30代共働き夫婦、1カ月間の子連れ海外ワーケーションに初挑戦【現地滞在編】--仕事と子育ては両立できる?

 30代の共働き夫婦で2歳半の息子を持つ私たちが、子連れ海外ワーケーションに初挑戦した体験談をお伝えします。前回は準備編をお届けしましたが、今回は5週間にわたる現地滞在編です。仕事も子育ても徒歩2km圏内で生活していた私たちが、東京からオーストラリアのシドニーに移動し、どのような海外暮らしを体験できたのかをお伝えします。

シドニーで憧れの海外暮らしがスタート

 日本から9時間半のフライトを終えて、シドニーに到着したのは朝8時。この旅の一番の心配事であった「子連れ長時間フライト」から開放された私たち夫婦は、空港のロビーで乾杯したい気持ちでいっぱいでした。しかし、いま私たちがいるシドニーは冬。「寒すぎる。ありゃ、息子に半ズボン履かせたままだ……」。長旅の疲れと慣れない寒さに、到着早々、息子に風邪を引かせてはいけないと、すぐにタクシーを捕まえて、予約していた宿に向かいました。

Airbnbの宿の扉を開けようとする息子
Airbnbの宿の扉を開けようとする息子

 1日目のテーマは「チェックインと休息」。これから3週間お世話になる宿を無事に見つけたときには「インターネット上の写真で見たとおり、きれいな物件で良かった」と、ひとり言が出てしまいました。陽気なタクシーの運転手さんに料金の支払いを終え、スーツケースの荷解きも程々に、息子とともにベッドへ身体を沈め、泥のように眠りました。

 深いお昼寝から目覚めたのは昼過ぎ。なにか食べるものを買いに行こうと宿の外に出ると、そこには青く広がる空に、海の光を受けてキラキラと光るオペラハウスがありました。

自宅から徒歩5〜10分でオペラハウスがある景色を楽しめました
自宅から徒歩5〜10分でオペラハウスがある景色を楽しめました

 これぞ、オーストラリアという景色を見つめながら、私たち夫婦は「本当に来たね」「ようやく実感が湧いてきたかも」と憧れていたシドニー生活が、静かに始まった瞬間を噛み締めました。一方、2歳半の息子はシドニーにいることなんて関係ない様子。広い空や海、そしてオペラハウスには目も向けず、足元に大きなアリがいることを興奮した様子で伝えてくれました。

ハーバーブリッジがきれいに見える公園をお散歩
ハーバーブリッジがきれいに見える公園をお散歩

5週間の滞在プランは「白紙」--現地の予定は現地に行ってから

 「5週間の滞在期間の予定は?」というと、事前に組んでいた予定は1つもありませんでした。日本で家から徒歩2km圏内でしか生活できていなかった私たちです。シドニーでも観光地への移動は難しいだろうと考え、観光の予定は白紙でした。

 「観光ができないのであれば観光地の近くに住めばいい」ーー。そう考えて観光地ど真ん中の宿を2拠点押さえたのでした。子どもが見知らぬ土地に慣れる時間も必要かなと思い、あえて予定は入れないでおこう。平日も休日もゆっくりと宿の周りのお散歩を楽しめればいいと考えていました。


日差しが強いシドニーではサングラスが不可欠でした
日差しが強いシドニーではサングラスが不可欠でした

保育園がない現地で、仕事と子育てを両立する方法は?

 日本では週5で保育園にお世話になっている私たちですが、今回の滞在中は、週1回の4時間しかベビーシッターさんを頼らないと決めていました。そんな中で、フルタイムで仕事をしている私たち。初めての土地で、子どもを自宅保育しながら仕事が問題なくできるのか。仕事と自宅保育の両立が、今回の一番の挑戦でした。

 自我が出てきた息子は「魔の2歳児」と言われる年齢です。やりたいこと、行きたいところに確固たる意思があります。そしてそれが叶わないと容赦なく、ギャン泣きが始まります。そんな息子を見ながら仕事も滞りなく進めていくため、私たちは3つの戦略を立てました。

 1つ目は、早朝4時から仕事をすること。

 2つ目は、保育時間を午前と午後のシフト制にしたこと。

 3つ目は、朝の散歩でお昼寝時間を確保したこと。

 【図1】で共働き家族の「1週間スケジュール」を公開します。新しい環境でのルーティーンがまわるように、「宿の近くに、息子の年齢にあった公園があったよ」「本屋さんの中に、雨でも楽しめるキッズスペースがあったよ」と夫婦でたくさん情報収集し、朝令暮改の改善を続けていきました。


【図1】一週間スケジュール
雨の日に重宝しました。本屋さんの中にあるキッズスペース
雨の日に重宝しました。本屋さんの中にあるキッズスペース

 仕事もしながら自宅保育も行う平日は、バタバタしながら分刻みで過ぎていきます。日本ですら大変なので、未知の土地であれば、何がどこにあるのかもわからず、生活を回していくのは決して楽ではありませんでした。しかし、現地に到着して1週間半が経過した頃には、息子の夜泣きも少なくなり、仕事も子育ても現地で回っているという安心感が生まれていきました。

働きながら、子どもを見ながらでも、観光はできる?

