アップルがAR/VRヘッドセットを2023年に発売しないと思う理由

David Gewirtz (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2022年10月25日 08時00分

 Appleは2023年中に拡張現実(AR)/仮想現実(VR)ヘッドセットをリリースする準備を整えつつある。と、誰もが信じている。なぜならテック系メディアがそう報じているからだ。

提供:Meta
Metaの「Quest Pro」ヘッドセットを装着した設計者
提供:Meta

 Apple製品に関して極めて正確な予測で知られるBloombergのMark Gurman氏は8月28日付の記事で、Appleが「Reality One」「Reality Pro」「Reality Processor」という名称の商標を出願したと報じた。同氏によると、「Appleは2023年に同社初のハイエンドな複合現実(MR)ヘッドセットをリリースしようとしている」という。

 Ars Technicaは5月、Appleがヘッドセットの開発にどれほど苦慮しているかという興味深い記事を報じた。この記事では、Jony Ive氏が既に同社を去ったにも関わらず、このプロジェクトに関わっていると伝えている。そして同メディアもまた、ヘッドセットは2023年に登場すると考えており、「Appleは当初、ヘッドセットを2019年に発売する予定だったが、2022年内か2023年になりそうだ」としている。

 Ars Technicaは10月に入って、同社のヘッドセットが「装着するとユーザーの虹彩をスキャンする」と報じ、「Appleのヘッドセットは遅れが生じているものの、より高い価格で2023年中に発売される予定だ」と報じた。「より高い」というのは、Metaが発売したハイエンドヘッドセット「Quest Pro」の価格1499.99ドル(日本では22万6800円)より高額という意味だ。

 テック系メディアがそううわさするなら、きっとそうなのだろう。でも本当だろうか?

 筆者はそうは思わない。Appleが不格好なヘッドセットを2023年に発売し、顧客に押し付けるなどとは思えないのだ。Quest Proの重さは722gだ。Appleが684gの「iPad Pro」より重いものをユーザーの頭に装着させようとするだろうか。

 それは、Appleらしくない。

確かにAppleはARに投資している

 AppleはARに投資し続けている。2017年には、開発者向けに「iPad」用ARアプリ構築ソフトウェアライブラリー「ARKit」をリリースした。その後も開発は続き、2018年に「ARKit 2.0」をリリースした。

 これには非常に納得できる。スタートレックに出てくるホロデッキのようなAR/VRのアイデアは興味をそそる。AppleやMeta、Microsoftのような巨額の資金を持つ企業が、こうしたアイデアを実現するための開発や、純粋な研究に投資することは極めて理にかなっている。

 さらに、大規模な開発チームを擁するAppleであれば、開発者らにライブラリーを提供して何を構築するか見てみようとするのも理解できる。

 ARKit以外で同社が何に投資しているかは不明だ。だが、個人向けウェアラブルと、車のフロントガラスに情報を映すヘッドアップディスプレイの両方のディスプレイ技術に取り組むチームがあると考えるのは、理にかなっていると言えるだろう。

 しかし、投資や研究と、製品の発売は別物だ。

AppleはGoogleとは違う

 Googleは、プロジェクトを立ち上げ、公開したとしても、社内で定めた指標が求める水準に届かないものは打ち切ることで有名だ。実際、「Killed by Google」というWebサイトには、同社によって立ち上げられては消えていったプロジェクトが実に278件も紹介されている。

 「Google Glass」もそうした製品の1つだ。発売された瞬間から、この製品が失敗する運命にあることは誰もが分かっていた。見栄えが悪く、煩わしさがあり、人々を困惑させる代物で、魅力に欠けていた。だが、一般大衆には受けなかった一方で、企業領域では活用の余地があった。

 これがGoogleのやり方だ。同社は製品や技術をまず試してみて反応を見るのだ。だがAppleはそんなやり方はしない。Appleは大きな市場に受け入れられることを想定して製品を開発している。

Appleにも「なんてこった」な製品はある

 だからといって、Appleのやることすべてが素晴らしいというわけではない。Appleの歴史は「なんてこった」な瞬間に満ちている。

 マウスの底面に充電ポートを設置したのはいただけない。円筒形の「Mac Pro」はゴミ箱かと嘲笑された。「MacBook」の「バタフライ」キーボードは嫌われた。最新Mac Pro用の別売キャスター(400ドル、日本では9万7800円)はかなり腹立たしい。「Pro Display XDR」用「Pro Stand」(999ドル、同14万6880円)は「これまでで最もAppleらしいもの」と皮肉られた。

Appleはカテゴリーを定義する製品を作る

 しかし、上に挙げた例は製品カテゴリーではない。Appleの製品カテゴリーは揺るぎないものだ。(かつての)「iPod」。「iPhone」。iPad。「Apple Watch」。「Mac」。「AirPods」。これらは大きな成功を収めた、カテゴリーを定義する製品だ。

 同社がドローンや電動スクーターを製品ラインに加えることはないだろう。Beatsを傘下に持ち、Beatsブランドのオーディオ製品を多数持っているが、このカテゴリーで優勢なのはAirPodsだ。

 前述のように、確かに幾つかの失敗はあった。「Apple TV」と「HomePod」はホームランではない。Apple TVは「Roku」に圧倒されており、HomePodは「Alexa」製品の前ではかすむ。だが、それでもApple TVとHomePodは堅実な製品であり、Appleの製品ラインを補強している。

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