コロナ禍によるリモートワークといった働き方の多様化や、VUCA時代における社内外のデジタル化が加速する中、大企業においても、求められる人材に変化が見られる。その中で、個人のパラレルな働き方を推奨して自発性を引き出し、組織を変革する取り組みが大企業において実践され始めている。
2021年8月20日に開催したパラレルプレナージャパンのイベントでは、これから大企業が発展するために必要な“個の価値”を活かすための制度、風土や、社員の考え方についてのディスカッションを実施。変化の時代に大企業が、個と組織の関係性をどのように維持し、どのように相乗効果の最大化に挑戦しているかを探る。
境 麻千子(さかい まちこ)氏 NTT東日本 執行役員 千葉事業部長 兼 千葉支店長
2012年にはダイバーシティ推進室長としてダイバーシティビジョン&コミットメントを策定し、経営戦略としてのD&Iを確立。
島田 由香(しまだ ゆか)氏 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 人事総務本部長
日本の人事部「HRアワード2016」企業人事部門 個人の部・最優秀賞、「国際女性デー|HAPPY WOMAN AWARD 2019 for SDGs」受賞。
平松 浩樹(ひらまつ ひろき)氏 富士通 執行役員常務CHRO
2020年4月より執行役員常務総務・人事本部長として、ジョブ型人事制度、ニューノーマル時代の働き方・オフィス改革に取り組んでいる。
磯村 幸太(いそむら こうた) 氏 パラレルプレナージャパン 理事
パラレルキャリアを実践しながら、研究者としてもパラレルキャリアの学習理論である越境学習を研究し、国際学会でベストペーパーを受賞。
磯村氏:皆さんの会社では複業などさまざまな越境活動にチャレンジされていますが、社内で活躍して欲しい人材像は変わってきているのでしょうか。
境氏:VUCA時代は自前主義から脱却して、「探す力」と「組み合わせる力」の2つを試す時代だと思っています。技術は常にアップデートされ、マーケティングもセオリー通りにならないので、「探す力」と「組み合わせる力」、そして仲間をリスペクトし共に創っていく気持ちが、変化の時代にとって大事だと考えています。
島田氏:「ひまな人」が人材像として大事だと思っています。「ひま」というのは余裕があり、良い意味で一歩引いて物事を見ているということ。「ひ」はひきだせる人のことで、相手の強み、物事の面白さや可能性を引き出すことができます。「ま」は前向きな人。毎日いろいろなことが起きるので愚痴を言ってもいいけど、最後は前を向いていけるかが大事。これはレジリエンスとも関係しています。
平松氏:「お客様と今後どうなりたいか? の仮説を立て、WHATを一緒に考え、実行できること」が求められると思います。それを多様なファンクションの人たちとコラボレーションして創っていく。優秀というより「この人の情熱、パーパス、パッションに共感する」と思ってもらえる、「人として魅力的な人」が必要ですね。そういう人材を育てる為には多様な経験と、その人のパーパスが何なのか、自分も、周りの人も、共有しながら仕事をすると、魅力的な人、組織ができると考えています。
磯村氏:求められる人物像がHOWを考え実行する人から、お客様にとって何が必要なのか(WHAT)を考え実行する人へと変わってきているということですね。これらの間には視座の違いを感じますが、これからはどのような視座で物事を考える必要がありますか?
平松氏:視座の高さは凄く大事です。富士通はパーパスを改めて策定し、視座として「社会貢献・社会の課題を解決する」と大きく打ち出しました。「パーパスを実現する各組織のビジョンは何か? 人を惹き付ける魅力的なビジョンになっているか?」を本気で考えています。その取り組みにより視座が上がっていくといいなと思っています。
境氏:視座と同時に、視界を拡げることも大事です。隣や目の前の人がどうなっているのかを見る感覚を大事にしないといけない。社内でも、「お互いのやっていることを知らない」という声を聞く機会が多かったこともあり、コロナ禍になってから、お客様の先で何が起きているかのヒアリングを実施しました。社内外のことに興味を持ってさまざまな人とつながり、我々がバリューとして何を提供できるかを考えることがとても大事だと実感しています。
磯村氏:求められる人材像について伺いましたが、複業などパラレルに活動する人材についてどう思いますか? また、企業の立場からは、どのような可能性や不安を感じますか?
