家電メーカー各社から、2022年10~12月の業績が出そろった。生産および供給の正常化が進展するものの、部材価格や物流コストの上昇を背景にした製品の値上げ、世界的な経済の低迷などのマイナス要素も見られ、各社の家電事業も明暗が分かれた格好となった。
今回の各社決算のなかで示されたのが、これまでの部材不足や、それに伴う生産の遅れ、部材価格の高騰といったマイナス影響が軽減してきたことだ。
三菱電機では、「電子部品の需給状況は上期に比べて、かなりの改善があり、上海ロックダウンの影響も回復して、生産状況が改善。さらに、国内や欧米、ASEANを中心にした旺盛な需要がみられた」(三菱電機 常務執行役 CFOの増田邦昭氏)とする。三菱電機が発表した2022年10~12月の空調・家電事業の売上高は、前年同期比899億円増の3420億円、営業利益は176億円増の258億円といずれも高い成長を達成。2022年度通期見通しは、売上高で300億円増、営業利益で50億円増と上方修正した。三菱電機は、全社売上高は第3四半期としては過去最高を更新。さらに、通期見通しでは売上高を上方修正。その理由のひとつに、空調・家電の需要増をあげている。
ソニーグループでも、「中国でのコロナ感染の再拡大によるサプライチェーンの混乱については、販売への影響を出さない程度にコントロールできている」(ソニーグループ 副社長兼CFOの十時裕樹氏)とし、テレビやデジカメを含むエンタテインメント・テクノロジー&サービス分野の売上高は前年同期比10%増の7528億円、営業利益は1%増の811億円となった。
パナソニックホールディングス/も、一部部材不足の影響あるが、これが改善傾向にあること、鉄鋼価格の高止まりは継続しているが、非鉄材料や樹脂の価格高騰は軟化してきていると指摘する。
だが、厳しい状況が続いている企業もある。
日立ブランドの家電事業を担当する日立グローバルライフソリューションズでは、2022年度前半の中国・上海のロックダウン影響によって、洗濯機を制御する基板などの生産に遅れが出ていたが、この影響が長期化。さらに部材価格の高騰も続いているとする。売上収益は前年同期比1%増の960億円。Adjusted EBITDAは21億円減の77億円となり、減益理由には部材価格高騰の影響をあげている。
円安の影響も大きく影響している。
シャープは、「営業利益、経常利益、最終利益の大幅な減益には、円安が影響した。白物家電では、1円の円安で、営業利益に年間9億円のマイナス影響が出る。これが国内白物家電事業に影響し、減益理由になっている」(シャープ 代表取締役副社長執行役員の沖津雅浩氏)とコメント。海外生産で事業を行っているバルミューダでは、「記録的な円安の直撃により、原価率が大幅に上昇した。110円半ばから後半の為替レートをもとに10年間かけてビジネスモデルを構築してきたが、それが崩れている。一時は150円まで到達していたものが、130円になってきたが、その為替レートでも環境は悪い」(バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏)とする。
上期決算発表時点では、円安の長期化を懸念して、国内生産を検討する企業もあり、パナソニックでは、掃除機の一部製品で国内生産を開始する動きもあった。だが、その動きは薄れている。「11月時点では、国内生産を検討していたが、一時のような円安の状況ではなくなっており、検討していたものについては、2023年度もいままで通り海外生産を継続することを決定した」(シャープの沖津副社長)、「実際に見積もりをとってみたが、日本での生産は安くない。現時点では、国内生産の検討は具体的には進めていない」(バルミューダの寺尾社長)と、国内生産回帰への動きは収まっている。
一方、需要の差は、地域ごとにも出ている。
