グーグルが自身で手掛けた初のスマートウォッチ「Pixel Watch」が、10月13日に発売される。 「Android」端末とのペアリングに対応したコンパニオンデバイスという位置づけで、腕元で通知を確認したり、Googleマップでナビをしたりと、スマートウォッチに必要な機能を網羅。日本版は、NFCの「Google Pay」に加えてFeliCaの「Suica」に対応した。もちろん、ワークアウト時の各種データ測定も行える。
グローバルのスマートフォン市場で高いシェアを誇るグーグルのAndroidだが、ことスマートウォッチの分野では、苦戦を強いられていた。プラットフォームとして、「Wear OS」を展開してきたものの、参画するメーカーが少ないこともあだになり、シェアは限定的だった。この分野で強いのは、「Apple Watch」を展開するアップル。米調査会社Counterpoint Researchによると、21年は30.1%でトップを独走する。
グーグルは2位以下の企業にも食い込めていなかった。同調査でシェア10.2%のサムスン電子も、スマートウォッチには自社主導で開発した「Tizen」を採用していた。ここに続くファーウェイも、「Linux」ベースの独自OSとして端末を展開したのち、「HamonyOS」に切り替えている。4位のimooは中国市場でシェアを拡大する子ども向けスマートウォッチメーカーで、Wear OSは不採用。5位のAmazfitも、独自に「Zepp OS」を開発する。
後述するように、21年にはサムスンがWear OSの採用を始めたため、同社のシェアである10.2%の何割かはグーグルのプラットフォームということになる。ただ、それを含めてもWear OSのシェアは低い。各国の規制当局から寡占が問題視されるほどOSやプラットフォームで高いシェアを持つグーグルとしては、異例と言えるほどスマートウォッチでの存在感が希薄だったというわけだ。
理由はさまざまだが、スマートフォンで主導権を握られてしまったメーカーが、「次こそは」と独自OSに走ったことは要因の1つと言える。スマートフォンの分野でもかつて“第3のOS”を確立する動きがあったが、OSのバリエーションが多いことはメーカー側のリスクヘッジにもなりうる。米国からの制裁を受けたファーウェイが、スマートウォッチをコンスタントに出し続けられてきたことは、その証左だ。
一方で、スマートウォッチから集められるデータは膨大だ。スマートフォンとは異なり、常時身に着けているため、位置情報や経路情報はより正確に取得できる。より体に近いぶん、スマートフォンでは取得が難しかったバイタル情報も収集できる。こうした情報を安易に広告で利用するのは難しいものの、「世界中のあらゆる情報を整理する」ことを企業理念に掲げるグーグルにとって、スマートウォッチから集まるビッグデータが必要不可欠だったことは間違いない。
そのため、グーグルは長い時間をかけ、スマートウォッチ事業を立て直してきた。19年1月には、米ライフスタイルブランドのFossil Groupから、スマートウォッチ関連の知的財産と研究開発部門の人材を一部取得。その額は、4000万ドル(当時の為替レートで約44億円)にのぼった。同年、グーグルはフィットネストラッカーの技術やノウハウに定評のあったFitbitの買収を発表。買収は21年に完了している。
さらにグーグルは21年にサムスン電子とスマートウォッチのプラットフォームを統合することを発表し、Wear OS陣営を強化。サムスンも、2021年に発売された「Galaxy Watch 4」以降のスマートウォッチにWear OSを採用するようになった。グーグルのエコシステムを生かし、アプリなどを増やせるのがサムスンのメリット。これに対し、Wear OS側もアプリの高速化や省電力化、操作性といった長所をTizenから取り入れている。
前置きが長くなったが、こうしたさまざな会社のノウハウを結集させて完成したのが、冒頭で挙げたPixel Watchだ。OSはTizenの技術を取り入れたWear OS 3.5で、Fitbitの技術も採用。これによって、グーグル単独では実現できなかったさまざな機能に対応した。発表会では“Fitbitと手を組んだことで、もっとも精度の高い心拍カウントが可能になった”といった機能や、“200億もの睡眠統計を元に睡眠の質を見ることができる”といった機能が紹介されていたが、これらはいずれもFitbit由来の技術だ。
一方で、Fitbitの製品群にはWear OSは採用されていない。Googleマップとの連携や、アプリによるカスタマイズなど、グーグルならではのエコシステムを生かせるのはPixel Watchならではの強みだ。紆余曲折を経たが、Fossilやサムスン、Fitbitのノウハウを取り込み、グーグルならではのエコシステムと統合することで、ようやくApple Watchに対抗しうるスマートウォッチが完成したと言えるだろう。
スマートフォンの分野では、すでにAndroidを採用するメーカーも多く、Pixelシリーズは、ハードウェアを通じてグーグルのAIをユーザーに届けるための“ショーケース”に近い位置づけになっている。iPhoneを打倒し、トップシェアの奪還を目指す──といった高い目標は掲げられていない。その役割を担っているのは、Androidを採用するサムスンでありシャオミであるからだ。
そんなスマートフォンのPixelと比べると、Pixel Watchの置かれている状況は少々異なる。ここまで述べてきたように、Wear OSのプラットフォーム自体、まだあまり広がっていないため、グーグルが気を配るべき“仲間”は少ない。むしろ、グーグル自身とサムスンで市場を開拓し、Apple Watchに対抗していく必要があるフェーズだ。日本では攻めた為替レートで設定された価格も話題になったPixel Watchだが、これもグーグルが普及に本腰を入れていることの証拠と言えるだろう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス