前回の「Z世代に特徴的な「悟り」就活とは?--データで見る「見切りや決断の早さ」」では、早期化が加速する、Z世代の“悟り”就活の実態を解説しました。今回は、その背景を探り、企業が取るべき対策、就活でNGな口説き文句の例などを挙げます。
コロナの影響で自由な活動が制限されていた時期には、オンライン就活という便利な仕組みに移行したことも手伝って、学生たちは、就活に時間をたっぷり割くことができました。
ところが社会情勢が落ち着いてきた今、大学は対面授業が復活しつつあり、他にも様々な活動ができるようになっています。学生たちから直接話を聞くと、週末は遊びたいとか、「全国旅行支援制度」を使って旅行したい、という声が聞かれます。つまり、就活に使う可処分時間が減っているのです。エントリー数の減少などはその表れで、就活をサボっているわけではなく、志望業界や志望企業を早めに絞って、そこだけにエントリーしているのです。
また、新卒採用という、従来はプラチナ切符的な価値があったものが、学生たちの中でその評価が低くなっています。
かつての学生たちは、新卒採用でいい会社に入れなかったら人生終わりというくらいの一生懸命さで就活に取り組んでいましたが、今はそのような風潮はなくなっています。
その理由として挙げられるのは、まず、転職がオープンになって来たことです。前回の「Z世代に特徴的な「悟り」就活とは?--データで見る「見切りや決断の早さ」」でも解説しましたが、入社後3~5年以内の転職に抵抗がなく、第二新卒の需要も高くなっている。最初の会社選びがうまく行かなくても、後でいくらでもやり直しがきく、と考える傾向にあります。
また、副業市場も広がっています。企業の知名度へのこだわりは相変わらずあるようですが、それよりも、働き方の自由度が高い会社を選ぶ傾向が強くなっています。会社でスキルを身につけ、経験を重ね、それを副業にも活かしたいと考えているようです。
それから、学生たちにヒアリングすると、都内の最低賃金が高騰しているので、下手するとアルバイトに力を入れた方が正社員の初任給よりも稼げる、というような話も出てきます。社会保険の知識も乏しく、法定福利費を企業が負担していることなどもまだピンと来ていないので、単純に額面だけで比較してしまう。年金に関しては、破綻するなどと言われているので、払う意味がない、と思っている節もあるようです。
新卒採用は市場として用意されているから活用する。ただ、転職や副業もオープンだし、就職しなくても、アルバイトやSNSなどで稼ぐことができる。と、今の学生たちは、新卒採用で就社先を決めることに、それほど重みを感じていないのが正直なところです。
一昔前の学生は、就活に尽力していい会社に入れば、後の人生は安泰、つまり40歳頃には管理職になり、マイホームも購入できる、というイメージを持つことができました。入社直後の修行のような厳しい時期を乗り越えれば素晴らしい未来が待っている、と思えば踏ん張りもきくでしょう。
一方、今の学生たちは先行きの不透明な日本社会、経済に対する不信感が強いので、下積み的なことをやりたがりません。「石の上にも3年」と言っても3年先にどんなリターンがあるのか、と考えてしまう。とりあえず今から1~3年間の生活を考え、後は状況に応じて自分の人生をぱっぱっと切り替えていく。就活もそういう前提で意思決定をしています。
さらに、マネージャーをやりたくない、出世に興味がないという若者も増えています。これも管理職の面白みやそれによって得られるものをイメージできないのでしょう。ユーチューバーをはじめ、個人で好きなことを仕事にする人が山ほどいる時代に、会社組織の中で責任だけ負わされ、リターンがないことをなぜやらなければいけないのか?と考えているようです。
それでは、一つの会社に長く勤めることを前提とせず、出世にも興味がない学生たちに対して、企業はどのように対応すべきでしょうか?
イベントに関しては、就活にすぐに役立つスキルを習得できるような企画が人気です。学生たちは、早めに就活を終わらせたいという気持ちが強いので、エントリーシートの書き方、面接対策など内定獲得に直結するノウハウが知りたいのです。
少し前までは、Z世代に対してはもっと中長期のビジョンとか、日本社会への貢献性などを示して魅力訴求するのがいいと言われてきました。ところが、最近の傾向としては、まずはわかりやすいスキル、テクニックなどをテーマにしたイベントで惹きつける。その後に社会貢献度や、ブランドに対して世界中にファンがいることなどを伝えるという流れが効果的なようです。
面談では、Z世代の就活に対する考え方、行動の傾向を把握してコミュニケーションを工夫することが大事になります。
オファーを出す時に「この先、何十年、がんばって我が社で働いてください」などと言うのは完全にNGです。転職を視野に入れながら短期間で自分が成長するイメージを持っているので、石の上に3年という類の口説き文句は彼らには刺さりません。また、社長や経営者といった代表者よりも、直近の未来を見せてくれる上司やリーダーレベルの社員との面談に、むしろ価値を感じているようです。
とはいえ、どうせ3年くらいで辞めるつもりだろう、という態度で接すれば、「期待されていない」と感じてしまう。「スタートの3〜5年であなた自身がこのような成長が遂げられる環境を提供できるので、いったん入ってみては」というスタンスが理想的だと思われます。
それから、面談したOBが転職組だった場合、「入社してみないとわからないこともあるし、自分も転職経験者だから」と言われて、内定を承諾したというケースもありました。転職前提の彼らには、そういうスタンスにも親和性が感じられるのでしょう。
繰り返しになりますが、学生たちは早めに就活を終えたいと考えているので、オファー提示のスピードも大事になります。
また、専門性を身に付けたいと考えているため、配属やチームを確定するオファーに魅力を感じているようです。「配属ガチャ」を忌避する思考があるので、「最初の配属はマーケティングで専門性を伸ばそう」というような具体的な提案が効果的。逆に「異動によって2年ごとに職種を変えていき、ゼネラリストを目指そう」という口説きはあまり魅力的に映らないようです。
もちろん個々人で異なるキャリアビジョンを持っていますので、あくまで大きな傾向としてのお話です。また、環境問題や、社会貢献性への意識が高いZ世代に対して、「うちは給与が良いから頑張ればいい車に乗れるよ」というようなわかりやすいステータスでの訴求も敬遠されるようです。
以上、Z世代の傾向と企業の対策について解説しました。ただ、企業には、小手先のテクニックで学生の関心を引くのではなく、彼らに新しい視野を提供できるようなコミュニケーションに努めてほしいと思います。
就活に対するモチベーションが低下している学生たちは、入社後の自分の働く姿をイメージすることもなく、妥協して就職先を決めている印象があります。
例えば大学で、あまりやる気のないまま提出したレポートに対し、むしろ教授から「君はこういう知識があるのだから、こんなことを書いてみたら」と提案してくれたら、はっとして、もう少し頑張ろうという気になるものです。就活においてもまったく同様で、企業は、学生が気づかないような観点や可能性などを見せてあげてほしい。日本社会の将来に漠然とした不安を感じ、安牌を引きたがる学生たちにもっとチャレンジするように促してほしいと思います。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
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