オーストラリアにいる人にとって、「すべてのユーザーを本人確認する」というMusk氏の言葉は、オーストラリア政府の夢の実現のように聞こえる。5月に選挙があるため、荒らし行為防止法案(実際には、権力者や富裕層にとって強力な武器であり、自分と意見の異なる者に対して名誉毀損の脅迫や訴訟を仕掛けるのに利用される可能性もあった)は議会の閉会と共に失効した。この概念が超党派の支持を得ていたことを考えると、この法案は消滅したのではなく、休止しているだけだと考えた方がいいだろう。
この法案には、Twitterも懸念を表明していた。
Twitter Australiaのパブリックポリシー担当ディレクターKara Hinesley氏は3月に、「この法案の下で、オンラインプラットフォームは、自らの法的責任について司法の判断を仰ぐのか、それとも、対象のコンテンツが実際に法的な名誉毀損に該当するかについて司法の判断を仰ぐことなく、ユーザーの個人的な機密情報を当局に提出するのかを選ぶことができる」と述べている。
「内部告発者や家庭内暴力の被害者、LGBTQIAコミュニティーの人々が重要な問題について話し合う手段や基本的な入り口として、匿名やそれに準ずるアカウントを利用する事例は山ほどある」
「この法案には、表明されている意図と逆の結果を招いてしまう安全上の懸念があるのではないか、とわれわれは考えている」
デジタル権に関するオーストラリアの活動団体Digital Rights Watchでエグゼクティブディレクターを務めるJames Clark氏は米ZDNetに対し、権力者に立ち向かうには匿名性が不可欠である、と語った。
「デジタルフットプリントがかつてないほど永続的になり、容易に追跡できるようになった時代において、匿名性の維持は、オンラインで公的な生活と共にプライベートな生活も維持する手段である」(同氏)
「批判者や内部告発者を威嚇してきたMusk氏の歴史を考えると、当然、同氏の管理するプラットフォームに身分証明書をアップロードすることをためらう人もたくさんいると思う」
Twitterが億万長者に振り回されるのは、これが初めてではない。Twitterを管理していた前の億万長者(Jack Dorsey氏のこと)は、現在はBlockの経営者になり、Block Headというあだ名を使用している。今度の管理者は炎上を引き起こすツイートばかりを投稿し、スパムボットの撲滅と米国憲法修正第1条が定義する言論の自由の追求のみに注力する人物になるかもしれない。
Musk氏が主導権を持つことで、言論抑圧のための法律が制定されてしまうような地域に住む人々もいる。言論抑圧を避けようとしている同氏だが、そうした地域に住む人が訴訟費用に押しつぶされても、やむを得ない犠牲とみなされるだけの可能性が高い。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)