 せっかくの海外暮らしです。美しい景色を見に行ったり、秘境を巡ったりなどもしたいところですが、今回は宿から1時間以上かかる場所への観光は予定に入れませんでした。エアーズロックも、トレッキングもお預けです。一方で、宿から徒歩20分圏内の観光は毎日することができました。親も子どもも楽しめ、雨の日でも利用できる、そして子どもがぐずったらサクッと帰れる場所を、現地のベビーシッターさんから10カ所ほど教えてもらいました。

 2歳の子どもと過ごす時間は、予定通りにはいかないものです。息子の機嫌や天気、また夫婦の仕事の都合にあわせて、毎日ちょっとだけでもシドニー観光することはできないか。私は毎日、朝と昼に全関係者のスケジュールを見ながらパッチワークのように「近場の観光」を家族のスケジュールに差し込んでいきました。

市内の電車にのるために「Suica」のようなカードをかざす息子
市内の電車にのるために「Suica」のようなカードをかざす息子

 ご近所観光をする中で、私のお気に入りのスポットは、宿から徒歩5分のところにあるオペラハウス前の公園でした。朝日が登る時間に行くと、いろいろなカフェから焼きたてのクロワッサンの香りがします。そして、お昼時に行けば、ランチタイムにランニングやヨガをする人々や、自慢のパフォーマンスを繰り広げる大道芸人たちとの出会いを楽しむことができます。

 誰もが知っているような観光地をめぐることはできなかったけれど、シドニーを代表するような観光地で暮らし、周辺を子どもとお散歩する。そんなゆっくりとした時間に小さな幸せを感じることができました。

宿の近くの公園で毎日1~2時間ゆっくり過ごします
宿の近くの公園で毎日1~2時間ゆっくり過ごします

休日は家族でゆっくり過ごし、作りおき料理を仕込む

 休日は、少し遠出して「子連れ観光」にも挑戦しました。小さな子どもを連れて、新しい場所に行くことは決して簡単ではありません。それが海外であればなおさらです。「シドニーといえば、船に乗ってのビーチ遊びがオススメ」ということで、右も左も分からない私たちは、現地の先輩ママであるベビーシッターさんがオススメする子連れスポットに行ってみることにしました。

 宿から徒歩10分のところにあるフェリー乗り場からは、シドニー屈指のビーチタウンに行くことができました。15分ほど船旅を楽しんだ後、親2人はビーチタウンの街歩き。息子は砂浜で工事現場ごっこを開始。1〜2時間ほど、ぼ〜っと海岸時間を楽しみます。

フェリーに揺られ近くのビーチタウンへ移動
フェリーに揺られ近くのビーチタウンへ移動

 その後は、海が見えるレストランで昼ごはんを食べて、スーパーで買い出しをして、自宅に着いたら息子はお昼寝。両親は食事の作り置きや洗濯をして平日に備える、そんな日本と変わらない時間を過ごしました。


現地滞在時のトラブルやハプニングはあった?

 「ちゃんと仕事はできたのか?」という問いに対しては、私たち夫婦はフルリモートで5週間の仕事を無事にできたという実感がありました。私は投資会社のミレイズでコミュニケーション担当として働いています。チームメンバーや投資先起業家、メディア関係者の方と日々、密にコミュニケーションをする必要があり、ミレイズではバーチャル空間「oVice(オヴィス)」を活用しています。

oViceでのセミナー風景
oViceでのセミナー風景

 クリックひとつでオンラインのバーチャルオフィスに出社することができ、わざわざ日程調整をしなくても、バーチャル空間で上司や同僚、そして投資先の人と雑談や打ち合わせをすることができます。滞在中の大きな仕事としては、参加者100人程度のオンラインイベントの開催がありました。シドニーにいながらでもできるかなと緊張していたのですが、結果的にトラブルなく大盛況で終えることができました。

 しかし、安心したのも束の間。2拠点目の宿ではWi-Fiトラブルが頻発。これには参りました。基本的には宿でWi-Fiは問題なく使えるのですが、時間帯によってネット回線が弱くなることがあったのです。その結果、大切なオンライン打ち合わせや、イベント登壇などを宿で受けることが不安になり、ネット回線が安定した個室を改めて探す必要があり、大きなストレスになりました。