「欧米の調理家電や、国内の洗濯機などが大きく売り上げを伸ばしている。アジアや米州ではテレビの売上げが伸びている」(シャープ 沖津副社長)、「欧州ではカーボンニュートラル規制や電気代の高騰などを背景に、省エネに対するニーズが高まっている」(三菱電機 増田CFO)といった声のほか、ダイキン工業では、「日本、米州、中国、欧州、アジア・オセアニアのすべてで前年同期実績を上回った。各地域での販売拡大や戦略的売価施策、販売力強化、トータルコストダウンをはじめとする8テーマ+1の重点施策の実行を徹底し、状況の変化に機動的に対応することでマイナス影響をカバーし、増収増益を達成した」とする。同社では、すべての地域での好調ぶりを背景に通期計画も上方修正してみせた。
その一方で、「家電事業では、日本、中国、東南アジアで前年実績を割っている。中国では前年の77%の水準だった」(パナソニックホールディングス 代表取締役 副社長執行役員 グループCFOの梅田博和氏)、「2022年12月の年末商戦において、予想よりも売上げが下回った」(日立製作所 執行役副社長兼CFOの河村芳彦氏)、「年末商戦の伸び悩みが想定以上であった」(バルミューダの寺尾社長)といった声も聞かれ、ソニーグループでも、「世界的に景気減速の動きや、一部カテゴリーでの市場環境の悪化の影響がある。とくにテレビの需要が弱い」(ソニーグループ 十時CFO)と語る。
需要は地域ごとにまだら模様な状況ともいえ、それにあわせて各社の状況もさまざまだ。
昨今のエネルギー価格の高騰は、家電に対しては、マイナスの要素になると見られる一方で、「省エネ」をキーワードにした需要が顕在化するなど、新たな動きが出ている点にも注目しておきたい。
ダイキン工業では、「エネルギー価格の高騰による電気代の値上げの動きで、省エネへのニーズが高まっている。この動きを捉えた高付加価値商品の拡販により、シェアを拡大している」とする。
シャープでも「エアコンでは、2023年のキーワードは『省エネ』になり、電気代高騰を見据えて各社が『省エネ』を前面に打ち出してくるだろう」(シャープ 沖津副社長)と予測。三菱電機でも、「エネルギー価格の上昇に伴い、省エネがキーワードとなり、省エネ性能に優れた製品に対するニーズが高まっている。空調冷熱ビジネスは、夏場に需要が盛り上がるが、この時期でも安定した需要が出ている。なかでもヒートポンプのニーズは今後強い状態が続くだろう」(三菱電機 増田CFO)とし、課題をチャンスに変える動きが出ている。
冷蔵庫、エアコン、照明、テレビなどは、消費電力が高い家電と言われており、これらの製品群を中心に、省エネ家電に対する需要が高まることになりそうだ。
家電事業を取り巻く環境は厳しい状況が続いている。原材料価格や物流費高騰が継続しているほか、エネルギー価格も上昇。中国での新型コロナウイルスの感染急拡大やエネルギー価格の上昇、インフレの加速による購入意欲の低迷など、事業環境が想定以上に悪化しているといっていい。
ソニーグループでは、「中国でのコロナ感染の再拡大によるサプライチェーンの混乱は、販売への影響を出さない程度にコントロールできたが、2023年度にかけて、事業環境は一段と厳しくなると想定している」とし、「事業構造の強靭化に向けた取り組みを前倒しで進めることを最重要課題に位置づけている」とする。バルミューダでも、「各家庭で電気代が上昇するなかで、高価な家電を購入する理由が弱まっている」(バルミューダ 寺尾社長)とコメントする。
だが、「物価上昇の影響があるが、2023年度も空調・家電事業は旺盛な需要が継続する」(三菱電機 増田CFO)との見方や、「2023年度は、白物家電の販売台数は厳しい状況になると見ているが、販売台数が減少しても、付加価値製品の比率が上昇しており、買い替えの際には良いモノを購入するという流れがある」(シャープ 沖津副社長)との指摘もある。
厳しい市況環境を予測するバルミューダでも、「下期から投入する新製品は、品質を確保しながらコストダウンできる設計にしており、原価率は改善できる。既存カテゴリーでの新製品投入や、新ジャンルでの可能性の最大化に向けた研究開発を推進する」(バルミューダ 寺尾社長)と、巻き返しに意欲をみせる。
厳しい環境が続くなか、家電メーカー各社はどんな巻き返しに出るのか。各社が置かれた立場はさまざまであり、各社各様の取り組みがどんな形で事業成長につながるのかが、2023年の注目点になりそうだ。
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