複雑な問いへの答えを求めて、検索エンジンが吐き出した何ページもの検索結果を開いて回った経験はないだろうか。例えば、愛犬を菜食で育てても良いかを調べたいとしよう。まずはGoogleを開き、検索窓に「菜食は犬にとって良いか」と入力して検索を実行すると、大量のリンクが表示される。この中から、目的の情報を求めて記事やレポートを見て回る。答えが見つかる頃には、思っていた以上に時間が過ぎているはずだ。
しかし遠からず、複雑な問いへの答えを見つけることは、それほど退屈でつまらない作業ではなくなるかもしれない。Microsoftは話題のチャットボット「ChatGPT」を支える人工知能(AI)を自社の検索エンジン「Bing」に統合し、検索の概念を一変させようとしているという。実現すれば、BingはGoogleよりも優れた検索体験を提供し、数十年にわたるGoogle一強時代が終わる可能性があるとAIの専門家は見る。
AI研究者でバージニア大学経済学部教授のAnton Korinek氏は、「ChatGPTは検索の形を大きく変え、少なくとも原理的にはGoogleの市場支配を覆す可能性を秘めた技術だ。このような技術が登場するのは、実に10年以上ぶりだ」と指摘する。「この技術を使えば、従来の検索よりもはるかに自然に、まるで会話をしているかのようにコンピューターと対話できるようになる」
現時点ではまだ、AIを活用したBingの検索結果が具体的にどのようなものになるかは分からない。Microsoftのコメントは得られなかったが、AIの研究者らはChatGPTの登場により、検索エンジンの使い方や結果の見え方が大きく変わると考えている。実際、ChatGPTは(従来の検索エンジンのように)ウェブサイトを巡回して情報を収集するようには設計されていない。ChatGPTは大量のデータから学習し、その内容をもとに回答を生成する。
「ChatGPTは、従来の検索エンジンが大量のリンクを返すのと対照的に、ひとつの明確な答えを提示する。他にも、ChatGPTは従来の検索エンジンをはるかに超える能力を備えている。例えば、新しいテキストの生成、概念の説明、双方向の会話などだ」と、Korinek氏は言う。「開発者さえ認識していなかった活用方法が、ユーザーの手で次々と発見されている」
Microsoftは1月、ChatGPTを開発するOpenAIに、数十億ドル規模の資金を追加提供することを発表した。この資金は、両社がいわゆるジェネレーティブAIの先端研究を継続する助けとなる。ジェネレーティブAIは、ChatGPTにも用いられている技術だ。大量のデータを学習させると、テキストベースの指示に応えて、文章から画像、音楽まで、ほぼどのようなコンテンツでも生成してくれる。
検索だけではない。今後数年のうちに、Microsoftのコンシューマー製品群が大きな変化を遂げる可能性がある。The Informationによると、MicrosoftはChatGPTのAI技術を同社の定番ソフトウェアである「Word」や「PowerPoint」、「Outlook」にも組み込もうとしている。実現すれば、10億人以上の仕事や日々の作業が様変わりするだろう。この技術をOutlookに統合すれば、例えばトピックを指定するだけで、自動でメールを作成してくれるようになるかもしれない。
MicrosoftはOpenAIとの提携拡大を発表したプレスリリースの中で、次のように述べている。「OpenAIのモデルを当社のコンシューマー製品とエンタープライズ製品に展開し、OpenAIのテクノロジをベースとした新たなカテゴリーのデジタル体験を用意します」
Googleと、その親会社であるAlphabet傘下でAI研究の最先端を走るDeepMindも、同様のシステム開発に長年取り組んできた。しかしGoogleは、開発したものを一般公開しないことを選択した。システムが非倫理的な行動や社会規範を踏みにじる振る舞いをする懸念などがあるからだ。実際、Microsoftが2016年に公開したチャットボットの「Tay.ai」は、ヘイトスピーチを振りまくようになったため公開が停止された。ChatGPTはポジティブで友好的なコンテンツを生成するよう設計されているが、指示を工夫すれば不快な回答を生成させることもできる。
DeepMindの最高経営責任者(CEO)Demis Hassabis氏は、2023年1月にTimeのインタビューに応じ、独自に開発したチャットボット「Sparrow」について、「プライベートベータ」の2023年中の公開を検討していると語った。また、The New York Timesは消息筋からの情報として、Googleが早ければ2023年中にチャットボット機能を搭載した検索エンジンのデモを行う計画だと報じている。
よく知られているように、Google検索は年々、会話型の要素を強めている。「Googleアシスタント」の導入に続き、検索結果に「ナレッジパネル」が表示されるようになるなど、この分野では着実な進化が見られる。同社は以前から会話を検索の未来と位置づけており、2021年の開発者会議「Google I/O」ではAIシステムの「LaMDA」と「MUM」を発表した。
Microsoftは、Googleを追い抜くための秘策として、OpenAIのAI技術を活用しようとしている。The New York Timesによると、ChatGPTの公開を受けて、Googleの経営陣は「コードレッド(緊急事態)」を宣言したという。また、5月に開催される年次会議に向けて、新たなAI関連プロジェクトを始動するために社内チームを改編したと記事は伝える。
それでも、Googleの検索エンジンが数十年にわたり、検索市場で不動の地位を維持していることに変わりはない。Statistaのデータによると、2022年の世界の検索市場におけるGoogleのシェアは実に84%に上り、Bingは(近年は伸びているとはいえ)わずか9%にすぎない。
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