前回の「新卒採用=Z世代へのブランディング」と捉える企業が成功する--脱『採用数重視』の新潮流」において、新卒採用マーケットにおけるブランディングの重要性が高まった理由として、Z世代ならではの4つの要因を解説しました。今回はその4要因をひとつずつ見ていきたいと思います。
新卒採用におけるブランディングの重要性を高めたZ世代ならではの4要因
要因【1】:特に倫理面など、企業のレピュテーションを重視する
要因【2】:選考時の候補者体験が企業のブランドイメージと直結する
要因【3】:転職に積極的で、新卒採用時に接触した企業に再度コンタクトする可能性が高い
要因【4】:働き方が柔軟となり、将来、副業として企業と関わる可能性が高い
改めてですが、Z世代とは、90年代中盤から2000年代終盤に生まれた、これから社会の中核を担う若い世代です。特徴として、デジタルネイティブで、ソーシャルメディアを使いこなし、物事の社会的レピュテーション(評判)に敏感なことなどが挙げられます。自分自身や他人の評判、企業やサービスの評判にも敏感で、口コミを重視する傾向が強いようです。そして消費、購買活動においても、ブランドの成り立ちや、企業の社会貢献性を重視して、意思決定をします。
FacebookがZ世代を対象に実施した世界規模の調査によると、その68%が企業に対して、「ブランドが社会に貢献することを期待」。さらに、61%が「倫理的かつ環境に配慮した方法で作られた商品により多くのお金を使う」と回答しているのです。
このようなZ世代ならではの特徴を踏まえると、企業の思想やストーリーを伝えることがファン化の重要な要素になります。前回の記事でも触れたように、新卒採用マーケットには、ほとんどの大卒者が同じタイミングで市場に出て来て、まずは話を聞きたい、というオープンなスタンスで企業のイベントに参加します。Z世代に向けたブランディングには最大のチャンスです。
また、ここで触れておきたいのが「パーパス経営」です。「パーパス」とは、「企業の存在意義」のことで、企業の存在がどのような社会貢献をもたらすかを明確にすることを意味します。日本でもさまざまなメディアで取り上げられるようになってきましたが、「パーパス」を企業ブランドの中核において経営することが今、世界的な潮流となっています。
以上のことを踏まえて、今後、「パーパス経営」をベースにしたブランディングはZ世代のファン化に確実に繋がると言えるわけです。
Z世代は、採用選考時の候補者としての体験が、企業のブランドイメージと直結する傾向があります。選考時にいい体験ができれば、採用されるかどうかに関わらず、企業のファンになります。逆に企業側がミスを犯すと、企業のイメージが悪くなります。その結果、その企業の商品すら買わなくなる、サービスを受けなくなるという可能性が高い。つまり、前回の記事で触れたLTV(Life Time Value=顧客が生涯を通じて企業にもたらす価値)が、0になってしまう場合もあるのです。
ここで、2023年卒の学生800人を対象に実施したアンケート結果をご紹介しましょう。以下で紹介する調査結果は、私がCHRO(最高人事責任者)を務める株式会社RECCOOが包括的提携を行っている、日本最大級のキャリア教育支援NPO「エンカレッジ」が、その会員学生に対して実施したものです(一部を除く)。
「就活を通じて出会った企業の中で、その企業や商品のイメージが良くなったことはありますか?」という問いに対して「ある」/「まあある」を合わせるとほぼ90%です。逆のイメージ悪化についても60%強に上ります。採用活動の体験が、その会社の商品・サービスのイメージに大きく影響を与えていることが明らかです。
企業は、候補者一人一人を丁寧に扱い、自分たちの魅力を伝えようとする真摯な姿勢を見せないと、ファンになってもらえません。それどころか嫌われてしまうこともあるのです。
そこで、改めて強調したいのは、採用CXが重要だという点です。
CXとは Candidate Experienceの略で、採用における「候補者体験」を意味します。プロダクト開発における User Experience(ユーザー体験)を略した「UX」という言葉は一般的ですが、採用CXは採用候補者のUXのことです。
就活において、候補者が初めて企業を認知するところから、応募、選考、内定、入社とフェーズが移って行きます。その中で、webページを見る、面接官と話をする、リクルーターと相談するという、企業と候補者が触れあう「タッチポイント」がたくさんあります。そのタッチポイントごとの体験を候補者目線で演出し、彼ら・彼女らの満足度を高めることが採用CXの目指すゴールです。
企業は採用CXの観点から選考全体を見直し、ブランディングを行い、究極は、不合格になったけれど受けてよかった、と候補者に思ってもらうことを目標にすべきでしょう。
年間、数万のエントリーを集める企業でも採用できるのは、100~200人で残りの99%近くは不合格です。そこでただ「さようなら」とせず、これは毎年何万人、何十万人のファンを作るチャンスだと考えれば採用 CX がどれだけのリターンを生む可能性を秘めているかは明確でしょう。
私が以前、採用担当をしていたGoogleでは、不採用の場合も「電話」できちんと伝えるというルールがありました。もし電話が通じない場合でも、必ず個別にメッセージを送っています。実際、私も「新卒採用時にはご縁がなかったが、巡り巡っていまGoogleで働いている」といった実体験を伝え、就活は今だけで終わりじゃない、とメッセージをしたためたことがあります。その不合格連絡は候補者の方に好意的に受け取ってもらえたことが、後にSNSを通じて分かりました。
Z世代の若者たちは、キャリアアップを目的とした場合、新卒で入った一社目で長く働きたいと考えている人は、全体の40%強に過ぎないことが、以下の<【全体】キャリアアップ目的>のデータから分かります。過半数は5年以内の転職に非常にオープンです。そして入社後にギャップを感じた場合は、さらにその傾向が強まり、およそ75%は入社5年以内の転職に抵抗はない、と答えています。
先ほども述べたように、新卒採用で入社に至らなかった候補者に、数年以内に転職市場で再び出会う確率が上がっていると言えます。
最後の要因は、働き方が柔軟になってきている点です。
副業などがオープンになったので、正社員になっても他の企業と業務委託という形で関わることもできます。企業から見れば、人材を確保する際の雇用形態により多様性が出てきているわけですから、新卒採用の際に出会った候補者と、ゆくゆく業務委託という形で力を借りるといった可能性があるのです。例えば企業から「このプロジェクトに参加して下さい」とオファーをした際に、「実は新卒採用で、御社の面接官が本当に好印象だったのを今でも覚えていて…」という理由で引き受けてくれるようなケースも珍しくなくなるでしょう。
以下の<年収別副業の有無>のデータ(出典:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書 2022」)を見ると、年収帯にかかわらず、「副業を持っている」、「持ちたい」という人がほぼ半数かそれ以上。さらに<雇用形態別副業の有無>のデータ(出典:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書 2022」)から分かるように、「持ちたいが、持っていない」の回答が一番多いのは、正規雇用者です。今後、制度が整えば、正規雇用者で副業にチャレンジする人は増えていくと考えられ、Z世代ではその傾向がさらに強まると言われています。
一世代の人口が270万人を数える団塊の世代に比べると、例えば現在20歳の人口は半分以下のおよそ120万人、出生数に至っては3分の1である80万人台です。少子化による新卒者の希少性は、これからも高まり続ける中で、彼ら・彼女らが同じマーケットに一堂に会するチャンスを逃すわけにはいきません。
企業はZ世代の特徴を理解した上で、新卒採用マーケットに対する中長期の回収を見越したブランディング投資を、今すぐにでも行うべきでしょう。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。
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