柳澤氏:地域の情報発信ができるようになったら、次のステップは受け入れ体制です。移住者が頻繁に来ていて、すでにオープンな状態ができあがり、かつ行政のサポートも行き届くというのが理想ですね。受け入れ時に街づくりに参加できるみたいなところまで設計できると、街に愛着をもってもらえると思います。逆に言えば、週末しかこないけれど、街づくりに参加していれば、愛着が出てくる。
ずっと住んでいなければ街のイベントなどに参加できないような空気感が残ってはいるところもありますが、最終的にはそういう空気感のない地域にならなければ人気にはならない。自由に出入りできるような地域が伸びると思います。
酒井氏:人の流動性が高くなると住心地がよくなるということでしょうか。
木下氏:お祭りへの参加が自由かどうかは結構重要ですね。地域によっては地元の人オンリーにしているところもあります。一方で福岡県福岡市みたいに、外の人がどんどん参加できるお祭りもある。
福岡は10年以上住む人の割合がほかの地域より少ないというデータがあって、人はたくさん入ってくるけれど、出ていく人も多い。それでも街が回ることを前提に組み立てられているんです。福岡市が新しい取り組みをしやすいのは、そういったもともとの仕組みというかカルチャーがあるのかなと。
地方では、そこに家を建ててようやく一人前みたいな雰囲気がありましたが、人口が減って街ごと消滅という危機も出てきています。北海道のとある地域では危機的局面を迎え、地元民じゃないと、家を建てていないとなんてそんなことは言っていられないと住民が動き出して、オープンな環境を築き上げつつあります。若い世代の人が町長になったり、商店街でも代替わりが起こったりと、積極的な地域に変わってきている。そう考えるとお試し移住するなどの選択肢は広がってきているのかなと思います。
酒井氏:少し前は上京すると地域を捨てたなんて言われたりした時代もありましたが、そういう時代でもなくなってきていると。
木下氏:いわゆる都落ちみたいな感じもなくなってきていますね。変な偏見もなく、コンプレックスも持っていない。移住する人も受け入れる側の人もフェアなコミュニケーションがとれるようになっている、そこが一番の変化だと思います。
田村氏:今のお話を聞いていると自治体と民間のやるべきことの境目が難しくなっていく感じを受けます。民間はどうやって関わっていけばいいと思いますか。
木下氏:地域の企業における改革も大切になってきますね。サテライトオフィスを作ったり、フリーアドレスにしたりと働く環境の現代化が求められる。また、すごく優秀な人材が、家族の転勤のため地元に2年間だけ居住しているなどのケースもありますよね。この人に仕事をお願いしないのはもったいない。こういう柔軟性のある対応ができるのは行政ではなくて企業。移住者の方に活躍してもらうのは、行政だけでうまくいくわけではなく、企業側とセットになって力がフルに使えるのだと思います。この連携ができている地域はうまくいっていますね。
柳澤氏:それほど規模の大きくない地域では企業と行政の連携が特に必要ですね。連携している地域は盛り上がっている。各地域ではキーマンになっている企業があって、必ずしも業績がいいということだけではないのですが、この企業とまちづくり団体がタッグを組んだときにはじめて雰囲気や価値がぐっと変わっていきます。街が動き出す感じですね。
木下氏:このチームワークは結構大事ですね。動いているかどうかが大きい。
柳澤氏:連携といっても全員がそれに注力する必要はなくて行政の担当者と企業の人がきちんとつながっていればいいと思います。このチームでボールをパスし合うと、いいサポートができる。
酒井氏:都市と地方の関係性が変わる中で、ビジネスチャンスはどこにありますでしょうか。
木下氏:コロナの影響で、観光業は大きな打撃を受けましたが、その揺り戻しが来ています。以前のインバウンド政策では東京や大阪、京都と言った有名所を回るのが一般的でしたが、これがよりローカルになってくると思っています。コロナ禍で宿泊業界も大変でしたが、個室型の高品質な宿は業績が伸びているという例もあって、ローカルだから資金が少ないといったような話はすごく変わってくると思います。
柳澤氏:ビジネスの意味では、デジタルが主戦場になっているので、場所は問わない。ただ、産業が集積しているエリアは情報が早く入ってくるなどの意味で、優位性があった。しかしこの優位性もコロナで人にあえなくなり、イベントなども減る中で、なくなりつつあると思います。
地方が東京よりすみやすい地域になればビジネスチャンスを考える必要もないですよね。ビジネスチャンスはデジタルのなかにあり、自分は楽しいとか、好きとか幸福度をあげるためだけに住む場所を決めるようになってくると思います。
酒井氏:楽しいかどうかが重要ということですね。本日はありがとうございました。
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