楽天グループは2月14日、2022年12月期決算を発表。売上高は前年度比14.6%増の1兆9279億円、営業損益は3639億円と、今期も赤字決算となった。
赤字要因は依然、楽天モバイルへの先行投資による所が大きい。楽天モバイルを含むモバイルセグメントの業績は、月額0円施策の終了で料金を支払うユーザーが増えたこともあって売上高は前年度比62%増の3687億円と大幅に伸びており、楽天モバイルの第4四半期のARPUも1805円にまで上昇している。
一方で営業損益は4928億円と前年度から71億7000万円拡大しており、MVNOのユーザーを除いた契約数も第4四半期で449万と、直近では回復傾向にあるものの第3四半期(455万)から減少が止まっていない。そうしたことから楽天グループの代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史氏は、同日に実施された決算説明会で楽天モバイルに関する内容に多くの時間を割いて説明していた。
三木谷氏は2020年から2022年までを、仮想化ネットワークの基盤確立や基地局の大幅前倒しなど、急速な基盤を確立する時期だったと説明。その上で2023年は「勝負の年と考えている」と話し、収益改善に重点を置いて利益が出る体制を確立することに注力。その上で、24年以降に再び事業を加速したいとしている。
その具体的な取り組みの1つとして挙げたのがエリアである。楽天モバイルでは2022年末時点で4Gの基地局を5万2000局設置しており、2023年にはさらに8000局を追加、「(人口カバー率)98%半ばから、今年中に99.2~3%に持っていく」と三木谷氏は説明。それによって、現在データ通信使用量の4%程度を占めるKDDIとのローミングを大幅に減らし、コスト削減を進めるとしている。
加えてこれまで基地局拡大のため投入してきたグループ会社の社員などを異動させることで、人件費や外注費を削減。さらにMVNOサービス契約者の移行、そしてショップの効率化を進めることでコストを削減することにより年間で3000億円程度かかっている設備投資額を、2024年以降は半分以下に引き下げるとしている。
もう1つ、エリアに関して三木谷氏が「大きなポイント」と説明したのがプラチナバンドの獲得と、米AST SpaceMobileと進めている衛星を活用した「スペースモバイル計画」だ。中でも再割り当てや新たな周波数帯の割り当て検討が進められているプラチナバンドに関して、三木谷氏は「(現在使用している1.7GHz帯の)2倍は飛ぶので、4倍の面積をカバーできる。これは競争的ギャップを埋める大きな一歩になる」と、大きなプラス要素になるとして強い期待を述べている。
一方で、新たな周波数帯の活用で再び整備コストが増えることが懸念されるが、三木谷氏は自社開発のソフトウェアで対応できること、そして新たなアンテナの設置には既存のポールを使うことを考えていることから、構造的にあまりコストはかからないとしている。
楽天モバイルは1月20日に郵便局で展開していた多くの店舗を閉店することを明らかにしているが、三木谷氏は今後のショップ展開について「採算性を見ながら是々非々で考えていく」と回答。その一方で、オンラインからの契約が既に70%を超えていることから、「今後はどちらかと言えばオンラインを重視していく」とのことだ。
そこでマーケティングに関しても、テレビCMを活用したマス重視の戦略を転換して、今後はオンラインでの獲得に重点を置くとのこと。その強化に向け三木谷氏は、「ワンクリックで加入からアクティベーションまでできる仕組みを、近々に発表できるかなと思う」と、eSIMを活用した新たな施策の準備を進めている様子も見せる。
中でも三木谷氏が力を入れたいとしているのが、既存ユーザーからの紹介によるリファラルマーケティングである。その理由について三木谷氏は、「楽天モバイルの料金をポイントで支払ったら、ほぼタダになることを理解していない人もいると思う。それを口コミで広げることが重要」と説明。楽天市場の「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」の対象になることなどの認知を高め、楽天経済圏との連携により重点を置いてサービスの魅力をアピールしていく姿勢を示した。
また楽天モバイルは、1月30日に法人向けのサービスの提供を開始している。三木谷氏はこのサービスについて「楽天グループは40万を上回る法人とのビジネスをしている。初年度は最低でも100万回線くらいの契約を獲得したい」と強い期待を寄せており、契約も好調な様子を示している。
これら一連の施策は、楽天モバイルが当初から打ち出していた2023年中の単月黒字化に向けたものといえる。その実現性について問われた三木谷氏は「年内に何とか頑張って、月次の単月黒字を出していきたい」と回答するにとどまり、具体的な実現時期への言及は避けた。
また携帯電話事業に関して現在、通信障害時などに備え、デュアルSIMを活用したバックアップ回線の提供に向けた取り組みが携帯大手3社で進められているが、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏が2月3日の説明会で「楽天モバイルにはあまり声掛けをしていない」と話すなど、エリア整備途上の楽天モバイルがこの枠組みから外れているように見える。
この点について楽天モバイルの代表取締役社長である矢澤俊介氏は、「私たちはまだネットワークを作っている最中で、まずはそこに集中していこうと思っている」と説明。現状の詳細について言及は控えたが、「さまざまなコミュニケーションをしているので、(3社と)同じ方向性を向いていると思う」と答えている。
モバイル以外の事業は好調に推移しているとのこと。Eコマースなどのインターネットサービスセグメントは売上高が前年同期比8.7%増の1兆86億円、営業利益は前年度にマイノリティー投資で大きな収益があったことから、前年度比24.3%減の782億円となったもののサービス自体は好調だという。
実際に国内EC流通総額は5兆6000億円を超え、楽天モバイルとの連携によって早期の10兆円達成を目指すとしている。また「Rakuten Fashion」などファッション事業が好調で、直近12カ月の流通総額が1兆円を超えたとのこと。
楽天グループの副社長執行役員 コマース&マーケティングカンパニー プレジデントの武田和徳氏によると、コロナ禍による制約がなくなってきたことで外出の機会が増え、コートなど冬場の高額商品の販売が進んだほか、ブランド認知の拡大によって海外ハイブランドの販売などが好調といった点が主な要因とのことだ。
またインターネット広告市場が低迷する中にあって、楽天グループの広告ビジネスは非常に好調とのこと。三木谷氏は、Eコマースを展開しており「消費者の財布に近い」ことがその理由と見ているようで、米国でもより消費者に近い所に広告費を使いたいというニーズが増えたことから、「Rakuten Rewards」の事業も非常に好調だという。
もう1つの主力事業となるフィンテックセグメントに関しては、主力の「楽天カード」「楽天銀行」などが好調に推移しており、売上高は前年度比7.2%増の6634億円、営業利益は前年同期比10.8%増の987億円となっている。
楽天グループは楽天銀行の上場や、楽天証券ホールディングスの上場に向けた準備を推し進めているが、三木谷氏は今後の財務戦略について有利子負債が膨らまない形での資金調達を重視していく姿勢を示す。その上で2社の上場に加え、親会社及び子会社の戦略的業務提携や外部資本の活用も柔軟に検討すると三木谷氏は説明、外部からのさらなる資本受け入れの可能性も示唆した。
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