Googleの「Chromebook」が登場したのは2011年6月15日だ。同社がポータブルコンピューターの歴史に新たな1ページを開いてから、すでに10年以上が過ぎたとは信じがたい。
この間に、Chromebookと「ChromeOS」は、そのささやかな始まりとは似ても似つかないほど進化した。現在のChromebookは、もはや安価なノートPCの代用品ではない。それどころか、macOSやWindowsを搭載したノートPCにも引けを取らないデバイスとして、ますます存在感を強めている。
これはChromeOS自体が強化された結果でもあるが、それ以上にクラウドベースのサービスが拡大し、絶え間なく進化していることが大きい。そこそこのハードウェアとインターネット接続機能を備えたChromebookは、今では従来のノートPCにできることならほとんどこなせる上に、バッテリー駆動時間はたいていのノートPCより長く、動作も軽快だ。
2022年にChromebookのユーザー体験が飛躍的に向上した理由を振り返る。
Chromebookは「でも、Chromebookでは○○はできない」といった批判を受けることが多い。○○の部分には、例えば写真編集や動画編集といったタスクが入る。こうした作業は、もっと高性能なマシンでなければ処理できないと考えられてきた。しかしウェブベースの写真編集ソフトの登場により、写真編集は以前からChromebookでも可能になっている。現在ではAdobeも画像・写真編集ソフト「Photoshop」のウェブ版を提供しているほどだ。そして2022年には、ついに動画さえChromebookで編集できるようになった。
ネイティブアプリ「Googleフォト」のアップデートにより、高スペックのマシンでなければ処理できない作業の代表だった動画編集でさえ、Chromebookで実行できるようになった。既存の動画を編集するだけでなく、アップロードした動画や写真、音声をつないで、全く新しい動画ファイルを作成するといった作業にも対応できる。「DaVinci Resolve」のような動画編集ソフトには及ばないかもしれないが、大半のユーザーが必要とする以上のことはできるはずだ。
AppleファンにApple製品が好きな理由を尋ねれば、かなりの確率で「使いやすいから」という答えが返ってくるだろう。その大きな要因は、同社の緊密なエコシステムが実現する、Appleデバイスのすばやいペアリング、ワンタッチでの画面共有、驚くほどシンプルなパスワード/パスキー管理などにある。そう聞くと、同じように多様なデバイスのエコシステムを持つGoogleが、なぜ同じことをできないのかと疑問に思うかもしれない。
しかし2022年には、こうしたメリットをGoogleユーザーも享受できるようになった。現在では、「Android」スマートフォンやGoogle製の周辺機器を所有している人は、Appleユーザーが享受してきたシームレスなデバイス間連携はもちろん、Appleがまだ実現していない、いくつかの機能も利用できるようになっている。例えば、iPhoneユーザーか否かを区別せずに、さまざまなデバイス間でメッセージを送受信する標準規格であるRCSに全面的に対応しているほか、「Pixel Buds Pro」では複数のデバイス間でペアリングを高速で切り替えられるようになった。このように、GoogleのエコシステムはAppleの単なるコピーではなく、今やAppleを超える部分さえある。
2022年は、Microsoftの「Xbox Cloud Gaming」やNVIDIAの「GeForce NOW」といったクラウドゲームサービスの人気が本格化した年だった。皮肉にも同年、Googleは自社のクラウドゲームサービス「Stadia」の終了を発表している。しかし、Googleの撤退にほとんど影響を受けることなく、クラウドゲームサービスは2022年に飛躍的な成長を遂げた。デバイスメーカーも、この新たなカテゴリーに参入しつつある。例えばLogitechは、完成度が高いとは言えないものの、クラウドゲーム用携帯ゲーム機「G CLOUD」を発売した。2023年には、Razerから5G対応のクラウドゲーム機「Razer Edge」が登場する予定だ。では、マウスとキーボードでゲームをしたい人々はどうするか。
