Z世代の就活生が「高給」の代わりに、本当に望んでいるものとは?

草深生馬(RECCOO CHRO)2023年03月02日 10時00分

 就活生たちが企業を選択するときの価値観は、時代とともに変化しています。Z世代の就活生たちは、どのような価値観を軸にして企業を選ぶのでしょうか?また、彼らに選ばれるための企業側の対応策とは?

 Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬氏(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が、実際に現場でZ世代の若者たちと関わる中で得た知見を踏まえ詳しく解説します。

給与や福利厚生など「最低限の保証」とワークライフバランスを重視

 Z世代の就活生たちは、会社選びの軸として何を重要視しているのでしょうか?以下、2つのアンケートデータをご覧ください。今回も株式会社Reccooが包括的業務提携を結んでいる日本最大級のキャリア教育支援NPO法人エンカレッジのデータをもとに見ていきます。

Q. あなたの企業選択における価値観として、当てはまるものを全て選択してください(回答数:1109)

Q. あなたの企業選択における価値観として、当てはまるものを全て選択してください(回答数:1109)
Q. あなたの企業選択における価値観として、当てはまるものを全て選択してください(回答数:1109)

 データを見ると、会社選びの際に最も重視しているのは「事業内容」、その次が「ワークライフバランス」、3番目が「福利厚生」、4番目が「年収」となっています。

 「事業内容」は、おそらく、どの世代にとっても重要な事柄だと思われますが、特にZ世代は、社会貢献性の高い事業やブランドへの関心が強いので、これがトップに来ることは、別にサプライズではありません。
2番目から4番目については、「会社に所属するのだから、基本的な生活は保証して欲しい」という彼らの気持ちが表れているようです。

 現在、物価高が続き、生活費が高騰している中で、多くの企業の初任給が、下手をするとアルバイトの手取り額の方が高いと感じられるレベルに留まっています。

 私が就活生や新社会人たちとディスカッションした内容も合わせて考察すると、「会社に所属するからには、給与、福利厚生などは最低限、保証してほしい。その代わり、仕事の内容には文句を言わない」というのが彼らの本音のようです。そして、働くのはミニマムの就業時間内だけで、残業などはせず、あとは自分の時間を自由に使いたい、と考えている様子も伺えました。

 会社で出世することや高給取りになることは望んでおらず、普通の生活をするための最低限の収入を稼げればいいと考えているようです。これが回答の裏にある、Z世代の若者たちの正直な気持ちなのでしょう。

 企業側が、そのような意識のあり方を理解せず、「新入社員はひたすら努力し、文句を言わずに残業し、頑張って実力をつけていくものだ」と旧態依然とした態度を示せば、彼らは拒否反応を起こすと思います。

高給は望んでいないが、「やりがいのある仕事」でも薄給は言語道断

 次のデータ〈あなたの企業選択における価値観として、「避けたいもの」を全て選択してください〉を見ると「年収が低い」が一番に挙がっていて、しかも唯一過半数を超える回答となっています。

Q. あなたの企業選択における価値観として、「避けたいもの」を全て選択してください(回答数:1109)

Q. あなたの企業選択における価値観として、「避けたいもの」を全て選択してください(回答数:1109)
Q. あなたの企業選択における価値観として、「避けたいもの」を全て選択してください(回答数:1109)

 企業選択の軸に関する最初のデータでは、「年収が高い」は4番目に過ぎません。ここにも、高給は望んでいないけれど、最低限、生活できる給与を保証してほしい、という彼らの考えが反映されていると思われます。たとえ、やりがいのある仕事であっても、薄給は言語道断、というところでしょう。「避けたいもの」としては、「福利厚生が整っていない」「ワークライフバランスを実現できない」が続き、これは最初のデータの内容とも一致しています。

「優秀で魅力ある人たちと一緒に働きたい」という気持ちが強い

 「避けたいもの」のトップに「年収が低い」が挙げられたのは、人に投資できないような会社はイケていない、という彼らの気持ちの表れだとも考えられます。採用者数は多いけれど離職率が高く、人材の自転車操業をしているような会社は最も嫌われます。良い人材が集まっていない企業には未来がない、ということを見抜いているのです。

 彼らは、優秀で魅力のある人たちと一緒に働きたいという気持ちが強く、入社時点でも、どんな先輩社員と仕事ができるのか、という点に対する期待値がとても高いのです。

 なので、期待を込めて入社した企業の先輩が「ポンコツ」に感じられたりすると、早々に見切りをつけて、会社を辞めてしまうことが多々あります。たまたま同じ部署にいた一人の先輩社員に問題があるだけで、他部署にちゃんと優秀な社員が揃っていても、配置換えの可能性などはあまり検討せずにさっさと転職してしまうので要注意です。

 そんな彼らの態度を「近視眼的でもったいない」と感じてしまう方もいると思いますが、そういう考え自体が古いのかもしれません。それくらい入社数カ月以内で見切りをつける若者が少なくないのが実情です。

企業に入ること自体を懸念している傾向も

 給与が高くない、つまり人材に投資せず、やりがい搾取しているような企業で働くくらいなら、生活保護を受けて暮らす方がマシ、というような極端な意見も聞かれました。前回「Z世代の「悟り」就活の背景、彼らに対してNGな口説き文句とは?」で取り上げた、将来に対する明るい期待・展望を持てないZ世代の“悟り”がここでも伺えます。

 第9回「Z世代に特徴的な「悟り」就活とは?--データで見る『見切りや決断の早さ』」でも解説したように、Z世代の周囲には、YouTubeやInstagram、TikTokでインフルエンサーとして活躍する若者が珍しくないので、その影響力を間近に感じています。そして、インフルエンサーたちと同じように自分の個性を前面に出し、パッションを持って創造的な活動をすることが自分のあるべき姿だという未来像を描いていることがよくあります。

 そうなると、企業に所属することを、用意された「箱」の中で、その企業独自の文化やルールに則って生きて行くという没個性的な選択肢だと感じ、企業に入ること自体を懸念しているようなのです。

 それでもあえて就職するなら、最低限の生活のために必要な給与、福利厚生が充実している企業を選びたい。Z世代の大企業志向が強まったには、そういう心理が働いています。ただ、彼らは転職に抵抗がないので、実際に入社してみて「仕事が楽しくない」「先輩社員たちがかっこよくないので憧れの対象にならない」と判断すれば、さっさと辞めてしまうのです。

 このようなZ世代の価値観や特徴を踏まえた上で、企業はどのように対応すればいいのでしょうか? 次回は企業が目指すべき、Z世代にとって理想の会社像について解説します。

草深 生馬(くさぶか・いくま)

株式会社RECCOO CHRO

1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。

2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。

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