Apple初となる拡張現実(AR)/仮想現実(VR)ヘッドセットについては、さまざまな情報が漏れ伝わってくるようになってから、果てしなく長い時間が流れたように感じる。現時点では何も確定しておらず、具体的なものが表に出てくるまでまだ2〜3年はかかりそうだ。とはいえ、AppleによるARの未来を予感させる製品は既にある。それがHolo Interactiveの「HoloKit X」だ。
HoloKit Xは「iPhone」用の周辺機器で、iPhoneのLiDARセンサーを通じた3D環境知覚や、「AirDrop」に用いられているような低消費電力のローカルネットワーク接続といった、既に利用されている技術を活用して、没入感のあるAR体験を生み出すデバイスだ。Holo Interactiveの創業者であるBotao Amber Hu氏はiPhoneを活用するこのヘッドセットに大きな期待をかけており、このアプローチこそ、最も手が届きやすいものだと確信している。
HoloKit Xの特徴的な要素としては、iPhoneおよび「Apple Watch」(後者については後ほど説明する)との連携が挙げられる。複合現実(MR)ヘッドセットは電源ケーブルか充電が必要なのが普通だが、HoloKit XはiPhoneというエンジンを載せる、いわば「車体」にすぎない。HoloKit Xは「iPhone XS」から最新モデルの「iPhone 14 Pro Max」まで対応しているが、Hu氏によると、同氏が率いる10人からなるチームが作成した多くの「Reality」(MRコンテンツ)を探訪するには、LiDARに対応したiPhoneを用いるのが理想だという。つまり、iPhone 12 Proかそれ以上のスペックの端末を使うといいということだ。これよりも古いiPhoneでも機能はするが、生成される3D知覚の精度が下がる。
HoloKit Xのセットアップは簡単だ。まずAppleの「TestFlight」を通じてiPhoneの「HoloKit」アプリにアクセスする。そしていずれかの「Reality」を開き、iPhoneをヘッドセットに装着すれば、iPhoneの画面に表示されているものが立体視レンズによって変換され、装着者の中心視野に投影される。そう聞くと、Hu氏がこのテクノロジーを「StAR」(Stereoscopic AR=立体視拡張現実の略語)と名付けているのもうなずけるだろう。
ミラーと開口部が巧みに配置されているため、Googleの「Daydream」やサムスンの「Gear VR」などと違って、装着者がiPhoneの画面を直視することがない仕組みになっている。おかげで、眼精疲労が大幅に軽減され、全般的に快適なヘッドセット装着体験が実現している。また、眼鏡をかけていても使いやすい。
頭に装着するHoloKit Xの本体部分は、硬いプラスチックと弾力性のあるバンドで作られている。これは筐体の軽量化に貢献しているものの、その反面、手触りはやや安っぽく感じられる。だが、「安っぽさ」はHu氏の求める美学に反するものだ。HoloKit Xのハードウェア自体ははすでに完成品だが、同氏は「Supreme」や「Off-White」といったストリートウェアブランドと提携し、これらのブランドの特徴的なデザインをARヘッドセットのヘッドバンド部分に取り入れることを検討している。
では、HoloKit Xを装着してARの世界に飛び込んでみよう。プレーヤーが見ている世界は、(同じローカルのHoloKitチャンネルに同期している場合を除き)他の人には見えない。HoloKit XにはNFCタグ以外、何の技術も組み込まれていない。NFCタグは、プレーヤーが使っているiPhoneをアプリが識別し、スケーリングを調整したり、プレーヤーが遊んでいる「Reality」のデータを個人を特定できない形で収集したりするために使われる。つまり、プレーヤーが見ている世界はHoloKitに付けたiPhoneによって実現されている。例えば、iPhoneはセルラー回線やWi-Fiネットワークではなく、低消費電力のBluetoothに接続してローカルチャンネルをホスティングし、他のHoloKit X所有者がゲームに参加したり、観戦したりできるようにする。
プレーヤー以外の人は、個別に作成されたQRコードを読み取ることで、自分のiPhoneやiPadをファインダーとして利用し、ゲームを観戦できる。これは大勢でゲームを楽しむための天才的な方法だ。ヘッドセットを装着しているプレーヤー自身には60度の視野角しかないため、観戦モードの方がはるかに広い範囲を見通せることになる。この辺りは今後のバージョンアップでの改善を期待したい。
上のGIF画像は、観戦ビューでの見え方を示したものだ。この画像に映っているハリー・ポッター風のアクションは、HoloKitを「Apple Watch」と連携させることで実現されている。プレーヤーがApple Watchを付けると、モーションコントロールのトラッキングが有効になり、手首をさっと動かすだけで魔法を発動できるようになる。このGIF画像では、HoloKit XがAppleのAR機能「ARKit」を使って、6自由度(6DoF)の空間トラッキングを実現していることが分かる。つまり、ユーザーが動き回ってもエネルギーシールドやAIキャラクターといった要素の位置は変わらない。
この戦闘シーンでは、空間オーディオとハプティクスの連携は確認できない。しかし、Hu氏がAppleの技術、例えば「AirPods Pro」や「AirPods Max」の装着時に体験できるサラウンドサウンドなどをフル活用しようとしていることは明らかだ。センサーベースのRealityでは、プレーヤーが部屋の中を歩き回ると、プレーヤーの位置や姿勢に合わせてオーディオエフェクトが変化する。
ハプティクス技術も活用されており、Reality内での行動に合わせてプレーヤーに振動がフィードバックされる。例えば、プレーヤーが呪文攻撃を受けると、iPhoneが小さく振動する。
しかし、HoloKit Xの可能性は魔法のトリックやゲームにとどまらない。Hu氏は、AR体験はNFTの領域にも広がり、例えばデジタルアーティストによるバーチャル展示会などを実現できるようになると見ている。
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