和をテーマにした趣味のいいインテリア。街を一望できる、見事な眺望。エレベーター完備。高級マンションの最上階の部屋を見学した“Clerkclirk”氏は、すぐに購入を決意した。同氏はこの界隈を気に入り、さらに70もの物件を購入した。
こうした物件に同氏がつぎ込んだ資金は合わせて9万2000ドル(約1100万円)に上る。といっても、この31歳のインドネシア人投機家は不動産王ではなく、購入した好立地のマンションも一般的な意味での不動産ではない。これらはすべて「Worldwide Webb」のメタバース――つまり、サーバーに格納された仮想世界のデジタル区画だ。
購入した物件が値上がりすれば売るつもりだ、とClerkclirk氏は言う。「チャンスは見過ごせない」。メタバースで活動している多くのトレーダーと同様に、同氏も本名は明かさなかった。
今、Worldwide Webbなどのメタバースでは仮想不動産の価格が高騰している。2021年6月にはメタバース投資会社のRepublic Realmが、別のメタバース「Decentraland」の区画を当時としては破格の91万3000ドル(約1億1000万円)で取得した。その半年後、同社はゲーム会社のAtariから、さらに別のメタバース「Sandbox」の土地を792区画分購入した。購入総額は423万ドル(約5億2000万円)――目を疑うような金額だ。
メタバースの概念は何十年も前から存在する。最も古いメタバースの例は、2000年代に誕生した仮想空間の「セカンドライフ」だ。最近では、建築要素のあるビデオゲーム「フォートナイト」や、同じくビデオゲームの「Roblox」「マインクラフト」といった新しいメタバースも誕生している。メタバースとは、基本的には会議やゲーム、交流のために作られ共有されている、永続的なデジタル空間だ。いずれは多くのメタバースが相互接続されるようになると考える人もいれば、デジタル世界は接続されず、同時並行的に存在すると考える人もいる。
Facebookの最高経営責任者(CEO)Mark Zuckerberg氏が社名をMetaに変更すると発表すると、メタバースは再び注目を集め、関心は一気に広まった。この社名変更は、このシリコンバレーの巨人がソーシャルメディアに続き、メタバースでも覇権を握ろうとしていることを示している。3月に開催された「South By Southwest(SXSW)」や「Game Developers Conference」といった業界の最先端を伝えるカンファレンスでも、メタバースをテーマにしたセッションが数多く行われた。
近年はブロックチェーンのような分散型台帳技術の発展により、Clerkclirk氏のようにユーザーが仮想の土地を気軽に購入できるメタバースが次々に生まれている。デジタル資産の所有権を示すNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)はブロックチェーン上に記録されており、転売も可能だ。
メタベースの代表的な例としては、2017年に誕生したDecentralandと、その2年後に彗星のように現れたSandboxが挙げられるが、今では毎月のように新たな仮想空間が生まれている。Clerkclirk氏がペントハウスを購入したWorldwide Webbも4カ月前に誕生したばかりだ。
Worldwide Webbの広報担当者は、このメタバースの魅力を「相互運用性とアクセシビリティー」と説明する。ここで言う相互運用性は、Worldwide Webbが30万以上のNFTに対応し、ユーザーは所有するNFTをワールド内でアバターとして利用できることを意味する。また、Worldwide Webbの2DグラフィックはたいていのPCやスマートフォンで滑らかに動く。Worldwide Webbで起きている土地バブルは投機目的のユーザーによるものかとたずねると、広報担当者は「市場を動かしている要因はいろいろあり、1つには絞れない」と答えた。Decentralandにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。
Clerkclirk氏はブロックチェーンを活用したメタバースに早くから注目した。2017年に500ドル分のビットコインを購入した同氏は、$Landという仮想通貨に出会う。同氏はすぐに$LandがDecentralandという仮想世界の通貨であること、Decentralandが世界で初めて仮想の土地の所有権をユーザーに売ろうとしていることを知った。そこには9万の区画があり、各区画はイーサリアムブロックチェーンにNFTとして記録されている。
Decentralandの土地は需給バランスが崩れている、とClerkclirk氏は感じた。限られた数の区画に仮想通貨の初心者が殺到すれば、ビットコインもDecentralandの区画も値上がりするはずだ。この読みは当たった。
同氏が500ドル分のビットコインで行った投資は、3カ月後にはおよそ2万ドルの価値を持つようになった。同氏は今も定期的にメタバースの不動産に投資している。Worldwide Webbのペントハウスはその1つだ。もっとも、自身は仮想世界の可能性を確信しているわけではない。
「人間は本当に1日の大半をメタバースで過ごすようになるのだろうか」と、同氏はいぶかしむ。
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