こうしたゲーマーのために、GoogleはLenovoやAcer、ASUSと提携し、初のクラウドゲーム向けChromebookを開発した。この3モデルは、ダウンロードゲームをプレイできないと言われてきたChromebookに、「Halo Infinite」「ELDEN RING」「サイバーパンク2077」「DEATHLOOP」といったクラウドゲームに最適化された馬力を搭載している。
こうしてChromebookは、わずか400~600ドル(約5~8万円)程度で、宿題をするためのノートPC、ソファで映画を楽しむためのストリーミングデバイス、迫力あるゲームを出先でもプレイできるゲーム機の三役を果たすデバイスとなった。
テクノロジー業界が直面している大きな課題のひとつに、電子廃棄物の増加がある。Appleのような企業でさえ、定期的なアップグレードサイクルが生み出す有害ゴミの山にどう対処すべきか頭を悩ませている。
今年、Googleは「3つのR」(Reuse、Reduce、Recycle)の最初のR(Reuse:再利用)を実現するための画期的なソリューションとして、「ChromeOS Flex」を発表した。ほこりをかぶった古いWindowsノートPCや「MacBook」も、ChromeOS Flexをインストールすれば廃棄することなく、再び利用できるようになる。ChromeOS Flexは「Linux」ディストリビューションの一種で、驚くほど多くの古いデバイスにインストールできる。ChromeOSは、Chromebookのように、そこそこのハードウェア性能しか持たないデバイスでも動作するため、最新のmacOSアップデートやWindowsの修正に対応できない古いシステムの再生には理想的だ。
一方で、製品のライフサイクル自体に持続可能性を組み込むというアプローチもある。つまり、古くなったデバイスを再生するのではなく、デスクトップPCのように、デバイスを廃棄せずにアップグレードしていける、長寿命のモジュール型ノートPCを実現するという発想だ。このアイデアはこれまでにも試みられてきたが、2022年に発表された「Framework Laptop」のChromeOS版「Framework Laptop Chromebook Edition」によって、その頂点に達したと言えるかもしれない。同製品は、まるでレゴブロックを組み立てるように、ほぼすべてのパーツを簡単に交換できる、完全にモジュール化されたChromebookだ。モジュール式のデザインに、ほぼあらゆるデバイスで動作するChromeOSを組み合わせることで、捨てる理由が見付からないマシンを実現できる。
前述したように、これまでのChromebookはノートPCの安価な代用品と見なされがちだった。確かに手頃な価格のモデルも充実しているが、2022年はハイエンドのマシンを求める人を含めて、あらゆる層に対応できる幅広い価格帯のChromebookが登場した。
例えば、強力なモバイルゲーム機としてはもちろん、宿題や生産性の向上にも使える機能性と携帯性を兼ね備えた手頃な価格のモデルが欲しいなら、タブレット風の本体と驚くほど高性能な取り外し可能キーボードが合体した、Lenovoの「IdeaPad Duet3」を試してみてほしい。出張や仕事にメインで使える、もう少しハイエンドなモデルを探しているなら、HPの「Elite Dragonfly Chromebook Enterprise」はどうだろう。米ZDNETのJune Wan記者が「Chromebookの概念を変えた」と評した優秀なモデルだ。
予算は少ししかないが、学校に通う子どものために丈夫なChromebookを用意したいという保護者向けには、Dellの「Chromebook 3100」をはじめ、堅実な選択肢も用意されている。
今もWindowsやmacOSを搭載した高機能なノートPCを必要とするユーザーはいるが、その数は日に日に減少している。現在のChromebookがあれば、たいていの人はやりたいことを一通りできる可能性が高い。
現在のChromebookは、目の肥えたテックマニアさえ満足させられるほど、ほぼすべてのことを高いレベルで処理できる。2022年は、Chromebookが目覚ましい勢いで従来のノートPCに追いついた年だった。現在のペースで進化していけば、2023年にはWindowsやmacOSを搭載したノートPCが、ChromeOS搭載マシンの後塵を拝する日が来るかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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