「Web3.0」は金融の世界に何をもたらすか--eスポーツや地方創生への活用も

大津良裕 (日本暗号資産ビジネス協会)2022年12月01日 09時00分

 日本で長崎の離島に一人旅をしたとしても、町内にコンビニでATMを利用できます。日本の人口の97%以上が銀行口座を保有する環境では、そのようなインフラに何ら不便を感じることはありません。地方銀行の手厚いサービスは高齢化社会に大変親切です。しかしながら、若年層を中心に高齢化し、インフラの維持が困難になり、過疎化が進む地域は多くあります。

 また、世界では17億人が銀行口座を持てていないこと、かつ、アフリカでは携帯電話保有率90%を超える発展途上国があることを頭の片隅に置きながら、本記事では「Web3.0」というものが人々にもたらす現象の1つを捉えることを試みます。

Web3.0とは何か

 Web3.0という概念は、未だ確固たる定義がありません。言葉の印象から、長くウェブに携わっている方はその次世代構造としてTim Berners-Lee氏が2001年に提唱したセマンティックウェブを連想する人もいます。また、Gavin Wood氏は2014年、暗号化技術、インフラの維持設計の仕組みを組み込むことで第三者や企業に依存しない情報の秘匿化とユーザー管理を目指す概念をWeb3.0と提唱しました。

 アメリカの大手ベンチャーキャピタル企業であるa16zは2022年、2000年代を経てインターネットがモバイルと一部の巨大テクノロジー企業に情報や利益が集約されていた時代から、議決権を表現したトークンを持つユーザーコミュニティによるオンライン上での、サービス方針の意思決定や協業を通じ、新しいサービスとユーザーの関係性を構築するものとして提唱しています。

 これだけでも非常にややこしく感じてしまうかと思いますが、本記事ではGavin氏、a16zが提唱した側面から暗号資産やパブリックブロックチェーン上でグローバルに巻き起こる「Web3.0」という現象を捉え、その未だおぼろげな概念の是非を0or1で断じるのではなく、それらがどのような変化をもたらしているのかを説明します。

今現在、Web3.0×金融分野で起きていること

 Uniswapという、預入資産総額が50億米ドルを超える金融サービスがあります。このサービスは巨大な金融機関を介さず、暗号資産やドル価格に連動したトークンの預入と交換機能を持つサービスが誰でも利用できる状態にあり、分散型金融サービス(DeFi)における分散型取引所(DEX)と呼ばれています。

米ベンチャーキャピタルの調査ではDeFi全体の運用資産総額は米国第31位の銀行に位置づけられる
米ベンチャーキャピタルの調査ではDeFi全体の運用資産総額は米国第31位の銀行に位置づけられる

 Uniswap上でプログラムにより執行される取引は、残高の不正や不一致を防ぎ、そこには従来のように仲介する全銀ネットや保振などの重厚なシステム、実店舗とそれに携わる人はおらず、かつソースコードは公開されているという、省力化されつつ透明で堅牢なグローバルインフラが出来上がっています。預入(正確には流動性供給)で得られる金利もプログラム上で計算式が規定され、需給により金額が調整されます。

非常にシンプルなUniswapの利用画面
非常にシンプルなUniswapの利用画面

 誰でも利用できるといいましたが、資産を紛失しても誰からもサポートが得られない世界のため、現状のユーザーは自己責任においてパスワード(正確には秘密鍵)を管理できるコアなユーザーが大多数です。

 しかし、さまざまな競合サービスや周辺サービスが生まれており、UXは徐々に改善されていきます。冒頭に述べたような銀行インフラが乏しい環境が世界にまだある中で、グローバルで共通で簡単にアクセスできる資産交換インフラが選択肢の1つにあること、自国通貨に左右されにくい選択肢があることについて考える意味はあると筆者は思います。

