SNSとの健全な関係とは何か。この質問への答えは、尋ねる相手によって変わる。
一部の若者は、オンラインのコミュニティとオフラインのコミュニティのバランスを取ることだと答えるかもしれない。22歳のNatalia Poteryakhinさんにとっては、SNSから完全に身を引くことだ。しかし、この試みはまだ成功していない。
Poteryakhinさんは、SNS上で絵コンテやマンガを公開することで、アニメ業界でのキャリアをスタートさせた。「Instagram」でのフォロワー数は5000人を超える。フォロワーが増えるにつれて、Instagramへの依存度も高まっていったが、同時に「画面を見ている時間をなるべく減らしたい」という葛藤も生まれた。
Poteryakhinさんは画面を見ている時間を減らすためのアドバイスを片っ端から試した。しかし、「SNS依存を抑える方法」で検索した時に見つかるような、ありきたりのヒントやコツは何の役にも立たなかった。
Instagramのアプリをホーム画面から削除したが、スマートフォンからアンインストールしたわけではない。スマートフォンの「スクリーンタイム」機能を使ってInstagramの使用時間を15分に設定してみたが、結局毎日「たっぷり1時間半」は使っているという。「WasteNoTime」もダウンロードした。これはブロック対象リストに登録したウェブサイトの閲覧時間を記録し、一定時間を超えるとアクセスできないようにするブラウザー拡張機能だ。
しかし、役に立ったものはひとつもなかった。
Poteryakhinさんは、自分で作った壁を乗り越えて、SNSを使い続けている。「ありとあらゆる方法を試した。でも、SNSは自分の存在と強く結び付いているので、距離を置くことは簡単ではない」と彼女は言う。
Poteryakhinさんだけではない。多くの若者が、SNSの使用時間を減らす方法を知っていて、ずっとオンラインでいることの落とし穴も分かっているのに、膨大な時間をSNSにつぎ込み続けている。
この状況は、Z世代(1997〜2012年生まれの人々)がネットワーク化された世界を生きているという事実を浮き彫りにしている。Z世代は、それ以前の世代と比べて友情や知識、そして現実の空間では得られないコミュニティの感覚を獲得する方法として、SNSを利用している。この世代の若者はオンラインコミュニティと共に成長してきた、いわばデジタルネイティブであり、SNSと自分のアイデンティティは切っても切れない関係にある。その結果、SNSとの「健全」な関係が意味するものも変わった。Z世代にとって、「デジタルデトックス」は非現実的なもの、もっと言えば、不健全なものでさえある。
SNSの使用時間を減らすためによく提案される、「スクリーンタイムを設定する」、「スマートフォンの画面をグレースケールに変更する」といった方法では、Z世代とSNSの濃密な関係には対応できない。万人に当てはまる解決方法はないが、筆者が話を聞いた若者たちは、この世代共通の問題に自分なりの解決策を見いだしていた。若者たちがSNSの使用時間を減らすために採用した方法と、SNSとの完全な決別が現実的ではない理由を説明する。
理論上、SNSの使用時間を減らす最もシンプルな方法は、「完全に絶つ」ことだ。すべてのSNSの使用をやめ、あらゆるデバイスを退け、オンラインでのアイデンティティと自分を切り離す。しかし実際には、ネット上の自分と現実世界の自分を分けることは難しい。
Ankit Dhameさんは、中学1年生の時に初めて自分の携帯電話(サムスン製のフリップフォン)を手に入れた。中学3年生になる頃には、Tumblrでミームをリブログし、このブログコミュニティで小さいながらも、それなりの存在感を示すようになった。現在25歳のDhameさんは、当時のインターネットが「非常に健全」だったと振り返る。人々はばかげたユーザー名を作り、匿名でTumblrにジョークのスレッドを延々と作っていた。
「最初から(インターネット上で)人とつながりたいと思っていた。注目を得るためだけにSNSを使ったことはない。注目を集めたかったのは、人とのつながりが欲しかったからだ」と、Dhameさんは言う。インターネットを通じて友人ができ、一部の人たちとは現実世界でも付き合うようになった。
一時は、1日12時間以上も画面を見ていたとDhameさんは言う。SNSとの関係を改善はしたいが、完全に決別したいかと聞かれれば即座にノーだという答えが返ってきた。「それは、タバコをやめるために手を切り落とすようなものだ」とDhameさんは言う。「正しい解決方法ではない」
SNSから完全に足を洗うことを勧める人は、インターネット上のコミュニティと、それが生み出す対面のコミュニティが、デジタルネイティブにとっていかに重要なものかを見過ごしている。
21歳のトランス女性(出生時の性は男性だが、性自認は女性)、Masha BreezeさんはInstagramで「@senilewaif」というミームアカウントを運営している。性同一性障害に苦しんでいた2019年、Breezeさんは自分の悩みをアカウントに投稿するようになった。当時わずかなフォロワーしかいなかったアカウントは、瞬く間に強固なトランスジェンダーコミュニティへと成長した。
このオンラインコミュニティでは、「多くの人が交流し、他の人に話しかけ、政治の話をしたり、ホルモンや医療に関する情報を交換したりできる。風当たりの強い現実世界では得られないものばかりだ」とBreezeさんは言う。
その後、Breezeさんは現実の世界でもコミュニティを構築したが、「(@senilewaifの)ページを作らなければ今の状況はなかった」と言う。
「森に入り、あらゆるものからログオフして、インターネットのない世界で生きることが私の夢だった」とBreezeさんは言う。「年を重ねて、それなりの経済的余裕ができたら、この夢を実現する日が来るかもしれない。でも今は、たとえそういう生活ができたとしても、孤独を感じ、自分を表現できないことを残念に思うだろう」
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