カスタムメイドのバーチャルリアリティ体験を構築する利点の1つは、普通の人には手の届かない、限界に挑戦するテクノロジーを組み込めることだ。
PwCのイノベーション人工知能(AI)および新興技術コンサルタンシー担当マネージングディレクターのDan Eckert氏は、「ロケーションベースの没入体験を提供するこれらの施設には、そうしたテクノロジーを導入して、人々にそれを試す機会を提供する資金力がある」と述べている。「スター・ウォーズ」のバーチャルなスキッフ(船型の飛行メカ)で溶岩に覆われた惑星を移動しているときに、熱や煙を出すために、特別な装置を自宅に作る人などいないだろう、とEckert氏は指摘した。しかし、一部のロケーションベースの体験施設なら可能だし、実際にやってもいる。
「Teslasuit」(Elon Musk氏とは無関係)は、「レディ・プレイヤー1」に登場する架空の触覚フィードバックスーツに近いものだ。Virtuixの「Omni」は、現実世界で1カ所にとどまりながら、仮想世界で自由に走り回ることを可能にする全方向性トレッドミルだが、すでに世界中の500カ所に出荷されているという。
「ロケーションベースのエンターテインメントは、消費者が購入するには高価すぎる最先端の没入型テクノロジーの実験場だ」(Bye氏)
筆者の個人的なお気に入りの1つは、2016年のトライベッカ映画祭で一度だけ見たことのある呼吸測定ベルトだ。別世界のような水中のVR環境で行きたい方向に視線を向け、呼吸をして前に進む。移動距離は、呼吸の深さによって決まる。この穏やかなゲーム型ミッションによって、筆者は無意識のうちに瞑想のような深呼吸を繰り返していた。神経系の最も敏感な部分が穏やかになり、筆者は精神が沸き立つような禅の境地に達した。
これらの実験的な周辺機器は栄枯盛衰が激しい。VirtuixのOmniのようにVRアトラクションとして定着するものもあれば、筆者が体験した深呼吸ベルトのように消えていくものもある。しかし、それらは、メタバースの未来の可能性をいち早く体験する機会を与えてくれる。
ロケーションベースのエンターテインメント業界の専門家で、VirtuixやZero Latencyなどの企業に助言を与えた経験もあるBob Cooney氏は、「ロケーションベースのエンターテインメント業界で、VRはこれまで何度か現れては消えていったが、どれもVRの準備が整っていないことが原因だった」と述べた。Cooney氏によると、2019年頃に、VRはロケーションベースのエンターテインメントを手がける事業者の支持を得ることに成功し、採用が急増したという。
「その後、すべてが突然閉鎖された」
パンデミックのロックダウンにより、家庭での消費者向けVRの魅力が浮き彫りになった。現在では、「Oculus Quest」が消費者向けVRの代名詞的な存在となっている。外出したり、ほかの人と会ったりできなくなったとき、少し不快なVRヘッドセットを顔に装着しても、それほど愚かな感じはしなかった。VRヘッドセットは仮想空間での息抜きを提供し、ユーザーは遠く離れた土地に旅行したり、人々と密接に集まる感覚を疑似的に体験した。
IDCのリサーチディレクターであるRamon T. Llamas氏の推定によると、パンデミック前の2019年、米国では180万台のVRヘッドセットが出荷されたという。2020年には、パンデミックによる需要増とサプライチェーンの制約が同時に発生する中で、出荷台数は280万台に増加した。2021年には、生産が回復してきたこともあって、出荷台数は2倍以上の570万台に拡大した。
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