3年に及ぶ新型コロナウイルス感染症の流行によって、電子化された処方箋やオンライン診療が利用可能な場面も増えた。ワクチン接種のオンライン受付も当たり前になるなど、医療業界のデジタル化はかなり進んだように見える。事実、医療介護の求人サイト「ジョブメドレー」をはじめ、病院の電子カルテやオンライン診療など幅広い医療ITサービスを提供するメドレーは、2月に発表した2022年12月期の通期決算で、中期目標の売上高230億円の達成時期を1年前倒しするなど好調だ。
CNET Japanでは、メドレーが2019年に当時の東京証券取引所マザーズ市場に上場するタイミングでインタビューをしたが、それからちょうど3年となる2022年11月、上場区分をプライム市場へと変更している。その狙いとともに、右肩上がりの成長を続ける同社のビジネス環境、医療現場における実際のデジタル化の状況などについて、メドレー 取締役 CFO ファイナンス統括部長の河原亮氏に聞いた。
――グロース市場からプライム市場に変更した狙いについて教えていただけますか。
東京証券取引所におけるプライム市場のコンセプトが、「投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」となっています。まずはそれがわれわれの目指す方向性と一致したのが1つ。
メドレーは海外の機関投資家が関わっている割合も高いですし、「中長期的な企業価値の向上」というところは上場以来、決算資料などにもずっと書いてきた内容でもあります。そういった観点からプライム市場に変更することを決めました。
その目的の大きなところは、社会的な信用と知名度の向上です。それによって人材採用の強化につなげられるメリットがあると思っています。また、プライム市場に変更するとTOPIX(東証株価指数)に算入されます。株式の取引高が増加したり、流動性が向上する、といった財務的な方面での狙いもあります。
――実際のところ人材採用は強化できていますか。2019年、当時のマザーズに上場するタイミングでも、エンジニアの採用を有利にするために上場したいという話がありました。
2022年11月にプライム市場に移行したばかりですので、その前後で人材採用に変化があったかどうかはまだ分析しきれていません。ただ、2019年にインタビューしていただいた頃から比べると、当時社員数が379人だったところ、2022年度は倍以上の895人にまで拡大しています。毎年コンスタントに100~200人ずつ増加してきているところです。
エンジニアの採用は、日本の労働市場では一番競争が激しく供給が足りていません。需要に対してエンジニア人口自体が少ないのも原因かと思います。海外からエンジニアを呼び込むことは当然していますし、そこをどんどん広げていくことも必要だとは思っていますが。
とはいえ、日本人エンジニアは母数こそ少ないものの、スタートアップも含め会社の数は増えていますから、上場前の頃と比べれば人材不足の問題はある程度改善傾向にあるのかなと感じます。課題はゼロではないですが、当社スタッフ全体の3〜4分の1が開発職ですので、業界のなかでは比較的うまく人材採用を進められている方ではないでしょうか。
――売上高の中期目標について、当初は2025年度に230億円としていたところ、1年前倒しして2024年度に達成するとしました。好調の理由をお聞かせください。
医療介護分野の市場がそもそも大きい、というのがあります。当社がターゲットとしている市場は医療費40兆円、介護費が10兆円の計50兆円市場です。日本は少子高齢化が進んでおり、基本的には今後も市場は伸び続けると言われています。40兆円のうちの1%、4000億円が人材採用の市場で、さらにもう1%の4000億円が医療ITシステムの市場とされていますから、それらわれわれが主軸としている事業の範囲で言うと計8000億円になります。
ところが、市場としては非常に大きいものの、デジタル化はまだ大きくは進んでいません。たとえば日本の一般診療所が使用しているカルテの50%がまだ紙で、電子カルテに置き換わっているのは50%だけです。欧米などの先進国では電子化率が90%以上であることを考えると、日本でデジタル化を広げていく余地はまだまだあるでしょう。
現在のところ、われわれのお客様の数は約30万事業所まで拡大しています。日本にある医療介護施設の約4分の1がわれわれのお客様になっていただいているということです。かつては医療・介護に特化した求人サイトの「ジョブメドレー」というサービス1つだけでしたが、近年はオンライン診療や電子カルテの「CLINICS」、かかりつけ薬局支援システムの「Pharms」、クラウド歯科業務支援システムの「Dentis」など、さまざまな商材が加わっています。こうした多数のサービス、あるいはM&Aによって、さらにビジネスを拡大していけると考えています。
――医療の現場でカルテの電子化が進まないというのは長く言われていることですが、その原因についてはどうお考えですか。
いろいろな要因があると思います。予算や事業規模の大きい大病院であれば比較的デジタル化は進んでいますが、日本の医療機関の大半が個人経営に近い方々です。日本全国にある医療機関・福祉施設の大半が小規模の事業所で従業員は少ないですし、デジタル化のための潤沢な予算もありません。しかもそういった事業所を運営されている方と、そこに来られる患者さんの両方とも比較的高齢です。
ですので、デジタル化のためのサービスを導入する余裕がなかったり、ITリテラシーの観点で若い方に比べて意欲が低く、相対的に進めにくかったりします。患者さんも高齢なのでスマートフォンなどを使ってサービスを受けるのは難しいのではないでしょうか。
しかし、コロナをきっかけに医療DXは進み始めています。自民党の提言「医療DX令和ビジョン2030」では電子カルテの普及率を2030年までに100%にするという数値目標が掲げられ、政府内にも医療DX推進本部ができるなど、本腰が入ってきたところです。
――導入しやすいサービス料金や、高齢の方も使いやすいシステムにしていくことは重要ですね。
当社のサービスは比較的リーズナブルな料金に設定していますし、お医者様や患者様に利便性の高さを感じていただき、より高いリピート率や満足度につながるよう開発しているつもりです。電子カルテについては、従来だとサーバーを院内に設置するオンプレミスが一般的でしたが、その場合は機材を購入しなければならず、システム更新のたびにベンダーがお医者様のところまで足を運ばなければならないなど、手間もコストもかかっていました。当社が提供しているのは、今では当たり前とも言えるクラウド型のサービスで、電子カルテの利用コストはオンプレミスと比べておよそ半額まで下がります。
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