地方創生にも寄与--地元名産品のデジタル化と資金調達、そして関係人口

 新潟県の山古志村が、名産である錦鯉のイラストをNFTというパブリックブロックチェーン上のデジタルトークンとして販売しました。

 この活動を筆者は、単に資金調達という側面でなく、関係人口の増加の可能性として捉えています。1枚のjpegデータが何十億円で販売されたというようなセンセーショナルに人々の注意を大きく惹きつけるものではありませんが、その地域への緩やかな興味関心の高まりが感じられます。

 当該NFTの販売収益は、「OpenSea」の販売数から推察すると数百万円規模と思われます。

 保有者は“デジタル村民”という愛称で、誰でも参加できるチャットツール(「Discord」を活用しており、一部のチャンネルはNFTの所有者のみという特典も組み込まれています)上で交流し、山古志住民会議の方が丁寧にコミュニケーションや地域の情報発信を行っています。

 暗号資産の分野はデジタルネイティブな人々が多く、このようなコミュニケーションツールや写真、動画、文書作成ツールなどを駆使し、地理条件に捕らわれず素早く行うことで交流の密度が高くなっています。

 デジタル村民による企画で来訪イベントが催され、今後も度々「帰省」する人がいると思われます。こういった人が増えることは、資金調達の額面以上に長期にわたってもたらされる、関係人口を増やす1つのきっかけとして非常に興味深いです。当然ながらこれらの出来事は、住民の方々とデジタル村民間の丁寧なコミュニケーションに尽力されている住民会議の方のただならぬ努力があって形になっているものです。

 パブリックブロックチェーンという、グローバルに資産を発行、移転することのできるインフラ上で、村おこしのためのデジタルグッズが販売され、それに紐づいてデジタル上で行われる人々との交流。出発点が極端にデジタルであるからこそ、早く深い回転が生まれる。ここではふるさと納税以上に深い関わり合いが生まれるかもしれません。そのように、NFTを1つのきっかけとして起こる地域との新しい関係性に今後も注目していきたいと思います。

 再現は単純ではありませんが、御朱印を集めるように地域のNFTを収集したり、多くの人の手に渡っていないNFTをあえて発見したりすることの楽しみがあるかもしれません。

ゲームと暗号資産を掛け合わせたeスポーツのグローバルな相互作用の可能性

 7月にスクウェア・エニックスを含む企業、投資家から3500万ドルを調達した米国のZEBEDEEは、ゲームとビットコイン決済の組み合わせを提供しています。同社CEOのSimon Cowell氏が創設したeスポーツイベントである「MintGox」では、FPS、マリオのような横スクロールゲーム、パズルゲームなどを遊ぶことにより少額のビットコインを得ることができます。

 興味深いのは、リアルタイムでプレイヤーと視聴者が参加するカートレースです。日本人を含め世界各国からプレイヤーが参加していますが、視聴者はレース中、ほかのゲームで獲得、もしくは自分で保有するビットコインを少額消費することで、応援するプレイヤーにアイテムを送ることができます。

レースの様子。視聴者は左上のQRコードを読み込むことでアイテムをコースに送ることができます


 筆者も海外レーサーに混ざる日本人レーサーにアイテムを送り、レースが白熱する瞬間を体験しました。プログラマブルかつ、グローバルに共通である暗号資産の特性からこのようなインタラクションが生まれるといえます。

今後の期待

 暗号資産、NFTなどの決済性や資産性のあるトークンの流通、保有が、新たな人と人とのつながりを生み出しています。それらは第三者の仲介による信頼コストを削減したり、地域の関係人口との関わりを早く、深くしたり、コンテンツとユーザーのインタラクティブな交流をもたらしています。

 数多の情報、価格、バズワードに翻弄されず、その根幹に起きている小さな変化を捉えることで新たなヒントが得られるかもしれません。

大津良裕(おおつ よしひろ)
日本暗号資産ビジネス協会 マネージャー、広報担当

建築設備系の学術団体で管理部門として会員組織のデザイン刷新に携わったのち、2020年より現職。
暗号資産、Web3.0分野のビジネス環境整備に携わる傍ら、プライベートの活動としてクリプト関連プロジェクトの情報整理やサービス解説記事、海外情報等の記事執筆によるサポートを行う。

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