ネットが安定した場所を探し、近くの図書館に行きました
ネットが安定した場所を探し、近くの図書館に行きました

 日本から、事前に宿のネット回線は確認していましたが、時間帯によって、回線が不安定になってしまうということは予想できていませんでした。そして後で調べてみると、これは国土の広いオーストラリア全体の問題のようでした。再発防止策としては、無線Wi-Fiだけでなく、有線のネット環境がある場所を事前にチェックしていこうと思いました。

現地で友達はできる?旅でのセレンディピティを楽しむ方法

 私たち夫婦は、シドニーに友人知人はいませんでした。仕事も育児も含め、現地での生活が回るようになった安心感もあり、夫婦ともに「せっかくシドニーにいるんだし、現地の人とも交流してみたいな」という考えが出てきました。

 「シドニーでどうやって、知り合い作れるかな?」「英語で会話できる機会ってあるかな?」ーー。仕事と育児に追われる日々でも、自分たちの日常の中で、現地の方と話すきっかけを探し始めました。いろいろとアイデアを出し合った結果、夫と私はそれぞれが現地で会話できる機会を見つけました。

 夫は、1日に何度か立ち寄るカフェの店員さんと。とてもフレンドリーな40代の中華系のオーナー女性が「今日は、いい天気だね」「日本から来たの?私にも日本人の仲のいい友達がいるんだよ」と話しかけてくれるのです。相手から会話のキャッチボールを始めてくれるのはありがたいと、夫はこのカフェで、会話のキャッチボールの量を増やし、英語のトレーニングの機会にしようと思ったようです。

近くのカフェで朝ごはん
近くのカフェで朝ごはん

 一方の私は、毎日通う公園で一緒になったパパママには自分から話しかけることに決めました。子どもを見守りながら「うちの子は、2歳ですが、あなたの子は何歳ですか?」と定型文を英語で用意して、いざ、「公園パパママ」に声かけを開始。そして、ついにある日、公園で立ち話をしていたシドニーママから「あなたの連絡先を教えて。また遊びましょう」と言われ、連絡先の交換に成功しました。

 彼女の名前は、ナターシャ。シドニーのビーチタウンに住む、7歳、3歳、0歳の子どもを育てるママです。同時に、学生時代から社会人数年目までを日本で過ごした弁護士さんでもありました。今は3人の子育てに専念している時期ということで、子育ても忙しく、また、コロナ禍でなかなか日本にいけなくなってしまったことを残念がっていました。

公園で仲良くなったクロエちゃん(4歳)と遊ぶ息子
公園で仲良くなったクロエちゃん(4歳)と遊ぶ息子

 そして、日本語を使う機会がないので、自分の日本語力が落ちていくことを憂いていました。「前までは日本語で仕事していたのに」「ホタ”テ”が美味しいを、ホタ”ル”と間違えちゃったの~(笑)」などなど。

 子どもを一緒に遊ばせながら、身の上話。そのついでに彼女がオススメする子育て情報をたくさん教えてもらいました。たとえば、現地図書館の読み聞かせの日、子連れで行けるファーマーズマーケット、キッズスタジオの情報、リーズナブルで身体にも優しいお菓子やドリンクの種類など。同じ年齢の子どもを持つ母として、助かると同時に、とてもワクワクする情報ばかりでした。

 5週間の海外ワーケーション。仕事はオンラインで完結するがゆえに、現地で会話ができなくても生きていくことができます。しかし、それだけではさみしい。オーストラリアは自分たちが魅力に感じてやって来た国。せっかく現地にいるのであれば、その国を愛し、その国を形づくっている人々とも話せると、もっと豊かに過ごせると思うのです。


 公園のパパママへの声掛けはほとんどが立ち話で、会話もそれほど盛り上がったわけではありませんでした。無視されてもいいから「毎日、ひとりには…」と声かけを続けていたからこそ、たった一人ですが仲良くしてくれるママ友に出会うことができました。日本だろうが、海外だろうが、パパママは育児の葛藤を共有する仲間です。子どもがいるからこそ、得られるつながりがあることを初めての子連れ海外で気づくことができました。

子連れ海外ワーケーションは生きる場所の「模様替え」

 人生初の子連れ海外ワーケーションの経験をひとことで伝えようとすると「生きる場所の模様替え」をしたということです。私たちの生活はシドニーでも日本でもほぼ同じ。家から徒歩2km圏内で暮らし、1日24時間は、仕事、家事、そして多くの公園&育児時間で埋まっていきます。独身時代のように身軽な旅はできないけれど、子どものペースに合わせた、小さな生活圏での海外生活は楽しむことができました。

 世界は広く、いろいろな価値観がある。自分たちが常識と信じていることは、場所が変われば非常識であったりします。いくつになっても旅をすることで、人は学ぶこと、得ることが多くあります。それが吸収力のある子どもならなおさらです。「子どもが小さいから」と旅に行くことを諦めている家族がいたら、今回の体験談を通じて、エールを送れたらと思います。

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