れられた効果音やテーマ曲がふんだんに使われている。これらの音楽は、オリジナルの音楽製作を担当した近藤氏が、映画版で作曲を手がけるBrian Tyler氏のためにピックアップしたものだ。
任天堂は、作中のキャラクターの行動が、マリオゲームを長年楽しんだファンの期待を裏切らないようにすることを心がけた。マリオは勇気を持ち、クッパは悪党で、ピーチ姫は優しさと勇ましさを兼ね備えている。もっとも宮本氏は、イルミネーションの最高経営責任者(CEO)でこの映画では共に製作に名を連ねるChris Meledandri氏と初めて会談した際に、映画というメディアに合わせてキャラクターにより劇場作品に適した役割を与える必要性に気づかされたという。ピーチ姫は単なるとらわれの姫君であってはならず、悪党のクッパは映画の大スクリーンに見合った極悪さを備えていなければならなかった。
「私たちは、これらのキャラクターがゲームで果たす役割と、劇場作品で果たす役割を分けて考える必要性について話し合った」と、宮本氏は振り返る。「劇場作品での各キャラクターの役割を通じて伝えたいものがあった。映画ではキャラクターのより人間的な側面を引き出せた」
また、任天堂は映画化の機会を利用して、マリオをめぐる壮大な物語を築き上げた。これは新たなメディアでなければ不可能なことだ。
10年ほど前、任天堂はちょうど新型ゲーム機「Wii U」を発売したところだった。これは最も高性能なゲーム機を生み出そうと、セガやMicrosoft、ソニーと数十年間にわたってしのぎを削ったのち、同社が独自路線に踏み出したことを示す動きだった。
「それ(他社との競争)から脱し、任天堂でしか味わえない体験の提供に全力投球する段階に入った」と宮本氏は当時を振り返る。「ひょっとしたらゲームの枠を超え、任天堂を人々が楽しみ、愛するブランドにすることができるのでは?と考えたのが、このころだった」
任天堂は当時、モバイルゲームやテーマパーク、さらには映画のような新分野への進出を模索し始めた。これによって、ゲームだけを制作していた間に任天堂が従ってきた事業運営の枠組みに、ついに変化が起きた。具体的には、マリオの新作ゲームそれぞれが、すっかり有名なキャラクターとなった配管工のマリオについて、基本的に新たな設定でスタートすることとし、今後のゲーム作品でマリオの自由を制限しないように、キャラクターの肉付けを避けるようになったのだ。
「マリオに家族がいるかどうか、マリオの好物は何か、といった部分だ。そうした要素はすべて、ゲームには不要なので、ディテールを盛り込まないことにした」と宮本氏は解説した。
だが映画版では、こうしたゲーム版での制約は取り払われた。今回の「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は、ゲーマーがこよなく愛するマリオとルイージの兄弟が、おなじみの世界にいるところからスタートする。具体的には、2人は(原典に忠実に、1983年発表のゲーム「マリオブラザーズ」の舞台である)ニューヨーク市のブルックリン区で、創業間もない配管業を軌道に乗せようと奮闘している。
マリオとルイージは、イタリア人の賑やかな大家族のもとに戻り、パスタとキノコ(実はマリオはキノコが大嫌いで、これが後段で披露される楽しいギャグの伏線となっている)の夕食を共にする。そして、特に父親から、2人がこれまでの失敗をからかわれる、という展開が待っている。
今回の映画では、ピーチやドンキーコングといったキャラクターにも背景の物語が用意されている。クッパも彼なりの問題を抱えているが、それが何かは映画を観てのお楽しみだ。
長年マリオの音楽を担当してきた近藤氏は、マリオの膨大なテーマ曲の中から厳選した曲目リストを、今回の映画で音楽を担当するTyler氏に送った。このリストをもとにTyler氏が映画用に書き上げたメロディーと曲は、近藤氏を満足させるものだった。近藤氏が生み出した数々の有名な効果音は、(Skywalker Soundに採用されたのち)この映画にも使われたが、1つだけ、同氏がまったく関わっていないパートがある。Jack Black氏演じるクッパが、せつない恋心を歌い上げる場面だ。
「私はこの音楽には一切関わっていないが、(Jack Black氏の)歌い方と声は素晴らしいと思う」と、近藤氏は語った。「(Black氏の歌を)聞くたびに笑ってしまう」
近藤氏は過去のインタビューで、「スーパーマリオブラザーズ」シリーズの最初のゲームでは音を手作業でプログラムしなければならなかったと明かしている。その後の飛躍的な技術革新は近藤氏の曲作りにも良い影響を与えたという。
「利用できるハードウェアやツールの進化に合わせて、ゲーム音楽も進化していった。もちろん、私の曲作りも例外ではなく、この流れに沿って進化してきたと思う」と、近藤氏は振り返る。
もっとも、それによって目指す音楽が変わったわけではない。「プレイヤーのゲーム体験を高めることを常に考えてきた」と、近藤氏は言う。
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