島田氏:パラレルに活動する人に不安は全く感じないです。むしろワクワクしか感じないし、心から応援します。仮に複業に本業以上のパッションを感じるのであれば、そちらで生きていけばいいとも思います。
私は根本的に、組織が力を出し、売り上げや利益という結果を得るために必要なことは、個人の力を余すことなく発揮することだと思っています。カルフォルニア大学で教授を務めるSonja Lyubomirsky氏の研究によれば、ハッピーな人はそうじゃない人より生産性は30%、営業成績は37%高く、なんとイノベーションに必須な創造性は300%高いというリサーチ結果があります。
平松氏:越境する経験は成長機会として素晴らしいと思います。富士通では毎年600ある新任管理職ポジションの登用を、全て社内ポスティング制にしました。自分がやりたいポジションに手を挙げる、同時に良い人材に来てもらいたい組織は成長機会をアピールしないといけない。会社と社員、上司と部下の関係を変えていくことで、組織の力と個人の力を掛け算していく。自分のやりたい仕事をやることが、価値を一番発揮できることだと思うので、そういう環境を創っていきたいですね。
境氏:私も越境する人材に不安はあまりないです。社内外のいろいろなチャンスを知って、行動してもらうことが大事だと思っています。一方で、「企業は利益を生み出す器であり、ルーチンワークや事業計画を背負うものだから、自ら動くことはできない」と思っている人も多くいます。世界は広いけど、自分が毎日生きている世界は尊くもとても小さい。だから普段とは全然違う得意なことに挑戦している人などを、社内に沢山紹介することで「自分も何かできるのでは?」と思ってもらいたい。ここに越境人材の価値があります。
磯村氏:複業などの越境人材がいろいろな顔を持っているように、社員は多様な個性を持っています。社員の個性を発揮する職場づくりのために、どんなことを意識していますか?
平松氏:多様性に向き合う一番の原点は、個人の価値観、パーパス、強みと弱み、今後のありたい姿などに向き合う対話です。コロナ禍で在宅ワークになってから、定期的な1on1を実施し、その結果も定期的にサーベイしながらマネジメントしています。一般社員と課長の間だけでなく、課長と部長、部長と統轄部長など、上司と部下のすべてのレイヤーで向き合わないと変わらないと思っています。
境氏:私も1on1をやっています。越境活動をする人は会社への貢献意識も高いので離職しにくい一方で、越境になかなか踏み出せない、やってみたいけどまだできない人たちもいる。「恐れずやってみたら?」とその人たちの背中を押すことを、会社としてまだまだできていないと実感しています。新しい時代に合ったマインドを、会社に合う形で提供する必要があると思っています。
島田氏:心理的安全性の一言に尽きます。「ここでは何を言ってもよい、失敗も受け入れてもらえる」と思える場になる。そのためには1on1を単にやるだけではなく、「向き合って」対話する。つまりちゃんと「聴く」ことと、ちゃんと「伝える」ことが大事です。言いたい事は相手に伝わっているか確認する必要がある。なかなか難しいけど、まずは受け止めて認める、ねぎらいの言葉を言う、感謝の言葉を言う。こういう「Appreciative Inquiry(アプリシエイティブ・インクワイアリー)」ができると、個性や能力を十分に発揮できると思っています。
磯村氏:最後に、これから越境活動を通じて自分らしく働きたい方、もしくは既に越境活動をしていて本業でも活かしたいと思っている方などに、メッセージをお願いします。
境氏:もし社内で反対を受けたとき、周りの人と会社の人3人に、同じことを言ってみることを提案します。反対されるには何か理由があって、3人全員が首をかしげるならば、考え直した方がいい。誰か1人でも応援してくれるならば、ためらわずに自分を信じてアクションを起こしてもらえたら嬉しいです。一緒に頑張っていきましょう。
島田氏:私からの一言は「1mm動いたら必ず変わる」ということ。ちょっとでもいいから、自分のワクワクするポジティブな感情の方向に、とにかく1mmでも向かってみる。そうすると劇的に人生が良いように開けていきます。是非そんな風に考えていただけたらと思います。
平松氏:自分がワクワクすることに挑戦したくても、「会社が」とか「制度が」とか「上司が」とか、いろいろためらうことがあると思いますが、あきらめずに勇気をだして、自分の思いをぶつけると、意外とその思いは伝わります。その勇気が持てない時は、パラレルプレナージャパンに参加して勇気をわけてもらったら、いい方向に向かうと思います。おすすめです。笑
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