アップルのMRヘッドセットは買いか?同社製品がたどってきた進化のパターンを振り返る

Scott Stein (CNET News) 翻訳校正: 編集部2023年04月04日 07時30分

 以前から噂されていながら、長らくベールに包まれていたAppleの複合現実(MR)ヘッドセットが近いうちに登場しそうだ。早ければ6月6日に開催される同社の世界開発者会議(WWDC)が発表の場となるかもしれない。実現すれば、Metaの「Quest 2」や「Quest Pro」、Sonyの「PlayStation VR2」など、さまざまな製品がひしめく新しい拡張現実(AR)/仮想現実(VR)デバイス市場は、さらなるにぎわいを見せることになる。これまでの報道では、Appleのヘッドセットは高額で、独自のプロセッサーを搭載し、発売時点では限られた機能しか使えないと予想されている。

仮想現実をイメージしたAppleのロゴ
提供:James Martin/CNET

 一部の報道によれば、このヘッドセットをまだ完成とは言いがたい状態で発売すべきか、もっと機能性を高め、普段使いができるレベルになってから発売すべきかについては、Apple社内でも意見が分かれているという。

 個人的には、どちらでも大した違いはない。どのみち3000ドル(約40万円)とも言われる初代モデルを買う人などほとんどいないからだ。

 身も蓋もないようだが、これは事実だ。奇跡でも起きない限り、Appleの第1世代のAR/VRデバイスが後継機への足がかり以上のものになるとは思えない。実際、これは同社を代表する数々の製品がたどってきた進化のパターンでもある。

初代「Apple Watch」:実際に買った人がどれほどいたか

 2015年にApple Watchの初代モデルをレビューした時のことを覚えている。ちぐはぐな製品だと感じた。デザインはいいし、デジタルクラウン(竜頭)も格好いいが、いかんせん遅く、価格も高い。また、特殊な機能や設定が多くて複雑だった。

Apple Watch
初代Apple Watchは今のモデルと似ても似つかなかった

 初代Apple Watchを買ったという人は少ないだろう。Appleはその後、プロセッサーを高速化し、画面を大きくし、アプリストア、多彩なフィットネス機能、常時表示ディスプレイといった便利な機能を追加していった。価格も下がった。

 Apple Watchの最大の優位性は、その一貫性にある。これまでに多くのブランドからさまざまなスマートウォッチが発売されては消えていったが、同社はほぼ方針を変えず、同じテーマに沿って開発を続けている。

初代「iPhone」:製品の記憶より郷愁が勝る

 iPhoneも似たようなものだった。初代iPhoneはウェブの閲覧とメールができる「iPod」に過ぎなかったが、筆者はこの小さなデバイスが気に入って新婚旅行にも持って行った。2Gネットワークを利用した接続はひどいもので、iPhoneと聞いてイメージする機能のほとんど、例えばビデオチャットやGPS、「Apple Pay」、「Touch ID」、「Face ID」、「App Store」も存在しなかった。言うなれば、初代iPhoneはiPod型の高級電話だった。

 マルチタッチは印象的で、「Googleマップ」などのアプリは人々を驚かせた。誰もが格好いいと感じたが、実際に買おうという人はほとんどいなかった。

初代「AirPods」:最初はネタ扱い

 初めてAirPodsを試したのは2016年に開催されたAppleのiPhoneイベントだ。この時、初代AirPodsを装着した私の写真がミーム化するという珍事があった。ばかげた姿に見えたのも無理はない。AirPodsはワイヤレスのイヤホンだが、ワイヤレスのイヤホンはすでに存在した。値付けも決して悪くなかったが、多くの人はiPhoneを買うとタダでついてくる有線イヤホンに満足していた。落としてなくしてしまう心配もないし、耳からタバコの吸殻が突き出ているように見えることもない。

 しかし、AirPodsに対する評価はすぐに変わり、今では文字通り街中でAirPodsを見かける。

Appleの忍耐力がどこまで続くか

 問題は、Appleが初代ヘッドセットと後継機にどれだけの時間をかけられるかだ。それが成功と失敗の分かれ目になる。Metaは2016年に発売した「Oculus Rift」以降、コツコツと開発を続け、多くのバージョンを経てようやくQuest 2にたどりついた。VRやARの利用が本格化し、ワイヤレスネットワークがクラウド処理を担えるようになり、ヘッドセットの小型化・軽量化が大きく進むのは、何年も先の話かもしれない。

Meta Quest Pro
Meta Quest Pro。2016年に初代ヘッドセットを発売して以来、Metaは今も完璧な形状を模索している
提供:Scott Stein/CNET

 Metaのニューラルリストバンドなどが進化し、コントローラーやタッチスクリーンがなくても、ジェスチャーだけで正確な操作ができるようになるまでには、まだ何年もかかる可能性がある。大勢の人がVRやARに参加し、メタバース上に真に大規模なコミュニティが生まれ、有意義な活動が行われるようになるまでには、数世代分のハードウェアの進化が求められるかもしれない。

 Appleのヘッドセットは他のApple製品、例えばiPhoneやiPad、「Mac」とつながり、Apple Watchの機能を強化し、AirPodsとペアリングできるものとなる可能性が高い。他のOSやサービスとの連携も求められる。これは一筋縄ではいかない作業であり、そのほとんどを2023年中に実現できるとは思えない。

 同社は今後、より手頃な価格の次世代ヘッドセット、そしてARグラスの開発に取り組むだろう。HTCの折りたたみ型ヘッドセット「VIVE XR Elite」、Qualcommの薄型ARグラス向け「Snapdragon AR2 Gen 1」、MetaのVRからAI駆動のARプラットフォームへの移行など、他のAR/VRハードウェアメーカーも製品の進化と発展に向けまい進している。このため、未来のヘッドセットが最終的にどのような姿になるのかは、現時点では誰にも分からない。

 ひとつ確実に言えることは、現在のAR/VRヘッドセットはどれも奇異な形をしているということだ。これまでに多くのヘッドセットを装着してきたが、間が抜けて見えるか、怪し気な姿になるかのどちらかだった。

 その意味では、Appleの初代ヘッドセットがどのようなものであろうと、大した問題ではない。Appleの未来は、他のすべてのAR/VR企業と同様に、変わり続けていくからだ。2023年はメタバースにとって勝負の年だと言われているが、長い目で見れば、最初の一歩を踏み出したに過ぎない。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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