「iPhone 14」の衛星通信機能が巻き起こす2023年のスマホ大潮流

David Lumb (CNET News) 翻訳校正: 編集部2023年02月03日 07時30分

 人里離れた場所で助けを求める必要に迫られたときは空を見上げよう。どの携帯端末を使っていようと、低軌道衛星がSOSの発信を助けてくれるかもしれない。

衛星通信の画面
提供:Kevin Heinz/CNET

 2022年、Appleは他のテクノロジー企業に先駆けて、スマートフォンから衛星経由で救助を求められる機能を実現した。「iPhone 14」に搭載された緊急SOS機能だ。使い方は簡単で、上空への視界が開けた場所から衛星経由で緊急通報サービスにテキストを送れる。位置情報も送信可能だ。

 他社も先を争って同機能の実現に取り組んでおり、衛星通信がにわかにスマートフォン市場の台風の目となっている。

 調査会社TechsponentialのアナリストAvi Greengart氏は、「2023年がモバイル衛星通信の年になることは間違いない」と言う。「すべての企業がこの機能に取り組んでいる。ただし、アプローチはみな違う」

 残念ながら、これはスマートフォンに衛星メールアプリや衛星ラジオをインストールするといった単純な話ではない。低軌道衛星システムは、携帯電話ネットワークや電話回線と同じく、運用や維持にコストがかかる。Appleは、iPhone 14の購入後2年間は緊急SOSサービスを無料で利用できるとしているが、その後どうなるかは明らかにしていない。同等の衛星通信システムはまだ存在しないが、利用は有料になる可能性が高い。

 衛星通信の有用性に疑いの余地はない。この機能のおかげで命拾いをしたという話も聞く。問題は、この機能を有料でも使いたいユーザーがいるかどうかだ。もしいないなら、衛星通信は3Dテレビと同じく、一過性の流行で終わるだろう。

 現在、スマートフォンに搭載されている衛星通信技術は緊急SOSにしか使えない。また、この機能を搭載しているのはAppleのiPhone 14シリーズのような高級スマートフォンだけだ。iPhone 14シリーズは最も安いモデルでも799ドル(日本では11万9800円)もするため、大多数の人にとって、この機能はあれば便利だが、すぐには手の届かないものとなっている。たとえ手が届いても、この機能が役立つ状況に陥る人、つまりスマートフォンの圏外で緊急事態に見舞われる人は少ないだろう。IDCのリサーチディレクターNabila Popal氏は、自分自身の経験を振り返って、「最後にスマートフォンが使えなかった時のことを思い出せない」と述べている。

 このように衛星通信の用途は限られるため、衛星通信機能の有無がスマートフォンを選ぶ決め手になるとは思えないとPopal氏は言う。もちろん、へき地を訪れる予定がある人、砂漠で開催されるカーレースの参加者、携帯電波の届かない場所に行くことが多い長距離トラックの運転手といった人々にとっては、これは魅力的な機能だろう。しかし、それ以外の人にとっては急いで買うほど重要な機能ではない。

 むしろ、この機能は最近のスマートフォンに搭載されている便利機能のひとつと考えた方がよいかもしれない。例えばカメラやゲームは、以前は専用の機器を持ち歩かなければならなかったが、今はスマートフォンに統合されている。

衛星通信の経緯

 衛星電話は、すでに数十年の歴史を持つ。1992年に公開されたSteven Seagal主演の軍事スリラー映画「沈黙の戦艦」にも、登場人物が海上で電話をかける際に衛星電話が登場する。2001年公開の映画「ジュラシック・パークIII」では、主人公が恐竜だらけの島から脱出するために衛星電話が重要な役割を果たした。

 「電話はどこだ?電話を取れ!」――かつて恐竜がひしめく島から生還した古生物学者のアラン・グラント博士は、スピノサウルスの襲撃を受けたボートの上で、川に落ちそうな電話を探して叫ぶ(ネタバレあり:博士は最後には電話をつかみ、救助を求めることに成功する)。

 実際の衛星電話は、映画ほど刺激的ではないとはいえ、やはり便利だ。衛星電話は地球を周回する数十個の人工衛星からなるネットワークを経由して電話信号を地上に中継する。このシステムの最初の例が、1998年にサービスを開始したIridium Communicationsだ。その後、10を超える衛星ネットワークが世界を駆け巡る人々にインターネットと接続する手段を提供してきた。そしてElon Musk氏率いる航空宇宙企業SpaceXが登場し、このアイデアをもとに衛星ネットワークで地球を囲み、地上のどこからでもインターネットに接続できるようにする「Starlink」計画を発表すると、この技術の持つ可能性がにわかに注目を集めるようになった。

 もし900ドル(約12万円)近くもする大きなフィーチャーフォンを買い、衛星プライベートネットワークを所有する企業と契約し、5分当たり50ドル(約6500円)以上という高額な通話料を支払う覚悟があるなら、今も衛星電話を利用できる。しかし、スマートフォンの無線機能が向上し、外部の(通常は巨大な)アンテナに頼らずに衛星と直接通信できるようになったことから、スマホメーカー各社は低軌道上の衛星ネットワークを利用して、緊急メッセージを送信する機能の実現に取り組んでいる。

 Moor Insights & StrategyのアナリストAnshel Sag氏は、「(スマートフォンの無線性能が)飛躍的に向上したことで、外部アンテナを使わなくても衛星通信機能をスマートフォンに搭載できるようになった」と指摘する。

 先陣を切ったのはAppleだ。同社は主要メーカーに先駆けて、衛星通信機能をiPhone 14シリーズに搭載した。しかし、Appleが衛星通信を実現するために提携したGlobalStarは、米国、欧州、オーストラリア、そして南米、アジアの一部地域でしか接続サービスを提供しておらず、同シリーズの衛星通信が対応しているのは、こうした地域のさらに一部でしかない。しかも、送信できるのは緊急SOSのみで、かつ(建物の内部には電波が届かないため)屋外でしか利用できない。しかしAppleは、iPhone 14を購入してから2年間はこのサービスを無償で利用できると約束した。

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