松竹は、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の「松竹ベンチャーズ」を設立し、7月から事業を開始すると発表した。スタートアップとの協業と出資を通じて、エンターテイメントや不動産などの自社事業の強化と、新領域でのビジネスチャンスの模索を図る。
松竹ベンチャーズでは主にアーリーステージのスタートアップに投資する。初年度の投資規模は約10億円を計画し、1社あたりの出資枠は5000万円から1億円を想定している。
「この国の、娯楽を進める」をミッションに掲げ、エンターテイメント領域を軸にしつつも、関連する領域で事業を行うスタートアップへの投資も予定している。松竹の主力事業である演劇や映画、不動産とのシナジーだけでなく、「世の中のエンターテイメントに関わるものすべての進化を牽引したい」という思惑があるという。
不動産の領域も投資対象として強く意識している。松竹が本社を置く東銀座エリアでは、松竹自身が歌舞伎座や新橋演舞場などの劇場を運営している。松竹本社が入る東劇ビルの建て替えも決まっており、同ビルの名称の由来である「東京劇場」の復活も検討しているという。
さらに、東銀座エリアでは大規模な再開発構想が浮上している。中央区が主導する形で、同エリアを貫く首都高速道路に蓋をし、その上を公園などとして活用する構想がある。
松竹も今春、同エリア内に物件を所有する企業と共同で「東銀座まちづくり推進協議会」を立ち上げ、再開発に向けた取り組みを始めた。「東銀座をライブエンターテイメントの街にする」(井上氏)ために、テクノロジーを活用して、不動産の価値向上などに取り組めるスタートアップへの出資なども想定している。
投資先のスタートアップは、松竹の映像事業や演劇事業、撮影所などのさまざまなアセットを利用できる。直近では松竹はXRやバーチャルプロダクションの研究開発拠点として「代官山バーチャルスタジオ」を開設している。
松竹はこれまで大企業と連携し、次世代エンターテイメントの創造に力を入れてきた。NTTと組んだ「超歌舞伎」では、NTTの最新テクノロジーと歌舞伎を融合させた。
今回、CVCを立ち上げることで「大企業とは成し得ない新たなチャレンジをすることを目指している」という。松竹ベンチャーズの社員は松竹からの出向となり、松竹全体でスタートアップとの共創を通じた「事業を創れる」人材の育成も目指す。
松竹とスタートアップの関わりは2017年ごろに溯る。松竹ベンチャーズで代表取締役社長を務める井上貴弘氏によると、きっかけは松竹 代表取締役社長である迫本淳一氏の一声だった。
当時は新型コロナの感染拡大が始まる前でもあり、松竹の業績は絶好調だった。しかし、高齢化で縮小しつつある日本国内に売り上げを大きく依存していた。「ちょっと待てよ、国内に相当依存しているな。何か新しいパートナーと組んで新しいことをしなければ」と松竹の迫本社長が発破をかけたことがきっかけとなり、スタートアップとの連携を模索し始めたという。
その後、迫本社長の意を汲む形で、2018年に「Drone Fund 2号」へのLP出資を実施した。その際のエピソードとしては「これまでベンチャーキャピタルファンドへの出資の経験が無い自社内で、どうすれば理解を得られるかと、自宅近くの自由が丘の貸会議室で約3カ月間、毎週末、森川(現松竹ベンチャーズ取締役常務執行役員の森川朋彦氏)と2人で長時間議論して資料を作成し、全てがそこから始まった」と語る。
また、森川氏は「Drone Fund」の運営会社に一年間出向し、スタートアップ投資への知見を深めたという。なお、当時は松竹内にCVCを作る構想はあったものの確定事項ではなく、仮にCVC設立が見送られれば、出向先でのキャリアは無駄になる恐れもあった。森川氏の出向の成果を見て、井上氏はその後、他のVC及びCVCに若手社員計6人の研修と出向の受入れを依頼し、人材育成を進め、今回のCVC設立に至った。
なお、CVCの設立では松竹は後発にあたるが、松竹は1931年に日本で最初の完成されたトーキー映画を制作するなど、「かつては今で言うスタートアップマインドがあった」(井上氏)という。CVC設立にはその原点回帰という意味合いもあるという。
松竹ベンチャーズの設立に合わせ、アクセラレータープログラム「Shochiku Accelerator2022『Entertainment Festival』」も開催する。応募期間は6月30日から8月10日で、選考期間は8月10日から9月中旬。デモデイは12月初旬を予定し、優勝賞金は100万円となる。
共創テーマ例は「映画・演劇の新規IP開発」「新たな観劇体験の創出」「ファンエンゲージメントの向上」「エンタメ・不動産DX」「エンタメを活かしたまちづくり」「新領域でのエンタメ挑戦」などを挙げたが、これ以外の応募も受け付けるという。
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